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第4章 砂漠陰謀編
59.激闘の戦利品
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邪神ニャルラトホテプの身体が崩れ落ちて灰になる。
右手の剣が脈動を止めて、滅ぼすべき邪神が討滅されたことを告げてくる。
「・・・終わったか」
俺はネフェルティナの胸から剣を引き抜いた。
身体に寄生していた邪神から解き放たれて、少女の身体が前のめりになって玉座から転げ落ちる。
俺は彼女の身体を抱き止めて、胸の傷口へと目を向けた。
心臓と肺をギリギリで避けて突き刺したつもりだが、それでも『無敵鉄鋼』によって穿たれた裂傷からは真っ赤な血が溢れ出ている。
「回復アイテムがあって助かったな。これくらいなら余裕で治療できそうだ」
俺は腕にはめられた銀色の腕輪を撫でて、ネフェルティナの胸に手をかざす。
以前、戦場で兵士達に腕輪の力を分け与えた時のように、彼女の胸を治癒しようとする。
「ん・・・これは・・・?」
しかし、俺が【豪腕英傑】を発動させるよりも先に、みるみるうちにネフェルティナのケガがふさがっていく。
まるで時間を逆戻しにしたような光景に、俺は息を飲んで目を見開いた。
「・・・そうか。君もすでに踏み込んでいたんだな、不死者の領域に」
考えてもみれば、それは当然のことかもしれない。
ネフェルティナは百年前にこの国に生きていた過去の人物。それが現在まで生存しているはずがないのだ。
彼女もまた、邪神によって呪いをかけられて不老不死の肉体を与えられていたのだ。
俺の母であるグレイスや、キャプテン・ドレークのように。
「やれやれ、まいったな。この子の処遇、どうすればいい?」
後先考えずに勢いで助けてしまったが、よくよく考えてもみれば、俺にネフェルティナを助けなければならない義務はない。
それどころか、彼女は『恐怖の軍勢』を生み出した元凶だ。邪神に操られていたからと言って、無罪放免になるにはあまりにも人を殺しすぎている。
「さて・・・どうしたものかなあ」
俺は腕の中のネフェルティナの黒い髪を撫でて、頬をつついたりしてみる。
不躾に身体を触られているにもかかわらず、少女に反応はない。魔具に心をすべて食い尽くされてしまったのか、瞬き一つしなかった。
「まるで魂が抜け落ちたみたいだな。もうちょっと反応があったらいろいろと楽しみもあるんだが・・・・・・ん?」
少女の首に掛けられていた【黄泉鍵杖】がボロボロと音を立てて砕け散った。百年以上にもわたって酷使されて、限界を超えてしまったのだろうか。
粉々になった金細工の首飾り。その中央に嵌められていた赤い宝石の残骸を見下ろして、俺は長い息を吐いた。
「お前は・・・助けたかったのか? ネフェルティナのことを、開放してやりたかったのか?」
思い返してみれば、この魔具によって見せられた幻影は、邪神の存在を告げてネフェルティナを殺さないように守るためのものだった。
【無敵鉄鋼】がそうであるように一部の魔具は意志を持っているというが、この首飾りに宿った意志はネフェルティナを救おうとしていたのかもしれない。
「・・・わかったよ。お前に免じてこの子のことは悪いようにはしない。しばらくの間だったら、面倒を見てやる」
そこから先は知らないけどな――そういい捨てて、俺はネフェルティナの身体を抱き上げた。
もはやこの神殿に用はない。あるとすれば、この部屋にある財宝の回収くらいだ。
「そのあたりはスフィンクス家にやってもらおうか。さすがにこれだけの財宝を運ぶのは面倒だからな」
この部屋にある財宝を売り捌けば、ランペルージ王国の国家予算をはるかに超える金額になるだろう。
仮に半分を俺がもらい受けたとしても、残った半分だけで一連の騒動による損害を補って余りある復興費用になるはずだ。
失われた人命は金で買い戻すことはできない。それでも遺族への見舞い金や、滅ぼされた村や町の立て直し、砦の修復は可能になる。
「そうと決まれば、さっさとおさらばだな。お持ち帰り・・・と言うには、ずいぶんと色気がないが」
ネフェルティナは人形のようにされるがままで、抱きかかえられてもまだ身じろぎ一つすることなく俺の腕に身体を預けている。
「戦利品は目もくらむような財宝と、不感症の女一人。苦労と釣り合っているかどうかは微妙なところだな」
もっとも、『恐怖の軍勢』の脅威を永遠に消し去り、人類にあだなす邪神の一人を討ち取ることができたというのは、価値があることなのかもしれない。
俺は自嘲気味に笑って、神殿の外へと踏み出した。
【黄泉鍵杖】が破壊されたことで『死者の都』からはミイラの姿が消えており、無人の町の中を乾いた風が吹き抜ける。
顔にかかる砂塵に顔をしかめて、俺は空を見上げた。
頭上に広がる空はどこまでも澄み切っていて、青々とした大空を雲が流れていく。
「・・・枯れ木も山の賑わいか。乾ききったミイラでも、いなくなったら物寂しいもんだぜ」
『死者の都』はミイラ達が消えてもなお『死者の都』であったということだろうか。
