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第4章 砂漠陰謀編
60.帰還と涙のサンドイッチ
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それから俺は『死者の都』の中を探索して、帰路の旅路に必要な食料や物資を集めた。
また『天主帝釈』を使って一気に砂漠を踏破してもいいのだが、あれは寿命の消耗も著しいため、使わずに済むのであればそうしたかったのだ。
どうやら『恐怖の軍勢』が狙うのは人間だけのようで、かつてこの国で飼われていた家畜の子孫は、のんびりと大河流域に生える草を食んでいた。
俺は捕まえたニワトリを絞めて肉を燻して保存食にして、河から汲んだ水を建物の中で見つけた革袋へと詰めた。
そして、同じく捕まえた背中にコブのある奇妙な獣・・・本で読んだ知識では「ラクダ」とかいった動物の背中にまたがり、ランペルージ王国を目指して砂漠へと踏み込んだ。
魔具の力を使って強引に踏破したときと違い、今度は自力での旅路である。
砂漠の昼は灼熱のごとく暑さとなり、夜は凍えるような寒さとなる。なかなかに過酷な帰り道である。
幸いなのは、旅の同行者であるネフェルティナが不死者であり、熱も寒さも動じることはなかったということだろうか。
俺も完全ではないものの、半分は不死である。常人と比べるといくらか環境の変化には強いつもりだ。
五日ほどかかってしまったが、なんとか俺はギザ要塞にたどり着くことができた。
「ディンギルさまあああああああっ!」
「ぐふっ!?」
ギザ要塞に到着した俺は、要塞の兵士に貸してもらった馬に乗り換えて領都テーベへと帰還した。
テーベにたどり着いた俺を迎えたのは、この都の主の娘ナーム・スフィンクスの体当たりである。
砂漠を旅してきたせいでそれなりに消耗をしているところに、実によいボディブローを食らってしまった。
「ディンギルさま、ディンギルさま、ディンギルさまあああああああっ!」
「あー・・・わかったわかった、心配かけて悪かったな」
俺は腕の中の少女の頭をぞんざいな手つきで撫でた。
俺の胸にひたすら顔をこすりつけながら泣き喚いているナームは、まるで何年も離れ離れになっていた主人と再会した忠犬のようである。
微笑ましいと笑うべきなのか、一張羅の服を鼻水でグチャグチャにされたことを嘆くべきなのか、迷うところである。
困り果てた俺の前へと、同じく留守番を任せていたサクヤがやってきた。俺はようやく少女の抱擁から解放されることに安堵の息をついた。
「ああ、サクヤ。悪いんだがナームちゃんを・・・」
「ディンギル様あああああああっ!」
「お前もかっ!?」
サクヤが地面を蹴って飛び込んできた。
かと思えば、身軽な動きでクルリと背中側に回って腕で首を絞めてくる。
「ぐうっ・・・ちょ、サクヤ!?」
「随分とゆっくりしたお帰りですね、ディンギル様。予定よりもずいぶんと遅いようですが?」
「それは・・・ちょっと砂漠へ・・・」
「兄から聞いております。なんでも『恐怖の軍勢』を生み出している元凶を叩きに行ったとか・・・たった、お一人でっ!」
「ぐ、うぎぎぎぎぎっ・・・!」
暗殺者であるサクヤは人体の構造や急所を知り尽くしている。
しなやかな四肢を使って巧みに俺の関節を極めて、容赦なく身体を絞りにかかってくる。
もしも生半可な鍛え方しかしていない人間であれば、全身の関節という関節が破壊されたであろう攻撃である。
密偵であり暗殺者であるサクヤは、日常生活でもときおり他者に暴行をくわえるときがある。しかし、その主な標的は兄のオボロであり、俺に対して苛烈な攻撃を加えるのは実を言うとかなり珍しい。それほどまでに俺の独断専行が頭にきているということだろうか。
