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1巻

1-3

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「た、確かに国璽が押してあるが……しかし信じられない。父上が私を手放すなんて……てっきりほとぼりが冷めるまで臣籍にくだるものだと思っていたのに……男爵家に婿入りだって? わ、私が何をしたというのだ?」
「何をしたか、だと……?」

 この男、まだ自分がしでかしたことに気がついてないのか?
 国内最大の武闘派勢力、東方国境の守護者であるマクスウェル辺境伯家。
 中央貴族筆頭であり、政治のかなめであるロサイス公爵家。
 その二つの大貴族を敵に回し、王家との間に修復困難な亀裂きれつを作っておいて、まだ被害者づらをしている。

(婚約破棄されてよかったかもしれんな。こんな阿呆あほうに可愛い娘をとつがせずに済んだのだから)

 私は内心でこき下ろしながら、辛抱強く説明する。

「サリヴァン様もご存知かと思いますが、この国は『四方四家』という四つの辺境伯家が強い力を持っています。無論、公的な地位や政治的な権力は王家や公爵家が上ですが、国境警備を任される彼らの武力は、国王陛下といえども無視できるものではありません」
「う、うむ……」
「貴方はその辺境伯家の次期当主の婚約者を奪い、怒りを買ってしまったのです。相応の処分を下さなければ、王家と辺境伯家との間に禍根かこんを残してしまいます。国王陛下とて、断腸の思いで貴方を処分しているということをご理解ください」
「そ、そんな……嘘だ……」

 蒼褪あおざめて小刻みに震えるサリヴァン。ようやく自分がしたことの意味を理解できたらしい。

「わ、私はただセレナのことを愛していただけで……間違っていたというのか? 真実の愛を貫くのが、悪いことだったというのか……?」

 へなへなと床に崩れ落ち、サリヴァンは憔悴しょうすいし切った声でつぶやいた。

「真実の愛、ですか。美しいですな」

 私はくちびるゆがめて、ゆっくりと首を横に振った。

「残念なことですが、サリヴァン様。美しいことと正しいことは別物なのですよ。仮に貴方がセレナ・ノムスとの愛を貫きたかったというのならば、相応の根回しをするべきでした。それでなくとも、まずはマクスウェルに謝罪してすじを通しておき、マリアンヌともきちんと話し合っておけば、ここまで重い処分にはならなかったでしょうな」
「そん、な……あ、あああ、うあああああああああっ!!」

 サリヴァンは床に両手をついて絶望の叫びを上げた。

(憐れなことだ……)

 考えてみれば、サリヴァンは間違いさえ起こさなければ、自分の息子になっていたかもしれない男である。
 もしも、自分がしっかりこの男の行動に目を光らせていれば、ここまでちることはなかったのではないか。

(マクスウェルに不興を買わない程度で、援助してやるか。それが責任というものだろう)

 そう思い、最後の良心からなぐさめの言葉をかけるべく、片膝かたひざをついてサリヴァンに手を伸ばす。
 しかし――

「…………そうだ」
「は?」
「そうだそうだ! 間違いは正せばいいのだ! 全て、なかったことにしてしまえばいい!」
「サリヴァン殿?」

 突然、立ち上がって叫びだしたサリヴァンに気圧けおされ、一歩、二歩と後退した。なぜだかわからないが、無性に嫌な予感がする。

「宰相!」
「はあ、何事でしょう?」
「お前の娘との婚約破棄をなかったことにする!」
「はあっ!?」

 私は目をいて、身体をのけぞらせた。
 何を言いだすのだ、この男は。

「私がマリアンヌと婚約を結び直せば、ノムス家に婿入りする必要はなくなるし、公爵家の支援で王太子に返り咲くこともできる! あとはロサイスの財力を使って、マクスウェルに賠償金を支払って和解すればいい! セレナは……まあ、側室としてめとってやれば問題あるまい!」
(どこまで腐っているのだ、この男は……)

