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第4章 砂漠陰謀編
66.剣聖の深淵
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「おっかないなあ、もう!」
「なっ!?」
勝利を確信した俺であったが、ベナミスの身体が忽然と消える。
一瞬、周囲の景色がずらされたかのような違和感に襲われ、足元が酔っぱらいみたいにふらついてしまう。
「自分と相手の位置を入れ替える魔具【船櫂同異】」
「っ!?」
背後からベナミスの声が響く。俺はとっさに振り返り、横薙ぎに剣を振るった。
やはり背後にいたベナミスも剣を抜いて斬りかかってきており、二つの剣が激しく衝突する。
「武器に炎を纏わせる魔具【武具焚火】」
「なっ!?」
ベナミスの剣が螺旋状に渦巻く炎に覆われて、ぶつかった剣ごと俺の手を焼こうとする。
とっさに【無敵鋼鉄】を発動させて魔法の炎を消しさるが、ひるんだ一瞬の隙にベナミスが懐へと入り込んできた。
「かすり傷で相手を殺す魔具【毒槍騎士】」
「ぐっ・・・!」
ベナミスはいつの間にか左手に持っていた短剣を、俺の胸へめがけて突き刺してきた。
反射的に身体をよじったおかげで薄皮一枚を斬られただけだったが、その小さな傷口が燃えるような熱をもってじわじわと広がっていく。
焼きごてを押し付けられたような激痛に、俺は大きく表情を歪ませる。
「厄介なことを・・・【無敵鋼鉄】!」
それが魔具の力によるものだと即座に気づき、右手の愛剣を傷口にあてがう。
すると、まるで毒が抜けたように斬られた箇所から熱が抜けていき、それ以上に傷が大きくなることはなくなった。
「その剣、ずるいなあ。魔具の力を打ち消すとか、僕と相性最悪じゃないですか!」
「ビックリ箱みたいに魔具を出してきやがる奴に言われたくねえよ! それだけの魔具、どうやって集めた!?」
飄々と言ってくるベナミスに怒声を返す。
先ほど斬りかかった際、ベナミスは一瞬で俺の後方へと移動した。その瞬間に左手に嵌めていた腕輪が光を放っていたのを見逃さなかった。あれが【船櫂同異】。
ベナミスの剣が炎を纏う、その炎はヤツが人差し指に着けている指輪から放たれていた。あれが【武具焚火】。
そして――左右の手にそれぞれ持っている長剣と短剣。【流延毒蛇】と【毒槍騎士】。
魔具というのは古代の神々が生み出した伝説の武具である。その一つ一つが金貨数百枚から数千枚の値段がつくものだ。
それを同時に四つも入手するなど、いくら中央貴族の雄といえども容易くできることではなかった。
「四つ・・・それはどうでしょうね。ひょっとしたらもっとあるかもしれませんよ?」
俺の詰問を受けて、ベナミスは苦笑で答えた。
目の前の敵は明らかに隙だらけ。本来であれば一刀のもとに斬り伏せられる程度の相手である。しかし、他の魔具の存在をちらつかせられると、うかつに斬り込むことはできなかった。
俺は剣先をベナミスに向けたまま、注意深くその全身を観察する。
「若殿! 助太刀するのである!」
俺が苦戦しているのを見て取り、マッサーブを拘束していた『鋼牙』の二人。オボロとその部下がベナミスの背後へと回り込んだ。二人の手には暗殺用のナイフが握られている。
「うわあ、卑怯者とか言ったら怒ります?」
「別に怒らねえよ。今の戦いぶりを見て確信した。やっぱりお前はここで殺す」
「怖いなあ・・・でも、この展開は好都合ですね」
「なに?」
ベナミスの身体が再び消える。代わりに奴がいた場所に現れたのは、毒の刃で命を落としたナーヒブ・マッサーブの骸であった。
「チッ・・・やられた!」
俺はベナミスの狙いに気がつき、牙を剥いて叫んだ。
マッサーブの死体があった場所に目を向けると、そこにはあの白豚貴族が持ち出そうとしていたカバンを携えたベナミスの姿があった。
「こちらの品はいただいていきますよ? 我々がこの件に関与したという証拠を渡すわけにはいきませんから。【雲踏旅人】」
申し訳なさそうに言い捨てて、ベナミスは軽々と飛ぶようにして空へと浮かび上がる。その頭上には天使の輪のような光輪が浮かんでいた。
「しまったのである!」
「そ、空を飛ぶ魔具・・・!?」
『鋼牙』の二人が愕然と叫ぶ。
証人であるナーヒブ・マッサーブを殺害されて、おまけに証拠の品は持ち去られる。絵にかいたような大敗である。
「悪いが・・・俺はとんでもなく負けず嫌いなんだよ」
【豪腕英傑】—―『天主帝釈』
俺は己の切り札ともいえる技を発動させた。
右手の腕輪から莫大量の金光が放たれて、俺の身体を包み込む。
「お前はここで殺す・・・そう言っただろうが!」
「って、わああああああっ!?」
俺はその力のすべてを剣に込めて、金色の斬撃を放った。
不死身の魔人でさえも打ち砕いた光線が、宙空を舞うベナミスを津波のように飲み込んだ。