俺はわずかに胸に生じた憂いの感情を溜息とともに吐き出して、ゆっくりと首を振った。
右手の剣が脈動を止めて、滅ぼすべき邪神が討滅されたことを告げてくる。
「・・・終わったか」
俺はネフェルティナの胸から剣を引き抜いた。
身体に寄生していた邪神から解き放たれて、少女の身体が前のめりになって玉座から転げ落ちる。
俺は彼女の身体を抱き止めて、胸の傷口へと目を向けた。
心臓と肺をギリギリで避けて突き刺したつもりだが、それでも『無敵鉄鋼』によって穿たれた裂傷からは真っ赤な血が溢れ出ている。
「回復アイテムがあって助かったな。これくらいなら余裕で治療できそうだ」
俺は腕にはめられた銀色の腕輪を撫でて、ネフェルティナの胸に手をかざす。
以前、戦場で兵士達に腕輪の力を分け与えた時のように、彼女の胸を治癒しようとする。
「ん・・・これは・・・?」
しかし、俺が【豪腕英傑】を発動させるよりも先に、みるみるうちにネフェルティナのケガがふさがっていく。
まるで時間を逆戻しにしたような光景に、俺は息を飲んで目を見開いた。
「・・・そうか。君もすでに踏み込んでいたんだな、不死者の領域に」
考えてもみれば、それは当然のことかもしれない。
ネフェルティナは百年前にこの国に生きていた過去の人物。それが現在まで生存しているはずがないのだ。
彼女もまた、邪神によって呪いをかけられて不老不死の肉体を与えられていたのだ。
俺の母であるグレイスや、キャプテン・ドレークのように。
「やれやれ、まいったな。この子の処遇、どうすればいい?」
後先考えずに勢いで助けてしまったが、よくよく考えてもみれば、俺にネフェルティナを助けなければならない義務はない。
それどころか、彼女は『恐怖の軍勢』を生み出した元凶だ。邪神に操られていたからと言って、無罪放免になるにはあまりにも人を殺しすぎている。
「さて・・・どうしたものかなあ」
俺は腕の中のネフェルティナの黒い髪を撫でて、頬をつついたりしてみる。
不躾に身体を触られているにもかかわらず、少女に反応はない。魔具に心をすべて食い尽くされてしまったのか、瞬き一つしなかった。
「まるで魂が抜け落ちたみたいだな。もうちょっと反応があったらいろいろと楽しみもあるんだが・・・・・・ん?」
少女の首に掛けられていた【黄泉鍵杖】がボロボロと音を立てて砕け散った。百年以上にもわたって酷使されて、限界を超えてしまったのだろうか。
粉々になった金細工の首飾り。その中央に嵌められていた赤い宝石の残骸を見下ろして、俺は長い息を吐いた。
「お前は・・・助けたかったのか? ネフェルティナのことを、開放してやりたかったのか?」
思い返してみれば、この魔具によって見せられた幻影は、邪神の存在を告げてネフェルティナを殺さないように守るためのものだった。
【無敵鉄鋼】がそうであるように一部の魔具は意志を持っているというが、この首飾りに宿った意志はネフェルティナを救おうとしていたのかもしれない。
「・・・わかったよ。お前に免じてこの子のことは悪いようにはしない。しばらくの間だったら、面倒を見てやる」
そこから先は知らないけどな――そういい捨てて、俺はネフェルティナの身体を抱き上げた。
もはやこの神殿に用はない。あるとすれば、この部屋にある財宝の回収くらいだ。
「そのあたりはスフィンクス家にやってもらおうか。さすがにこれだけの財宝を運ぶのは面倒だからな」
この部屋にある財宝を売り捌けば、ランペルージ王国の国家予算をはるかに超える金額になるだろう。
仮に半分を俺がもらい受けたとしても、残った半分だけで一連の騒動による損害を補って余りある復興費用になるはずだ。
失われた人命は金で買い戻すことはできない。それでも遺族への見舞い金や、滅ぼされた村や町の立て直し、砦の修復は可能になる。
「そうと決まれば、さっさとおさらばだな。お持ち帰り・・・と言うには、ずいぶんと色気がないが」
ネフェルティナは人形のようにされるがままで、抱きかかえられてもまだ身じろぎ一つすることなく俺の腕に身体を預けている。
「戦利品は目もくらむような財宝と、不感症の女一人。苦労と釣り合っているかどうかは微妙なところだな」
もっとも、『恐怖の軍勢』の脅威を永遠に消し去り、人類にあだなす邪神の一人を討ち取ることができたというのは、価値があることなのかもしれない。
俺は自嘲気味に笑って、神殿の外へと踏み出した。
【黄泉鍵杖】が破壊されたことで『死者の都』からはミイラの姿が消えており、無人の町の中を乾いた風が吹き抜ける。
顔にかかる砂塵に顔をしかめて、俺は空を見上げた。
頭上に広がる空はどこまでも澄み切っていて、青々とした大空を雲が流れていく。
「・・・枯れ木も山の賑わいか。乾ききったミイラでも、いなくなったら物寂しいもんだぜ」
『死者の都』はミイラ達が消えてもなお『死者の都』であったということだろうか。
俺はわずかに胸に生じた憂いの感情を溜息とともに吐き出して、ゆっくりと首を振った。
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