俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

文字の大きさ
上 下
241 / 317
第4章 砂漠陰謀編

52.砂と大河の王国

しおりを挟む

side ?????

「さあ、起きて! もう朝よ!」

「んうっ・・・」

 誰かがカーテンを開けた。部屋の中にまぶしい朝日が差し込んでくる。
 私はシーツを引き寄せて頭まで覆い、容赦なく降り注いでくる陽光から少しでも逃れようとした。
 しかし、何者かの手がシーツをつかんで剥ぎ取ってしまい、たちどころに日光の下へと追いやられてしまう。

「あうう・・・もっと寝かせてよお・・・」

「ダメよ! 今日は神殿でお祈りがある日でしょう? 見習いとはいえ、もう神官になったんだから、寝坊なんてしちゃダメ!」

「はううっ!」

 今度はガクガクと身体を揺さぶられて、ようやく私は両眼を開けた。まぶたを開けてすぐに目に入ってくるのは私の姉、ネフェルミリアの顔であった。

「ほら、起きなさい! ティナ!」

「うう・・・起きてるよお、お姉ちゃん」

 私の名前はネフェルティナ。
 砂漠の中心にある国、ジャスワント王国に暮らしている神官見習いだ。
 私が暮らしているジャスワント王国は砂漠を縦断する大河と隣接しており、豊かな水の恩恵によって隆盛を誇っていた。
 そのせいで水を狙う周辺の諸国家からは常に狙われる立場にあったが、この国の統治者である女王様が神から授かった力によって平和を保たれている。
 歴代の女王様の御力はあまりにも巨大で、この国が建国してから三百年、一度として他国の軍勢をこの国の内部へ侵入させたことはなかった。

 そんな国で生まれ育った私は幼い頃に両親を亡くしており、今は姉のネフェルミリアと二人で暮らしている。
 暮らしぶりは豊かとはいえないが、それでも優しい姉と、親切な近所の人達の支えのおかげで、自分が不幸だなんて思ったことはなかった。
 今年に入って神官見習いとして働くようになったおかげで、夕飯のおかずも一品増えて、少しずつ生活も楽になってきている。
 私はこのジャスワント王国を心から愛していた。

「さあ、早くご飯を食べちゃいなさい! 遅刻しちゃうわよ!」

「むう・・・わかったよう」

 私は重い瞼をこすりながらベッドから体を起こして、寝間着を脱ぎ捨てた。神官の身に着ける法衣を頭からかぶり、ぷはあと息をつく。
 外から鐘の音が響いてきた。金が叩かれた回数は7回。お祈りの時間まであと1時間ほどしかなかった。

「うー、遅刻しちゃう! もっと早く起こしてくれたらよかったのにい・・・」

「起こしても起きなかったでしょう! もう、いつまでたっても子供なんだから。ティナがそんな調子じゃ、私もいつまで経ってもお嫁にいけないわ」

「相手がいないだけでしょ・・・痛いっ!?」

「口の悪い子は明日からごはん抜きにするわよ?」

 姉は笑顔のまま額に青筋を浮かべ、パシパシと手の平をお玉で叩く。

「あう、ごめんなさい・・・美人で料理上手なお姉さま・・・」

 私はぶたれた後頭部を撫でながら、野菜を挟んだパンを急いで口に押し込んだ。木の器に注がれたスープでパンを強引に喉に流し込み、ヤギの乳を一気飲みする。
 大急ぎで食事を終えて、外出用のヴェールを手に取って頭にかけた。

「ごちそうさま、いってきまーす!」

「はいはい、いってらっしゃい。気をつけてね」

「はーい!」

 私は姉に手を振りながら外に飛び出した。途端、砂漠の灼熱の太陽が降り注いで肌をチリチリと灼いてくる。
 まぶしい日差しに目を細めながらパタパタと走って行くと、近所に住んでいるおばさんが声をかけてきた。

「ティナちゃん、今日も神殿かい? あまり遅くならないようにね」

「はーい! 行ってくるねー」

 すれ違うご近所さんに笑顔で手を振りながら、私は足早に神殿への道を駆けていく。

「これならギリギリで間に合いそう・・・きゃあっ!?」

 ここを曲がればすぐに神殿にたどり着く・・・そう思った矢先、曲がり角で誰かにぶつかってしまった。

「す、すいません! よそ見をしてました・・・って、アレ?」

「・・・・・・」

 尻もちをついた状態からぶつかった相手を見上げると、そこに立っていたのは兵士の鎧を着た男性である。
 しかし、その男性の露出している部分――顔や手足はいっさいの水気がなく、乾ききったミイラとなっていた。