 スウ、と自分の顔から表情が抜け落ちるのがわかった。
 なんて身勝手な言い分だろう。自分の都合を他人に押しつけるばかりで、周囲の事情をまるで配慮していない。

「よし、そうと決まれば、早速マリアンヌに連絡しろ! お前と婚約を結び直してやると……」
「黙れ」
「がっ!?」

 気がつけば、私は右手でサリヴァンの首を締め上げていた。
 そんなことをされるとは思ってもいなかったのだろう、サリヴァンの眼には驚愕きょうがくの色が浮かんでいる。

「さ、いしょう……なに、を……」
「我が娘の人生が、えあるロサイス公爵家が、貴様一人のわがままで思い通りになると本気で思っているのか? 貴様はいったい、何様のつもりだ?」
「わたし、は、おうたいし……で……」
「元・王太子だろう?」

 サリヴァンの顔面がうっ血して紫色になった段階で、ようやく私は手の力を抜いて解放する。
 サリヴァンは再び床へと崩れ落ちて何度もき込んだ。

「ここが王宮で命拾いしたな……外だったらこのまま絞め殺しているぞ」
「かっ、は、はーっ、はーーつ……こんな、ことをして……ただですむと、おもうなよ……?」
「ほう」

 どうやらまだ戯言をさえずる元気があるらしい。
 私は足を上げて、サリヴァンの右手をかかとで踏みつけた。

「ぎっ!?」
「ただで済まないのならどうするというのだ? もはやなんの権力も持たない、男爵家の婿ごときが。ロサイス家の当主である私をどうするか、言ってみろ」
「ち、父上に言えばお前など……!」
「その父上はお前に会いたくないとおっしゃっている。不肖ふしょうの息子の顔など見たくはないのだろうな」
「う、嘘だ! 父が私を見捨てるなんて……」
「ならば自分で確かめてみればいい。今の貴様に、謁見えっけんを申し込む権利などないがな」

 私は最後にそう言い捨てて、サリヴァンに背中を向けた。
 もはやこの男にかける言葉など何もない。馬鹿につける薬など、どこにもないのだから。



 6 休日にはハンティングを


 ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ――
 平原を数十頭の馬が駆け抜けていく。馬の背中には武器を持った男達がまたがっていた。
 男達の雰囲気は、正規の兵士にしてはあまりにも粗野そやで、服装もバラバラである。ある者は兵隊のようなよろいをつけているかと思えば、またある者は獣の皮を乱雑につなぎ合わせた服を羽織はおっている。
 彼らは『紅虎団こうこだん』という馬賊の一党で、ここ数年、東方辺境のシルフィス子爵領を荒らし回っていた。
 シルフィス子爵領はランペルージ王国でも有数の穀倉こくそう地帯で、領地の大部分が平原である。平原を縦横無尽じゅうおうむじんに移動する馬賊は非常に厄介な存在で、領主にとっては悩みの種だ。
 紅虎団はとりわけ残虐な馬賊として人々に知られており、いくつもの村が彼らによって焼き払われ、村人が無残に殺されていた。

「この先だな、例の村は!」
「へえ、すぐそこです」

 先頭を走る大柄な男の言葉に、隣を走っているせた男が答えた。
 大柄な男は禿頭とくとうに獣の牙の刺青いれずみを入れている。いくつも傷跡が残る身体はがっしりと筋肉がついており、数々の修羅場しゅらばくぐり抜けてきた古兵ふるつわものの空気を身にまとっている。
 この男こそが紅虎団のかしらである。本名は不明だが、世間では『人食い虎』の異名で恐れられる賞金首だ。

「今日は男衆が領主に麦を納めに行くようですから、村には女と老人、ガキしかいないはずですぜ。ヒヒッ、襲い放題だ」

 痩せた男が舌なめずりをして言う。
『人食い虎』はふんっ、と鼻を鳴らした。

「麦を運び出したあとじゃあもうけは少なそうだな。まあ連中の食う分くらいは残ってるか」
「女もいますぜ。好きにしていいでしょう?」
「ああ、好きなだけりな。あまり時間をかけるんじゃねえぞ」
「わかっていやすぜ。ヒヒヒッ」

 話している間に、目的の村が見えてきた。
 村には高めのさくが立てられているが、それは狼などのけものの侵入を防ぐためだろう。略奪者りゃくだつしゃにとっては容易たやすく破れる紙の城だ。
『人食い虎』は背中に背負った大剣を抜き、片手で馬を操作しながら器用にかかげる。