「なっ!?」
勝利を確信した俺であったが、ベナミスの身体が忽然と消える。
一瞬、周囲の景色がずらされたかのような違和感に襲われ、足元が酔っぱらいみたいにふらついてしまう。
「自分と相手の位置を入れ替える魔具【船櫂同異】」
「っ!?」
背後からベナミスの声が響く。俺はとっさに振り返り、横薙ぎに剣を振るった。
やはり背後にいたベナミスも剣を抜いて斬りかかってきており、二つの剣が激しく衝突する。
「武器に炎を纏わせる魔具【武具焚火】」
「なっ!?」
ベナミスの剣が螺旋状に渦巻く炎に覆われて、ぶつかった剣ごと俺の手を焼こうとする。
とっさに【無敵鋼鉄】を発動させて魔法の炎を消しさるが、ひるんだ一瞬の隙にベナミスが懐へと入り込んできた。
「かすり傷で相手を殺す魔具【毒槍騎士】」
「ぐっ・・・!」
ベナミスはいつの間にか左手に持っていた短剣を、俺の胸へめがけて突き刺してきた。
反射的に身体をよじったおかげで薄皮一枚を斬られただけだったが、その小さな傷口が燃えるような熱をもってじわじわと広がっていく。
焼きごてを押し付けられたような激痛に、俺は大きく表情を歪ませる。
「厄介なことを・・・【無敵鋼鉄】!」
それが魔具の力によるものだと即座に気づき、右手の愛剣を傷口にあてがう。
すると、まるで毒が抜けたように斬られた箇所から熱が抜けていき、それ以上に傷が大きくなることはなくなった。
「その剣、ずるいなあ。魔具の力を打ち消すとか、僕と相性最悪じゃないですか!」
「ビックリ箱みたいに魔具を出してきやがる奴に言われたくねえよ! それだけの魔具、どうやって集めた!?」
飄々と言ってくるベナミスに怒声を返す。
先ほど斬りかかった際、ベナミスは一瞬で俺の後方へと移動した。その瞬間に左手に嵌めていた腕輪が光を放っていたのを見逃さなかった。あれが【船櫂同異】。
ベナミスの剣が炎を纏う、その炎はヤツが人差し指に着けている指輪から放たれていた。あれが【武具焚火】。
そして――左右の手にそれぞれ持っている長剣と短剣。【流延毒蛇】と【毒槍騎士】。
魔具というのは古代の神々が生み出した伝説の武具である。その一つ一つが金貨数百枚から数千枚の値段がつくものだ。
それを同時に四つも入手するなど、いくら中央貴族の雄といえども容易くできることではなかった。
「四つ・・・それはどうでしょうね。ひょっとしたらもっとあるかもしれませんよ?」
俺の詰問を受けて、ベナミスは苦笑で答えた。
目の前の敵は明らかに隙だらけ。本来であれば一刀のもとに斬り伏せられる程度の相手である。しかし、他の魔具の存在をちらつかせられると、うかつに斬り込むことはできなかった。
俺は剣先をベナミスに向けたまま、注意深くその全身を観察する。
「若殿! 助太刀するのである!」
俺が苦戦しているのを見て取り、マッサーブを拘束していた『鋼牙』の二人。オボロとその部下がベナミスの背後へと回り込んだ。二人の手には暗殺用のナイフが握られている。
「うわあ、卑怯者とか言ったら怒ります?」
「別に怒らねえよ。今の戦いぶりを見て確信した。やっぱりお前はここで殺す」
「怖いなあ・・・でも、この展開は好都合ですね」
「なに?」
ベナミスの身体が再び消える。代わりに奴がいた場所に現れたのは、毒の刃で命を落としたナーヒブ・マッサーブの骸であった。
「チッ・・・やられた!」
俺はベナミスの狙いに気がつき、牙を剥いて叫んだ。
マッサーブの死体があった場所に目を向けると、そこにはあの白豚貴族が持ち出そうとしていたカバンを携えたベナミスの姿があった。
「こちらの品はいただいていきますよ? 我々がこの件に関与したという証拠を渡すわけにはいきませんから。【雲踏旅人】」
申し訳なさそうに言い捨てて、ベナミスは軽々と飛ぶようにして空へと浮かび上がる。その頭上には天使の輪のような光輪が浮かんでいた。
「しまったのである!」
「そ、空を飛ぶ魔具・・・!?」
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証人であるナーヒブ・マッサーブを殺害されて、おまけに証拠の品は持ち去られる。絵にかいたような大敗である。
「悪いが・・・俺はとんでもなく負けず嫌いなんだよ」
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右手の腕輪から莫大量の金光が放たれて、俺の身体を包み込む。
「お前はここで殺す・・・そう言っただろうが!」
「って、わああああああっ!?」
俺はその力のすべてを剣に込めて、金色の斬撃を放った。
不死身の魔人でさえも打ち砕いた光線が、宙空を舞うベナミスを津波のように飲み込んだ。
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