「いくらディンギル様が無双の剣士とはいえ、万が一ということがございます。遠征するのでしたら、私をお供に連れていくのが道理というものではないでしょうか?」
「ぐうっ・・・す、すまない。悪かった。心配をかけた・・・」
「はい・・・心配しました。とてもとても」
身体を絞めつけていたサクヤの手足から力が抜ける。一変して、優しい手つきで頭を後ろから抱きしめてくる。
「・・・もう二度と、このようなことはなさらないでください」
「・・・悪かった」
背後にいるため顔を見ることはできないが、サクヤがどんな表情を浮かべているのかはなんとなく想像できた。
俺は言い訳することなく、素直に謝罪の言葉を口にする。
それから十分ほど、前にナーム、後ろにサクヤという美少女のサンドイッチを甘んじて受けていたが、ようやく気が済んだのかサクヤが俺の頭部を開放する。
一歩離れた時には、サクヤはすっかりいつも通りのクールな顔つきに戻っていた。
「ナームちゃんは・・・仕方がないな」
俺の腕の中、ナームは二度と離れまいとシャツの胸元を握り締めている。離れてくれとお願いしても徒労に終わりそうである。
「辺境伯殿への報告はまた明日だな・・・とりあえず、俺は帰って寝ることにするよ」
「かしこまりました。ベッドの用意はできておりますので、どうぞこちらへ」
サクヤが俺の前に立って先導して、俺達はスフィンクス家から借り受けている屋敷へと帰り着いた。
この屋敷で暮らしていたのはわずかな間だが、妙にほっとした気持ちになってしまう。
「大将だ! みんな、大将が帰ってきたぞ!」
「ご無事で何よりです、我らが大将!」
「お帰りなさい、軍曹殿!」
屋敷の庭で訓練をしていた冒険者達が、俺の姿を見て駆け寄ってくる。
会ったばかりの頃は険悪な態度であった冒険者達であったが、今ではすっかり俺の部下として振る舞いが板についている。
「軍曹と呼ぶなって言っただろうが・・・まったく」
すっかり屋敷に居ついてしまった彼らの顔を順繰りに見て、俺は呆れかえって肩をすくめるのであった。
また『天主帝釈』を使って一気に砂漠を踏破してもいいのだが、あれは寿命の消耗も著しいため、使わずに済むのであればそうしたかったのだ。
どうやら『恐怖の軍勢』が狙うのは人間だけのようで、かつてこの国で飼われていた家畜の子孫は、のんびりと大河流域に生える草を食んでいた。
俺は捕まえたニワトリを絞めて肉を燻して保存食にして、河から汲んだ水を建物の中で見つけた革袋へと詰めた。
そして、同じく捕まえた背中にコブのある奇妙な獣・・・本で読んだ知識では「ラクダ」とかいった動物の背中にまたがり、ランペルージ王国を目指して砂漠へと踏み込んだ。
魔具の力を使って強引に踏破したときと違い、今度は自力での旅路である。
砂漠の昼は灼熱のごとく暑さとなり、夜は凍えるような寒さとなる。なかなかに過酷な帰り道である。
幸いなのは、旅の同行者であるネフェルティナが不死者であり、熱も寒さも動じることはなかったということだろうか。
俺も完全ではないものの、半分は不死である。常人と比べるといくらか環境の変化には強いつもりだ。
五日ほどかかってしまったが、なんとか俺はギザ要塞にたどり着くことができた。
「ディンギルさまあああああああっ!」
「ぐふっ!?」
ギザ要塞に到着した俺は、要塞の兵士に貸してもらった馬に乗り換えて領都テーベへと帰還した。
テーベにたどり着いた俺を迎えたのは、この都の主の娘ナーム・スフィンクスの体当たりである。
砂漠を旅してきたせいでそれなりに消耗をしているところに、実によいボディブローを食らってしまった。
「ディンギルさま、ディンギルさま、ディンギルさまあああああああっ!」
「あー・・・わかったわかった、心配かけて悪かったな」
俺は腕の中の少女の頭をぞんざいな手つきで撫でた。