「野郎ども! 俺達は獣だ! 人の肉を喰ってわらう怪物だ! 好きなだけ殺して、犯して、残らず奪い尽くせ!!」
『おおーーー!!』

『人食い虎』の張り上げた声に、馬賊の男達が怒声で答えた。
 草原を駆ける一群から数人の賊が先行して飛び出し、村の柵を破って中に侵入する。
 紅虎団は頭の『人食い虎』はもちろん、一人一人が殺戮さつりくに慣れた略奪者である。
 小さくか弱い村の住人に、彼らの蛮行を止める手段などあるわけがない。血と肉と殺戮のうたげが始まった。

「ぎゃああああ!!」

 村から聞こえてくる悲鳴を聞きながら、部下に続いて『人食い虎』が村に乗り込んだ。

「あ?」

『人食い虎』はそこで硬直した。
 眼前に、予想外の光景が広がっていたのだ。

「弓を構えろ、てえええ!!」
「ぐあああああっ!?」

 そこにはなぜか、弓を構えた兵士達が並んでいた。足元には、先行して突入した部下の死体が転がっている。

「ちっ、くしょう! なんで兵士がこんなところにいやがる!」

『人食い虎』はとっさの判断で大剣をかざし、飛んでくる弓矢を受け止めたが、受け損ねた矢が馬に当たった。
 横に倒れる馬から飛び降り、『人食い虎』は転がって体勢を整える。

「ちっ。野郎ども、突撃しろ! 皆殺しだ!」
『おおっ!』

 矢から逃れた馬賊達が兵士に向かっていく。しかし、間合いに入る目前で弓兵の後方から槍を持った兵士が現れ、向かってくる馬賊を突き殺していった。

「ぎゃああああ!」
「お、お頭、たすけっ……げふっ!?」
「か、勝てっこねえ! 逃げろ!」

 もともと馬賊達がその力を発揮できるのは、馬を縦横無尽に走らせられる平野での戦いである。障害物の多い村の中では、その強みを半分も活かすことができなかった。
 馬賊は次々と倒され、数を減らしていく。

「糞がっ!」

『人食い虎』の決断は速かった。生き残っている部下達を見捨て、破られた柵の隙間から逃げだす。途中で邪魔になった部下は大剣で払いのけ、必死に走った。

(俺達がこの村を襲うことがばれてたんだ! ちくしょう、どこだ? どこに逃げれば助かる)

 死にものぐるいで逃げ、背後から聞こえてくる仲間達の悲鳴が徐々に遠ざかってきた頃。

「馬だ、とにかくどこかで馬を……」
「『人食い虎』だな」
「っ!?」

 突如として横から声をかけられた。若い男の声である。

「よう、待ってたぞ」

 振り向いた先に立っていたのは、鎧を身にまとった若い男と、部下と思われる数人の兵士である。彼らの足元には自分より先に逃げだした手下が死体となって転がっていた。

「お前は……!?」
「賊にお前呼ばわりされる筋合いはねえよ。俺の名前はディンギルだ」

 名乗る意味はないがね――そう付け足して、男は肩をすくめた。

「ディンギル……マクスウェルか!? なんでここに!?」
「この国の東側は俺達マクスウェルの縄張りだ。直接の領地じゃないからって、いちゃいけない理由はないだろ」
「そんな馬鹿な!」
いて言うなら、ここの次期当主が俺の兄弟分だからだよ。可愛い寄子の悩みを一つ、つぶしに来ただけさ」

 くくっ、と笑ってディンギルが剣を抜く。
 重厚なにぶい光を放つ剣は、貴族が持つ飾りの剣とは威圧感いあつかんがまるで違う。装飾品としてではなく、人殺しのために作られた業物わざものであることがわかる。

「さあ、かかってこい。サービスで一騎討ちにしてやる」

 剣先を『人食い虎』に向けて、いたずらっ子のように笑ってみせるディンギル。
 周囲にいる兵士達に、主の無茶をとがめる様子はない。どうやら主の勝利を疑っていないようだ。