「なんだ・・・神兵さんか」

「・・・・・・」

 私の声に応えることなく、ミイラの兵士――『神兵』はそのまま歩いて行ってしまった。
 私がぶつかった相手は生きた人間ではなく、この国を治めている女王様が神の力によって召喚された冥界の兵士である。
 国を守り、人を守り、ときに外敵を排除する彼らこそが、ジャスワント王国を大国ならしめる最大の要因であった。
 神兵の力がなければ、巨大な大河を狙う周辺国家からこぞって襲撃を受けて、たちまちこの国は滅んでしまうだろう。

「おいおい、なにをやってるんだよ。ティナ」

「う・・・その声は・・・」

 地面に尻をつけたまま、背中にかけられた声に振り返る。すると、そこにはあきれた表情を浮かべた幼馴染の少年の姿があった。
 神兵が着ているものと同じ鎧を身にまとい、けれど当然ながらミイラなどではない彼の名前はアムストラホテプ。
 私の近所に住んでいる幼馴染の男子で、昨年から神殿に兵士として仕えていた。

「ふん、ドジっ子ティナは健在か。身体ばっかり大きくなって、中身は子供の頃と変わってないな!」

「なによ! アムに言われたくなんてないんだからねっ!」

 一番、見られたくない相手に見られてしまった羞恥に顔を染めながら、けれど私は差し出された幼馴染の手を拒むことなく掴んだ。
 太い腕で引っ張られて立たされる。その力強さに、「やっぱり彼も大人になってるんだなあ」と妙に感慨深い気持ちになった。

「ドジなのは本当だろ? どうやったら人間とミイラを見間違えるんだよ」

「それはだって・・・むう・・・」

 揶揄うような口調に言い訳を返そうとして、結局は何も思いつかずに上目遣いにアムストラホテプを睨みつける。
 幼馴染の少年はカラカラと愉快そうに笑いながら、ヴェールを被った私の頭をポンポンと叩いてきた。私は眉を吊り上げて、頭にのせられた手を振り払った。

「子ども扱いしないでよ! もうっ! アムばっかりこんなに背が伸びてずるい!」

 数年前は同じくらいの背丈だったというのに、今のアムストラホテプの顔は見上げる高さにある。そのことが無性に悔しくなって、私は鎧の上から彼の胸を叩いた。

「そう機嫌を悪くするなよ。ほれ、菓子をやろう」

「それが子ども扱いしてるって言ってるのよ! もう、アムなんて嫌いっ!」

 口ではアムストラホテプをなじりながらしっかりと差し出された芋菓子を受け取り、乱暴に口に押し込んで咀嚼する。
 アムストラホテプはそんな私を微笑ましそうに見やり、目尻を下げて口元を緩めた。

「ははは、今日は神殿でお祈りの日だったな。それで急いでたんだろ?」

「そうだった! 急がなくちゃ!」

「あ、ちょっと待て! ティナ!」

 慌てて芋菓子を飲み込み、私は再び走り出そうとする。しかし、肩をアムストラホテプに掴まれて、停止することを余儀なくされてしまう。

「なによう! 私は急いでるのよ!」

「お祈りの後、時間をとれないか? 大事な話があるんだ」

「それは・・・別にいいけど?」

 いつになく真面目な表情をしたアムストラホテプに思わず頷いてしまう。早く帰るように姉に言われていたのだけど・・・。

「ええと、もう行くね?」

「ああ、引き留めて悪かったな」

「うん、それじゃあ・・・へ?」

 今度こそ走り出そうとした私であったが、ふと目の前に起こった異変に再び足を止めることになった。
 視線の先、つい先ほど私がぶつかった神兵さんの身体が突然倒れて、茶褐色の砂になってしまったのだ。

「砂に還った・・・どうして、突然・・・?」

 アムストラホテプもいぶかしげにつぶやき、眉間にシワを寄せている。

「ひょっとして・・・女王様に何かあったのかな?」

「それは・・・」

 私の言葉にアムストラホテプは黙り込んでしまう。
 私達はしばしの間立ちすくみ、やがて異変の原因をたしかめるべく神殿へと向かって行った。

しおりを挟む
感想 1,043

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。