俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

文字の大きさ
上 下
255 / 317
第4章 砂漠陰謀編

66.剣聖の深淵

しおりを挟む
「おっかないなあ、もう!」

「なっ!?」

 勝利を確信した俺であったが、ベナミスの身体が忽然と消える。
 一瞬、周囲の景色がずらされたかのような違和感に襲われ、足元が酔っぱらいみたいにふらついてしまう。

「自分と相手の位置を入れ替える魔具【船櫂同異テセウス】」

「っ!?」

 背後からベナミスの声が響く。俺はとっさに振り返り、横薙ぎに剣を振るった。
 やはり背後にいたベナミスも剣を抜いて斬りかかってきており、二つの剣が激しく衝突する。

「武器に炎を纏わせる魔具【武具焚火ウルカヌス】」

「なっ!?」

 ベナミスの剣が螺旋状に渦巻く炎に覆われて、ぶつかった剣ごと俺の手を焼こうとする。
 とっさに【無敵鋼鉄】を発動させて魔法の炎を消しさるが、ひるんだ一瞬の隙にベナミスが懐へと入り込んできた。

「かすり傷で相手を殺す魔具【毒槍騎士サブノック】」

「ぐっ・・・!」

 ベナミスはいつの間にか左手に持っていた短剣を、俺の胸へめがけて突き刺してきた。
 反射的に身体をよじったおかげで薄皮一枚を斬られただけだったが、その小さな傷口が燃えるような熱をもってじわじわと広がっていく。
    焼きごてを押し付けられたような激痛に、俺は大きく表情を歪ませる。

「厄介なことを・・・【無敵鋼鉄】!」

 それが魔具の力によるものだと即座に気づき、右手の愛剣を傷口にあてがう。
 すると、まるで毒が抜けたように斬られた箇所から熱が抜けていき、それ以上に傷が大きくなることはなくなった。

「その剣、ずるいなあ。魔具の力を打ち消すとか、僕と相性最悪じゃないですか!」

「ビックリ箱みたいに魔具を出してきやがる奴に言われたくねえよ! それだけの魔具、どうやって集めた!?」

 飄々と言ってくるベナミスに怒声を返す。
 先ほど斬りかかった際、ベナミスは一瞬で俺の後方へと移動した。その瞬間に左手に嵌めていた腕輪が光を放っていたのを見逃さなかった。あれが【船櫂同異】。
 ベナミスの剣が炎を纏う、その炎はヤツが人差し指に着けている指輪から放たれていた。あれが【武具焚火】。
 そして――左右の手にそれぞれ持っている長剣と短剣。【流延毒蛇】と【毒槍騎士】。
 魔具というのは古代の神々が生み出した伝説の武具である。その一つ一つが金貨数百枚から数千枚の値段がつくものだ。
 それを同時に四つも入手するなど、いくら中央貴族の雄といえども容易くできることではなかった。

「四つ・・・それはどうでしょうね。ひょっとしたらもっとあるかもしれませんよ?」

 俺の詰問を受けて、ベナミスは苦笑で答えた。
 目の前の敵は明らかに隙だらけ。本来であれば一刀のもとに斬り伏せられる程度の相手である。しかし、他の魔具の存在をちらつかせられると、うかつに斬り込むことはできなかった。
 俺は剣先をベナミスに向けたまま、注意深くその全身を観察する。

「若殿! 助太刀するのである!」

 俺が苦戦しているのを見て取り、マッサーブを拘束していた『鋼牙』の二人。オボロとその部下がベナミスの背後へと回り込んだ。二人の手には暗殺用のナイフが握られている。

「うわあ、卑怯者とか言ったら怒ります?」

「別に怒らねえよ。今の戦いぶりを見て確信した。やっぱりお前はここで殺す」

「怖いなあ・・・でも、この展開は好都合ですね」

「なに?」

 ベナミスの身体が再び消える。代わりに奴がいた場所に現れたのは、毒の刃で命を落としたナーヒブ・マッサーブの骸であった。

「チッ・・・やられた!」

 俺はベナミスの狙いに気がつき、牙を剥いて叫んだ。
 マッサーブの死体があった場所に目を向けると、そこにはあの白豚貴族が持ち出そうとしていたカバンを携えたベナミスの姿があった。

「こちらの品はいただいていきますよ? 我々がこの件に関与したという証拠を渡すわけにはいきませんから。【雲踏旅人ラファエル】」

 申し訳なさそうに言い捨てて、ベナミスは軽々と飛ぶようにして空へと浮かび上がる。その頭上には天使の輪のような光輪が浮かんでいた。

「しまったのである!」

「そ、空を飛ぶ魔具・・・!?」

『鋼牙』の二人が愕然と叫ぶ。
 証人であるナーヒブ・マッサーブを殺害されて、おまけに証拠の品は持ち去られる。絵にかいたような大敗である。

「悪いが・・・俺はとんでもなく負けず嫌いなんだよ」

豪腕英傑ヘラクレス】—―『天主帝釈モード・インドラ

 俺は己の切り札ともいえる技を発動させた。
 右手の腕輪から莫大量の金光が放たれて、俺の身体を包み込む。

「お前はここで殺す・・・そう言っただろうが!」

「って、わああああああっ!?」

 俺はその力のすべてを剣に込めて、金色の斬撃を放った。
 不死身の魔人でさえも打ち砕いた光線が、宙空を舞うベナミスを津波のように飲み込んだ。

しおりを挟む
感想 1,043

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。