「ガキが、舐めやがって!」

『人食い虎』が大上段に大剣を構えて、跳びかかった勢いのままに振り下ろす。大柄な体格からは想像ができないほどの俊敏しゅんびんな動きである。

「おお、まさに虎だな」

 必殺の一撃を前にして、ディンギルは暢気のんきにつぶやいた。
 ヒラリと軽い動きでその一撃を躱し、ディンギルはすれ違いざまに剣を振るう。

「はい、お疲れさん」
「っ!?」

 二度振るわれた剣は、一撃目で剣を持っていた手を両断し、二撃目で両脚を深々と斬り裂いた。
 武器を持つ手と、逃げる脚。両方を失った『人食い虎』は倒れ伏して地べたを舐める。

「ぐっ、が……は……いてえ……いてえよ……」
「こいつを止血して、尋問官に渡しとけ。くれぐれも自害させるなよ」
「はっ!」
「いやはや、見事でございます」

 ディンギルの勝利を讃えて、一人の男が歩み出てくる。

「『人食い虎』とまで呼ばれる男を容易く斬り伏せるその剣捌けんさばき、惚れ惚れしますねえ。ヒヒヒっ!」

 気味の悪い笑い方で主を褒め散らかすのは、馬賊の仲間であるはずの痩せ男であった。

「ああ、そっちもご苦労さん。面倒事を頼んじまって悪いな」
「いえいえ、面倒事を請け負うのが私の仕事でございます。ヒヒッ」

 痩せ男は、ディンギルが紅虎団に送り込んだスパイであった。彼の諜報ちょうほう活動のおかげで、今回、厄介な馬賊を罠にめることに成功した。

「報酬はあとで持っていかせる。また何かあったら頼む」
「ええ、もちろんですとも。ヒヒッ……それにしても、あの男を生かしておく必要はあるのですかね?」

 拘束されて連れて行かれる『人食い虎』を眺めつつ、痩せ男が言う。

「紅虎団のアジトでしたら私どものほうで押さえてありますので、あえてあの男を尋問する価値などない気がしますがね。ヒヒヒッ」
「ああ、それなんだがな」

 ディンギルが『人食い虎』の持っていた大剣を拾い上げる。

「これ、いい剣だろ? 一見、泥と血で薄汚れているけど、質のいい鉄鉱石を使ってる。大量生産の鋳造ちゅうぞう品じゃなくて、一本一本丹精たんせい込めて作られた鍛造たんぞう品だ。市場に出せばそれなりの値がつく業物だよ」
「はい? なんの話でしょう?」

 突然、脈絡のない話をされて、痩せ男が首を傾げた。
 ディンギルは構わずに言葉を続ける。

「他の賊どもの武器もそうだ。略奪だけであれほど高品質な武器と防具は揃えられない。おそらく、賊の背後には奴らの活動を支援しているスポンサーがいるはず」
「黒幕がいるってことですかい?」
「ああ、本命は隣の帝国。対抗馬が地方貴族の力をぎたい中央の貴族。大穴でランペルージ王家ってところかな」

 大剣を放り捨て、汚いものを触ったとばかりに服のすそで手をくディンギル。

「ま、なんにせよ、あいつには聞かなければならないことがあるから、楽には死ねないだろうな。お気の毒なことだ」
「……ヒヒッ」
(恐ろしい方だ……馬賊なんかよりよっぽどおっかねえや)

 痩せ男はぶるりと背筋を震わせ、天をあおいだ。


 〇   〇   〇


 馬賊の駆除を終えて、俺は村の井戸で返り血を洗っていた。
 事前に村の住民には馬賊の討伐作戦を知らせてあり、今は避難していた者達がちらほらと戻ってきている。その中には、純朴じゅんぼくそうな村娘も何人かいた。

(うん、こういうところの女も悪くないよな。野に咲く花のような、素朴そぼくな美しさがある……帰る前に二、三人抱いちまうか?)

