俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

文字の大きさ
上 下
237 / 317
第4章 砂漠陰謀編

48.別れの夢想

しおりを挟む
side ナーム・スフィンクス

 ディンギルさまが『恐怖の軍勢』を西方辺境から追い出すため、ギザ要塞へと行ってしまった。
 それからというもの、私は不安に押しつぶされそうで食事も喉を通らない日々を送っていた。

「ナーム、ちゃんとご飯を食べないと」

 ミスト義姉さんが心配そうに言って、ベッドに腰かけた私の顔を覗き込んできた。
 場所はスフィンクス家にある私の自室。ディンギル様がいなくなってからというもの、また私は部屋に閉じこもりがちになってしまい、食事も使用人に運んでもらっていた。
 その運んでもらった食事すらも満足に食べることができず、たびたび心配した義姉さんが様子を見に来ていた。

「はい・・・わかっています。義姉さん」

「わかってないでしょう、夕食もこんなに残して・・・」

 半分以上は料理が残ったお皿を見下ろして、義姉さんが溜息をついた。
 腰に手を当てて困り果てた顔をしている義姉さんの顔を見て、私は唇をとがらせて言い返す。

「義姉さんだって同じでしょう。そんなにやつれちゃって・・・」

「それは・・・そうだけど」

 義姉さんが言葉を詰まらせた。
 バロン兄さんが亡くなってからも義姉さんは気丈に振る舞い続けていたが、それが空元気であることを私は知っていた。
 涙こそ見せることはなかったが、義姉さんは妹の私以上に兄の死を嘆き悲しんでいるのだ。

「・・・ふう、今晩はもういいわ。明日の朝食は食べやすいお粥にしてもらうから、ちゃんと残さず食べるのよ?」

「義姉さんもね」

「・・・ちゃんと食べないと大きくなれないわよ。背も伸びないし、胸だって膨らまないわよ?」

「あうっ・・・」

 私は痛い部分を突かれて、部屋着にしているネグリジェの上から胸元を押さえた。
 私の身体は自慢にも発育が良いとはいえない。むしろ、同年代の女の子よりも2~3年は遅れているだろう。

(うう・・・最近は食欲がないけど、これまでご飯はキッチリ食べてたし。運動だって屋敷のお庭で剣を振ったりしてるのに・・・)

 私は義姉さんの身体に目を向けた。ここ数週間ですっかり痩せてしまった義姉であったが、胸や腰にはちゃんとお肉がついており、羨むような理想的なボディラインをしている。
 私は目の前の理不尽な現実に打ちのめされて、「うー」と小さく唸りながら涙目になった。

「ナーム?」

「もう寝ますから出ていって! ちゃんと朝は食べるから!」

「ええっと、それならいいのだけど・・・」

 義姉さんは不思議そうな表情を浮かべて、お皿をトレーに載せて部屋から出ていった。
 私は憂鬱な感情を断ち切るように部屋の明かりを落とし、頭まで布団をかぶって目を閉じた。



 その日の夜、夢を見た。

 バロン兄さんとミスト義姉さんが結婚する夢だ。
 婚礼衣装に身を包んだ二人は嬉しそうに笑っていて、その後ろで父とジャールさん、スフィンクス家に仕えている使用人の人達が嬉しそうに拍手をしている。
 誰もが若い夫婦の門出を祝福しており、みんなが笑っている。

 それからしばらくして、兄さんと義姉さんの間に子供が産まれるのだ。
 最初に産まれたのは女の子。二人と同じ金色の髪と、褐色の肌をもった小さな命だ。
 お父さまは男の子でなくて少しガッカリしていたけど、兄さんは「すぐに次の子をつくるから大丈夫だ!」などとみんなの前で言ってしまい、顔を赤くした義姉さんにお腹を殴られ悶絶していた。
 やっぱり誰もが笑っていて、嬉しそうにしていた。

 そして・・・とうとう、私の番がやってきた。
 私の旦那様になるのは、少し遠い場所に領地を持っている年の離れた男性だ。
 その方は婚約者に裏切られた過去があり、そのせいでなかなか新しいお相手を見つけられずに独身を貫いていた。
 私との結婚も兄の反対のせいで紆余曲折あったのだが、最終的にはその方を慕う私の気持ちを分かってもらえて、嫁いでいくことになった。
 結婚式では兄さんはずっと仏頂面をしていて、終始おもしろくなさそうにお酒をあおり続けていた。

 そして、私は旦那様の手を取って西方から旅立っていく。
 笑顔の義姉さんと、複雑そうなお父さま。そして――苦々しく顔をしかめた兄さんに見送られて。

「・・・じゃあな、くれぐれも元気で。ナーム」

 兄は、バロン・スフィンクスは最後にそう言って、馬車に乗り込んだ私へと手を振った。

 そんなとっても幸せで――そして、悲しい夢だった。



「あ・・・」

 目を覚ましたとき、私の顔には涙の跡がついていた。
 カーテン越しに見る窓の外はまだ暗い。夜明けまではまだ長い。

「・・・・・・」

 私は唇を噛みしめて、ぎゅっとシーツを握りしめた。
 あったかもしれない幸福な未来。それはすでに叶わないものになっていることに、ようやく気づかされた。

「兄さん・・・」

 あの心配性で、とても優しい兄はもういないのだ。
 兄が死んだと聞かされてからも実感がなかったが、初めて、その確かな事実が私の心を打ちのめした。

「兄さん、ごめんなさい。ごめんなさい・・・」

 ごめんなさい。
 私を守ってくれたあなたが死んでしまったことを、今の今まで泣けなくて、本当にごめんなさい。

 私はしばらく闇の中で兄の冥福を祈り、また少しだけ泣いた。
 やがて窓から朝日が差し込む。窓を開けて、西の大地で戦っているであろう愛しい殿方へと言葉を向ける。

「ディンギルさま、どうかご無事で。要塞なんて取り返せなくていいから、あなたは生きて帰って来てくださいませ・・・」
しおりを挟む
感想 1,043

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。