俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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第4章 砂漠陰謀編

34.密偵(兄)の失態

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 三の砦で勝利を収めて以来、滅亡寸前だったスフィンクス家は息を吹き返して反撃を始めた。
 もともと西方辺境に侵入した『恐怖の軍勢』の半数が砦へと群がっており、残る半数は獲物を求めて無秩序に散らばっているだけだった。
 敵の主力を叩いたスフィンクス家の兵士達は、俺が率いる冒険者部隊、サンダーバード家からの援軍と協力して、各地に散っていた死者の群れを各個撃破していった。
 敵に奪われた領地を取り戻していき、戦線を西に大きく押し戻したのであった。

「連中に戦略や軍略の概念があれば、こうも簡単にいかなかっただろうな。しょせんは脳がひからびた干物の群れということか」

 ソファに深々と座り、俺はのんびりとした口調でつぶやいた。
 俺がいる場所は領都テーベにある、スフィンクス家から借り受けた屋敷である。
 戦いが落ち着いてきたおかげでテーベに戻って休養を取る余裕ができており、こうして仮初の宿としている屋敷へと滞在していたのだった。

 目の前のテーブルには西方辺境の地図が広げられている。地図の上には黒と白の石が無数に並べられていた。白の石が人間サイドの軍。黒の石が『恐怖の軍勢』を示している。
 三の砦での戦いからすでに二週間が経過し、かつてはスフィンクス家の領地の半分を制圧していた『恐怖の軍勢』はその生息範囲を大きく西へと削られることになった。
 地図の上でも黒石は西の国境周辺に手狭に押し込められており、地図上の大部分を白石が制圧しつつあった。

「どうやら危機を脱したようであるな! ここまでくれば、もはや我らの力は必要ないのではないか?」

 そんなふうに言ってきたのはテーブルを挟んで対面に座っている男――『鋼牙』の密偵であるオボロだった。
 俺は部下の言葉に肩をすくめて、地図の西端に書かれている要塞の絵を指で叩いた。

「そうだな。残るはこの場所、ギザ要塞さえ取り戻してしまえば、砂漠に蓋をしてこれ以上ミイラが増えるのを防ぐことができる。勝利は目前だろう」

「それにしては浮かない顔であるな? どうかしたのであるか?」

 オボロが首を傾げて不思議そうな顔をした。俺は「ふむ」と一度つぶやいて、眉間にシワを寄せながら心中を吐露する。

「別になにかあるってわけじゃあないけどな。どうにも嫌な予感がしてしょうがない。このまま楽に終わらせてもらえないような気がする」

「・・・若殿の予感はよく当たるのである。できれば余計なことは言わないでいただけると有り難いのである」

「そりゃあ無理だな・・・ところで、オボロ。頼んでおいた件はどうなった?」

 俺はふと思い出して、オボロに尋ねた。。
 以前、オボロにはスフィンクス家と対立関係にある貴族について調べておくように命じていた。

「その事であるが、いくつかの『白肌の貴族』がよからぬ動きを見せているのである。特にマッサーブ子爵という男の屋敷に怪しい男が出入りしているのを、部下の忍びが目撃しているのである」

「マッサーブ子爵・・・聞かない名前だな」

「『白肌』のまとめ役のような男である。少し前にスフィンクス家から援軍要請があったにもかかわらず断った男なのである」

「ほう、寄子のぶんざいで盟主である辺境伯家に逆らったわけか」

 俺は皮肉気に唇を歪めた。
 推察するに、今回の『恐怖の軍勢』の侵入によってスフィンクス家が滅亡するものと考えていたのだろう。どうせ滅ぶ家には報復もできないとタカをくくってのことに違いないが、今頃さぞや焦っているはずである。

「それで、マッサーブ子爵と会っていた者の素性は掴んでいるのか? 尾行はしたんだろう?」

「む・・・それは、うむむ・・・」

 俺が確認すると、オボロはなぜか口をへの字に曲げて視線をそむけた。

「おいおい、まさか失敗したとか言わないよな?」

「ぐ・・・そのまさかなのである。見張りを任せていた部下が尾行をしたようであるが、途中で見失ったとのことである」

「ああ? 天下の『鋼牙』ともあろう者達がずいぶんな失態じゃねえか。尾行に気づかれたうえに、まんまと撒かれるなんてよ」

「むう・・・言い返す言葉もないのである」

 叱責を受けたオボロがへにゃりと眉尻を下げる。
 俺はやれやれと頭を掻き、落ち込んでいる密偵から詳しい事情を聞いてみることにした。
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