 無事を喜び合っている村娘達を物色していると、部下の一人が走り寄ってきた。

「ディンギル様! 御当主様より使いが参りました! 至急、領地に戻るようにとのことです!」
「ち、なんだよ急に」

 せっかくの楽しい考え事を邪魔されたため、やや不機嫌な口調になってしまった。
 伝令の男は明らかに気分を害している俺に怯えた様子を見せながら、報告を続ける。

「も、申し訳ありません。その、ノムス男爵とその婿殿が、どうしてもディンギル様にお会いしたいとのことです」
「ははっ! そうか、来たか!」

 どうやら、新しい玩具おもちゃが届いたようである。

「そうかそうか! 婿殿、ね。はははははっ、そりゃすぐに会ってやらないとなあ!!」

 いきなり大声を上げた俺を不審に思ったのか、近くにいた村娘達が離れていってしまう。
 の女がいなくなってしまったが、それも気にならないくらい俺は愉快だった。

「マクスウェル領に帰還する! ついてこられる奴だけついてこい!」
「ええっ!?」
「ちょ、若様!?」

 ブーイングを上げる部下を無視して馬に跨り、一目散に走らせる。

(くく、辺境にようこそ。元・王太子殿下。せいぜい田舎者のもてなしを楽しんでくれよ)




 7 嫌がらせの決着


「ディンギル様、お客様が参りました」
「ああ、来たか」

 シルフィス子爵領での馬賊狩りを終えて、マクスウェル辺境伯家に戻ってきた翌日。
 今日は事前に知らせを受けていた、ノムス男爵とサリヴァンとの会談の日である。

「んっ、あっ、あっ、あっ……」
「まあ、上客というわけでもないし、もう少し待たせておくか」
「ああん、坊ちゃまぁ……」
「ふん、あの王太子はどんな顔するかな。ずっと格下とさげすんでいた相手に待たされたら」
「坊ちゃま……坊ちゃまぁ……そこ、気持ちいいです……」
「うむうむ、もう少し楽しませてもらうか」

 ちなみに、俺はただいまエリザとベッドの上でをしている最中である。
 今は昼過ぎだが、特にの時間は気にしていない。領地に戻ってきてからというもの、仕事をしていないときは大体メイドを抱いている。

「…………はあ」
「なんだよ、サクヤ。言いたいことがあるなら、聞いてやるぞ」

 そんな俺達を白い目で見てくるのは、俺のことを呼びに来た少女。この屋敷で働いているメイドの一人である。
 彼女の名前はサクヤ。黒髪黒目という、この国では珍しい容姿をしたこの少女は、クールな鉄面皮てつめんぴにはっきりと非難の色を浮かべていた。

「それでは発言させていただきますが、ディンギル様、いかに精強で知られているあなた様とはいえ、さすがに朝食も昼食も摂らずに淫行いんこうにふけるのはお身体に毒でございます。もっと御身おんみを大事にしていただきませんと。仕えるこちらの身にもなってくださいませ」
「んー、あー……うん」
「主人の体調管理は私ども使用人の仕事です。どうか軽食だけでも召し上がってください」

 年下メイドからのお説教に、さすがの俺も気まずくなってしまった。
 ひとまずエリザとの行為を中断して、ベッドの上にあぐらをかいて座る。

「戦場じゃ半日以上食えないのも珍しくないんだけどな」
「ここは戦場ではなくお屋敷でございます。主人をえさせるなど、メイドの恥です」
「んー……仕方がないな。なんでもいいから、すぐに食べられるものを用意してくれ」
「はい、そうおっしゃると思って、こちらに用意してまいりました」

 どこに隠していたのか、サクヤがバスケットを取り出して両手で持ち上げてみせた。中にはトーストやベーコン、カットされたフルーツなどが入っている。

美味うまそうだな、いただくとしよう」
「はい、それでは失礼します」
「おいおい……」

 バスケットを受け取ろうと手を伸ばすが、サクヤはその手を躱してベッドにもぐり込んできた。

「……混ざりたいならそう言えばいいだろ」
「はっきりと口にしないのが、奥ゆかしさというものです。はい、あーん」
「……あーん」
「今度はタマゴです、あーん」

 雛鳥ひなどりにエサをやるみたいに俺の口に食事を放り込んでくるサクヤ。
 顔は相変わらずの無表情であったが、心なしか口元が嬉しそうに緩んでいた。

「ごちそうさん……それじゃあ次は」
「あんっ」

 予想通りというかなんというか、食事だけで済むわけがなかった。
 軽食を食べ終えた俺はデザートとしてサクヤのこともいただいた。もちろんエリザもまとめて相手して、時間を忘れて情事を楽しむ。
 俺達は客のことを忘れて燃え上がってしまい、繰り返しお互いを求めて身体を重ね続けるのであった。


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