俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

文字の大きさ
上 下
236 / 317
第4章 砂漠陰謀編

47.血みどろの献身

しおりを挟む
side サクヤ

「むう・・・兄を連れていって私を置いていくなんて、ディンギル様も意地悪をしますね」

 スフィンクス辺境伯領、領都テーベ。
 ディンギル様に貸し与えられた屋敷にて、私は留守番を命じられていました。

 西方辺境に『恐怖の軍勢』が侵入して起こったこの戦いも、徐々に終わりへと近づいています。
 私の主君であるディンギル様は現在、ランペルージ王国西の国境にあるギザ要塞を取り戻すために出兵しています。
 ディンギル様がこの都を出てすでに三日。そろそろ戦いも終わる頃合いでしょうか?

「いけませんね。何ヵ月もディンギル様と一緒だったせいで、数日顔を合わせないだけで身体がうずいてしまいます。惚れた弱みですね」

 メイド服の胸元を撫でながら、私は悩ましく溜息をつきました。
 ディンギル様の婚約破棄から数ヵ月――思えば随分といろいろなことがあった気がします。

 帝国からの侵略。バベルの塔での戦い。
 南洋諸島での海賊の抗争。大海賊キャプテン・ドレークとの決戦。
 そして――今度は西で起こった『恐怖の軍勢』の侵略。

「いくらディンギル様がトラブルに巻き込まれやすい体質とはいえ、少しばかり事が起こり過ぎていますね。一年にも満たない間にこんなに騒動が連続するなんて・・・まさか、何者かが糸を引いている?」

 主の周囲には常に私達『鋼牙』の網が張られています。
 よからぬことを企んでいる人間がいるのであれば、自然とその網にかかるはずなのですが・・・。

「・・・私達の警戒網を超えるほどの相手なのか、それとも、全てはただの偶然なのでしょうか。運命の女神がディンギル様に嫌がらせをしているというのも考えられますね」

 あの女誑おんなたらしの主であれば女神から嫌われるのも・・・あるいは、逆に寵愛を受けてしまうのもわからなくもありません。
 知らないうちに女神に気に入られて、そのせいでイタズラでもされているのでしょうか?

「そのあたり、貴方達はどう思いますか? 第三者の意見をお聞きしたいのですけど?」

「~~~~~~~~っ!」

 私の問いかけに、椅子に座っている男がジタバタと手足を震わせた。
 しかし、男の両手両足はそれぞれ椅子の肘掛けと脚に拘束されており、胴体も背もたれに縛りつけられています。ここまでガチガチに拘束されれば、どんな奇術師だって脱出は不可能でしょう。

「ああ、申し訳ありません。猿ぐつわをされていては喋れませんよね。すぐに外しますよ」

「プハッ・・・はあ、はあ、た、助けてくれ・・・!」

 男の口に巻かれた布をほどくと、男が大きく息をついた。そして、荒い呼吸を繰り返しながら私に向けて命乞いの言葉を放ってきます。
 私は首を傾げながら、男に尋ねます。

「質問の答えになってませんね。どうかされましたか?」

「助けてくれ・・・! 死にたくない、殺さないでくれ・・・!」

「おやおや、そんなに怯えてしまって、いったいなにを怖がっているのでしょうか? まるで私が苛めているみたいじゃないですか」

 私は男の背後に回り込み、椅子に腰かけた男の両肩に手を置きました。男の両肩がビクリと跳ねて過剰に反応を示します。

「教えてくれませんか。私がなにか悪いことをしたのですか? それとも・・・貴方達が悪いことをしたのですか?」

「お、俺達だっ! 俺達が悪かった、反省している! だからもう許してくれえ・・・俺はあんなふうになりたくないっ!」

「『あんなふうに』・・・? お友達に酷いことを言うのですね。友達を大事にできない人にはお仕置きが必要でしょうか?」

「ひいいいいいっ!」

 男の視線の先――ちょうど椅子に座る男と向かい合うようにして、もう一人の男性の姿がありました。
 もっとも、その男性はすでに男かどうかも判別できない有様でしたが。

 この男性とそのお友達は、ディンギル様がスフィンクス家の兵士を連れてギザ要塞に出征している間に、スフィンクス家の当主であるベルト・スフィンクス様とそのご息女ナーム・スフィンクス様を害そうとした暗殺者です。
 事前に留守中によからぬことが起こるかもしれないからと私と『鋼牙』の仲間達はスフィンクス家の周囲を見張っており、彼らを捕縛することに成功しました。
 現在、私は捕らえた彼らから情報収集という名目の『拷問』をしている最中です。

「そうですねえ・・・貴方がこのまま口を閉ざしているようだと、お友達と同じことをしなければいけませんね。お友達と同じように爪を剥いで、指を折って、顔の皮を丁寧に剥がして、耳と鼻を削ぎ落して・・・生きたまま内臓を取り出して標本にして差し上げましょうか?」

「ひいいいいいっ!」

 男は涙すら流して悲鳴を上げました。
 これと同じく、スフィンクス家を狙った暗殺者はすでに私の手によって解体されて、原形をとどめない姿に変わっています。
    この男の見ている前で。

「ああ、可哀そうに。目の前でお友達を屠殺されて、さぞや心を痛めていらっしゃるでしょうね。貴方もすぐに楽にして差し上げますのでご安心ください」

「やめろおおおおおおっ! 話す、全部話すから、命だけは勘弁してくれえええええっ!」

 捕らえられた当初こそ「死んでも話すことはない!」などと豪語していた男でしたが、さすがに目の前で相棒を生きたまま解体されれば、心が折れてしまったようです。
 素直になってくださったようで安心しました。急な旅行でメイド服は何着も持ってきていないのです。これ以上、返り血でダメにするわけにはいきません。

「それでは話してくださいね? 貴方の雇い主の名前を教えてください」

「うひいっ・・・!」

 チャキチャキと目の前でハサミを鳴らしてあげると、男は顔じゅうのあらゆる穴から液体を垂らしました。
 すでに床は刺激臭のする液体で濡れています。いまさら掃除のことを気にしても無意味でしょう。

「わ、我々を雇ったのは・・・」

 男は涙をダラダラと流しながらその名前を告げました。
 それは予想通りの名前で、私は事前調査の裏付けを得たことで胸を撫で下ろしました。

「そうですか・・・ナーヒブ・マッサーブ。やはりその方でしたか」

「・・・・・・」

「それじゃあ、約束通りに解放して差し上げますね・・・お疲れさまでした」

「がっ・・・!」

 私は男の首筋に毒針を打ち込みました。
 即効性の、できるだけ苦しまない毒を選んだおかげで、男はすぐに動かなくなりました。

「さて・・・ディンギル様が帰ってくるのが待ち遠しいですね。きっと、この情報にお喜びになるでしょう」

 私は表情を緩ませてつぶやいて、掃除道具を取りに部屋から出て行くのでした。

しおりを挟む
感想 1,043

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。