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第4章 砂漠陰謀編
56.喰らわれる心
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「いやあああああああっ! 姉さんっ、アムッ! どうしてっ!? なんでよっ!?」
私は二人のことを守るために女王になったというのに、どうして二人がこんなことになっているというのだ。
こんなことは・・・ありえない。
「ほっほっほ、気に入っていただけたようでなによりですじゃ。女王陛下」
「ふざけないでよ! 二人になんでこんなことを・・・!」
顔を真っ赤にして目の前の大神官様――否、大切な人の仇である老婆を怒鳴りつける。
玉座から立ち上がって老婆につかみかかろうとするが・・・両脚から力が抜けて再び座り込んでしまう。
「え・・・あ・・・?」
ペタリと玉座に座り込み、私は混乱に目を白黒させる。
たった一人の家族を、幼馴染であり愛する恋人である男性を殺された。にもかかわらず、私の頭からどんどん怒りの感情が抜け落ちていく。
激情が吹き荒れていた心が静かに凪いでいき、心が平坦になっていく。
「冥府の軍勢を召喚する神の至宝【黄泉鍵杖】・・・これは使用者の感情を喰らってその力を発揮するのじゃよ。ゆえに、女王陛下にはこうして感情を揺さぶる貢ぎ物を送り、より多くの力を首飾りに注いでもらわねばならない」
老婆が私の横に歩み寄ってきて、優しい手つきで肩を撫でてくる。途端に心に灼熱の憎悪が湧き出してくるが、それはすぐに首飾りに吸収されて消えてしまう。
自分の大切な人を奪った憎い仇がこんなにも近くにいるというのに、私はその手を振り払う意志すら抱くことはできなかった。
「もっと怒り、憎み、恨むがよい。その心が、感情がこの国を守る力となろう。これは必要な犠牲なのじゃ。先代の女王陛下も、その前の陛下も、歴代の陛下はみな国のために己の心を差し出してきたのじゃから」
「っ・・・、っ・・・!」
もはや慟哭の声を上げることすらできなかった。私は玉座に座り込んで、金属の箱に収められた大切な人達の骸をじっと眺めることしかできなかった。
怒りのままに叫びたい。悲しみのままに嘆きたい。
しかし――そんな感情すらもすぐに【黄泉鍵杖】に奪い取られてしまう。
「さあ・・・女王陛下。力を使ってくだされ。冥府よりこの国を守る守護者を生み出すのじゃ!」
「・・・・・・」
私はなにも考えることはできず、言われるがままに右手を前に突き出した。
すると――床から水が湧き出るようにして砂の柱が上がり、瞬く間に人の姿をかたどっていく。数十秒後には、女王の間に十数人の死者の兵士が現れた。
神兵の召喚を目にして、上級神官から喝采の声が上がった。
「おおっ! いきなり十人以上も召喚したぞ!」
「見事である、新しい女王様の御力はご先代様以上じゃ!」
「これでこの国も安泰! 砂漠の太陽は沈むことはあるまい!」
「・・・・・・」
神官達の称賛の声を右から左に聞き流す。
もはや虚ろな空洞となりつつある両目から涙が流れ落ちるが、それがどんな感情から溢れたものであるかもわからなかった。
(もういい・・・どうでもいい)
守るべき人はいなくなった。
私が愛した国は、歴代の女王陛下の犠牲から成り立っている、醜くもろい砂の城だったのだ。
そして――これから私もまた、その犠牲の人柱となってしまうのだ。
(こんな国、どうだっていい。私はもう知らない・・・)
感情を奪われ、空虚となった心のままにすべてを投げだそうとする。
そんな時・・・私の心の中に聞き覚えのない声が響いてきた。
『本当に、それでいいのかしらあ?』
(え・・・?)
突然の女性の声に、私は虚ろな瞳で瞬きを繰り返した。
私は二人のことを守るために女王になったというのに、どうして二人がこんなことになっているというのだ。
こんなことは・・・ありえない。
「ほっほっほ、気に入っていただけたようでなによりですじゃ。女王陛下」
「ふざけないでよ! 二人になんでこんなことを・・・!」
顔を真っ赤にして目の前の大神官様――否、大切な人の仇である老婆を怒鳴りつける。
玉座から立ち上がって老婆につかみかかろうとするが・・・両脚から力が抜けて再び座り込んでしまう。
「え・・・あ・・・?」
ペタリと玉座に座り込み、私は混乱に目を白黒させる。
たった一人の家族を、幼馴染であり愛する恋人である男性を殺された。にもかかわらず、私の頭からどんどん怒りの感情が抜け落ちていく。
激情が吹き荒れていた心が静かに凪いでいき、心が平坦になっていく。
「冥府の軍勢を召喚する神の至宝【黄泉鍵杖】・・・これは使用者の感情を喰らってその力を発揮するのじゃよ。ゆえに、女王陛下にはこうして感情を揺さぶる貢ぎ物を送り、より多くの力を首飾りに注いでもらわねばならない」
老婆が私の横に歩み寄ってきて、優しい手つきで肩を撫でてくる。途端に心に灼熱の憎悪が湧き出してくるが、それはすぐに首飾りに吸収されて消えてしまう。
自分の大切な人を奪った憎い仇がこんなにも近くにいるというのに、私はその手を振り払う意志すら抱くことはできなかった。
「もっと怒り、憎み、恨むがよい。その心が、感情がこの国を守る力となろう。これは必要な犠牲なのじゃ。先代の女王陛下も、その前の陛下も、歴代の陛下はみな国のために己の心を差し出してきたのじゃから」
「っ・・・、っ・・・!」
もはや慟哭の声を上げることすらできなかった。私は玉座に座り込んで、金属の箱に収められた大切な人達の骸をじっと眺めることしかできなかった。
怒りのままに叫びたい。悲しみのままに嘆きたい。
しかし――そんな感情すらもすぐに【黄泉鍵杖】に奪い取られてしまう。
「さあ・・・女王陛下。力を使ってくだされ。冥府よりこの国を守る守護者を生み出すのじゃ!」
「・・・・・・」
私はなにも考えることはできず、言われるがままに右手を前に突き出した。
すると――床から水が湧き出るようにして砂の柱が上がり、瞬く間に人の姿をかたどっていく。数十秒後には、女王の間に十数人の死者の兵士が現れた。
神兵の召喚を目にして、上級神官から喝采の声が上がった。
「おおっ! いきなり十人以上も召喚したぞ!」
「見事である、新しい女王様の御力はご先代様以上じゃ!」
「これでこの国も安泰! 砂漠の太陽は沈むことはあるまい!」
「・・・・・・」
神官達の称賛の声を右から左に聞き流す。
もはや虚ろな空洞となりつつある両目から涙が流れ落ちるが、それがどんな感情から溢れたものであるかもわからなかった。
(もういい・・・どうでもいい)
守るべき人はいなくなった。
私が愛した国は、歴代の女王陛下の犠牲から成り立っている、醜くもろい砂の城だったのだ。
そして――これから私もまた、その犠牲の人柱となってしまうのだ。
(こんな国、どうだっていい。私はもう知らない・・・)
感情を奪われ、空虚となった心のままにすべてを投げだそうとする。
そんな時・・・私の心の中に聞き覚えのない声が響いてきた。
『本当に、それでいいのかしらあ?』
(え・・・?)
突然の女性の声に、私は虚ろな瞳で瞬きを繰り返した。
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