俺の胸にひたすら顔をこすりつけながら泣き喚いているナームは、まるで何年も離れ離れになっていた主人と再会した忠犬のようである。
微笑ましいと笑うべきなのか、一張羅の服を鼻水でグチャグチャにされたことを嘆くべきなのか、迷うところである。
困り果てた俺の前へと、同じく留守番を任せていたサクヤがやってきた。俺はようやく少女の抱擁から解放されることに安堵の息をついた。
「ああ、サクヤ。悪いんだがナームちゃんを・・・」
「ディンギル様あああああああっ!」
「お前もかっ!?」
サクヤが地面を蹴って飛び込んできた。
かと思えば、身軽な動きでクルリと背中側に回って腕で首を絞めてくる。
「ぐうっ・・・ちょ、サクヤ!?」
「随分とゆっくりしたお帰りですね、ディンギル様。予定よりもずいぶんと遅いようですが?」
「それは・・・ちょっと砂漠へ・・・」
「兄から聞いております。なんでも『恐怖の軍勢』を生み出している元凶を叩きに行ったとか・・・たった、お一人でっ!」
「ぐ、うぎぎぎぎぎっ・・・!」
暗殺者であるサクヤは人体の構造や急所を知り尽くしている。
しなやかな四肢を使って巧みに俺の関節を極めて、容赦なく身体を絞りにかかってくる。
もしも生半可な鍛え方しかしていない人間であれば、全身の関節という関節が破壊されたであろう攻撃である。
密偵であり暗殺者であるサクヤは、日常生活でもときおり他者に暴行をくわえるときがある。しかし、その主な標的は兄のオボロであり、俺に対して苛烈な攻撃を加えるのは実を言うとかなり珍しい。それほどまでに俺の独断専行が頭にきているということだろうか。
「いくらディンギル様が無双の剣士とはいえ、万が一ということがございます。遠征するのでしたら、私をお供に連れていくのが道理というものではないでしょうか?」
「ぐうっ・・・す、すまない。悪かった。心配をかけた・・・」
「はい・・・心配しました。とてもとても」
身体を絞めつけていたサクヤの手足から力が抜ける。一変して、優しい手つきで頭を後ろから抱きしめてくる。
「・・・もう二度と、このようなことはなさらないでください」
「・・・悪かった」
背後にいるため顔を見ることはできないが、サクヤがどんな表情を浮かべているのかはなんとなく想像できた。
俺は言い訳することなく、素直に謝罪の言葉を口にする。
それから十分ほど、前にナーム、後ろにサクヤという美少女のサンドイッチを甘んじて受けていたが、ようやく気が済んだのかサクヤが俺の頭部を開放する。
一歩離れた時には、サクヤはすっかりいつも通りのクールな顔つきに戻っていた。
「ナームちゃんは・・・仕方がないな」
俺の腕の中、ナームは二度と離れまいとシャツの胸元を握り締めている。離れてくれとお願いしても徒労に終わりそうである。
「辺境伯殿への報告はまた明日だな・・・とりあえず、俺は帰って寝ることにするよ」
「かしこまりました。ベッドの用意はできておりますので、どうぞこちらへ」
サクヤが俺の前に立って先導して、俺達はスフィンクス家から借り受けている屋敷へと帰り着いた。
この屋敷で暮らしていたのはわずかな間だが、妙にほっとした気持ちになってしまう。
「大将だ! みんな、大将が帰ってきたぞ!」
「ご無事で何よりです、我らが大将!」
「お帰りなさい、軍曹殿!」
屋敷の庭で訓練をしていた冒険者達が、俺の姿を見て駆け寄ってくる。
会ったばかりの頃は険悪な態度であった冒険者達であったが、今ではすっかり俺の部下として振る舞いが板についている。
「軍曹と呼ぶなって言っただろうが・・・まったく」
すっかり屋敷に居ついてしまった彼らの顔を順繰りに見て、俺は呆れかえって肩をすくめるのであった。
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