俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

文字の大きさ
上 下
233 / 317
第4章 砂漠陰謀編

44.堕ちたる英雄

しおりを挟む
 俺は上段から振り下ろされた曲刀の一撃を剣で受け止める。

「ぐっ・・・!?」

 その一撃は俺が想定した以上に重く、思わず膝が折れそうになってしまう。

「く、はははっ! どうだ! 生まれ変わった我が剣は!」

 バロンがミイラの顔でニンマリと笑い、体勢を崩した俺に追撃をかけてくる。

ダン、ダン、ダン、ダンッ!

 次々と振り下ろされる斬撃を、俺は必死に剣で受け続ける。
 その剣の重さ、攻撃力は俺が知っているバロンの剣とは、明らかに一線を画していた。

「ぐっ・・・舐めるなっ!」

 俺は奥歯を噛みしめて重量感のある攻撃に耐え、一瞬の隙をついて足払いを繰り出した。

「ははっ! 遅い遅い!」

 バロンが軽々とジャンプして足払いをかわし、少し離れた場所に着地する。余裕の表情を浮かべて、挑発でもするかのように両手を広げて見せた。

「くくくっ、恐れ入ったか。ディンギル・マクスウェル。ずいぶんと焦った顔をしているぞ?」

「・・・そちらも、えらく楽しそうだな。そんなに干物の身体が気に入ったのかよ」

「ふんっ、憎まれ口を叩いていられるのも今のうちだけだぞ? なあ、ディンギル・マクスウェル。かつて私はお前に敗北した。その理由を覚えているか?」

「・・・スタミナ切れ、だろ?」

 2年間、俺とバロンは王都武術大会の決勝戦で剣を交えた。
 烈火のごとく攻める俺の剣。
 巨石のごとく守るバロンの剣。
 最終的に両者の勝敗を分けたのは、体力の差であった。
 俺達は十数分にもかけて斬り結び、バロンの方が先に体力の限界を迎え、俺の剣を防ぎきれなくなったのだ。

(今考えてみれば、俺のスタミナは母親譲りの底無しだからな。先輩が不利なのもしょうがない)

「そうだ! あの時は私が先に体力を切らしたせいでお前に破れた。だが、今日は違う! 今の私は死人・・・体力切れを起こすことはなく、力も見ての通りだ!」

「っ・・・!」

 バロンが正面から剣を叩きつけてくる。
 不意をついた攻撃を剣で受け止めるが、衝撃をこらえきれずに後方へ飛ばされてしまう。

「今の私のパワーは人間の限界をゆうに超えている! どうだ、ディンギル・マクスウェル! パワーにスタミナ、スピードもだ、もはや貴様が私に優るものはなにもない!」

「・・・・・・」

「さあ、恐れよ! そして、嘆くがいい! 私は貴様を殺して最強になる! そして、もはや二度と敗北すまい!」

「・・・なあ、先輩。アンタの婚約者、ミスト・カイロは喪服を着ていたよ」

「む?」

 俺はぽつりと言った。脈絡のない言葉にバロンが眉根を寄せる。

「アンタがいなくなったスフィンクス家のために、わざわざ南方まで来て援軍を頼んでいた。婚約者を失って、なにも考えずに泣いていたいだろうに、アンタの代わりにこの西方の地を守ろうとしていた」

「・・・なんの話だ?」

「ナームちゃんはお前の死を嘆いてはいなかった。でも、それはお前を愛していなかったというわけではなく、お前が死んだいうことを信じきれなかったからだ。今のアンタの変わり果てた姿を見たら、きっと声を上げて泣いちまうだろうな」

「・・・・・・」

「それを聞いた上で、お前はまだ『恐怖の軍勢』に組みするのかよ。あの二人のことを殺せるのか?」

「笑止・・・! 情に訴えるとは、情けないことを!」

 バロンは怒りに表情を歪めて、噛みつくように吠えた。

「家族への愛だ、故郷への愛だ、そんな惰弱なものはとうに捨てた! 全ては女王陛下のためだ! 女王があの二人を贄としてご所望ならば、喜んで切り刻んで差しだそうぞ!」

「そうかよ・・・だったら、二人は俺がもらうことにするよ」

「なっ・・・!?」

 俺は牙を剥いて笑い、驚愕の表情を浮かべるバロンへと中指を立てる。

「お前みたいな干物顔には可愛い妹も、美人の婚約者ももったいないぜ。二人とも俺がもらってやるから、有り難く思えよ」

「貴様・・・なにをっ!」

「別にいいだろう? どうせ捨てた女だ。カイロ嬢・・・ミストは細身だけど出るところはキッチリ出ているし、抱き心地はさぞいいだろうな。ナームちゃんも確実に将来有望。素敵なレディになるだろうし、二人並べて美味しくいただいてやる。塩をかけられたナメクジみたいに乾いたお前のイチモツじゃあ、とてもそんなことはできないだろ? ざまあみやがれ」

「愚弄を・・・! この私を侮辱するな! 私は死を乗り越えて、生者を超越した存在ぞ!」

「たき火の薪くらいにしか使い道のない枯れ木が、偉そうにほざくなよ。生者を舐めてると、そっちのほうが痛い目を見るぜ?」

「だったら・・・やってみせるがいい、ディンギル・マクスウェル!!」

 バロンが憤怒の表情で床を蹴った。曲刀を振りかざし、俺の脳天めがけて叩きつけようとする。
 頭蓋を真っ二つにするであろう渾身の一撃を、俺は鋼の剣で受け流す。

「むっ!?」

「やってみせてやろうじゃないか・・・これが最後の決闘だ、バロン先輩!」

 俺は右手の剣でバロンの曲刀を押さえ込み、乾いたミイラの顔面に左手の拳を叩きつけた。

しおりを挟む
感想 1,043

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。