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第4章 砂漠陰謀編

33.若返りの勇将

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「おいおい、こいつはどうなっていやがる?」

 目の前に現れた金髪の青年の姿に、俺は頭を掻きながら唸った。
 その青年の姿はバロン・スフィンクスそのものである。違いがあるとすれば、青年の鼻の下には綺麗に切りそろえられた金色のヒゲがあるくらいだろう。
 俺は視線を青年の指にはめられた赤銅色の指輪へと向けて、瞳を細めた。

「その指輪、魔具なのか。効力は・・・若返りか?」

「いかにも!」

 青年――若々しい姿となったベルト・スフィンクスは胸を張って高々と叫んだ。

「これぞ我が家に伝わる魔具の一つ、【過去賢人】! その効力は指輪を嵌めた人間を全盛期の姿へと若返らせることだ! 見ての通り、外見はもちろん・・・」

 ベルトは部下の持っていた槍を奪い取り、北方から迫る『恐怖の軍勢』へと投擲した。
 凄まじい膂力で放たれた槍は大砲のような勢いで飛んでゆき、数体の死者をまとめて串刺しにして地面へと突き刺さる。

「力も在りし日のままである! 病も消えているし、今ならば死者の千や二千、まとめて切り払ってくれようぞ!」

「・・・そんな切り札をどうして隠していたのやら。それがあったら、俺の援軍なんていらなかったんじゃないか?」

「ふっ、生憎とそう旨い話はなくてな。強い魔具にはそれだけの対価があるということだ」

 俺の言葉に皮肉気な笑みを返して、ベルトは改めて曲刀を北へと向ける。

「スフィンクスの勇敢なる戦士達よ! 反撃のときは今、故郷を取り戻すときは今である! 全軍突撃!」

『おおおおおおおおっ!』

 スフィンクス家の兵士達がベルトの声に応えて高々とときの声を上げる。地面を踏み鳴らし、若返った勇将を先頭にして北方から迫りくる『恐怖の軍勢』へと果敢に突進していく。
 最高のポテンシャルを取り戻した指揮官に率いられた兵士達は、まるで大牛の大群のように死者の群れを蹴散らしていく。

「おいおい、若作りのオッサンにばかりいい格好をさせるわけにはいかないな。俺もちょっと本気を出させてもらおうか」

 俺はその奮迅ぶりに苦笑しつつ、南へと目を向けた。迫りくる死者の群れへと剣先を向けつつ、右腕に嵌めた魔具を発動させる。

「【豪腕英傑】! いい加減に鬱陶しい死者共にはご退場願おうか!」

 眩いばかりの銀色の光が俺の身体を包み込む。
 さきほど回復アイテム代わりに使っていたときとは違って、その力の全てを身体能力の強化へと注ぎ込む。
 深く息を吸い込み、足に力を込めて思い切り地面を蹴りつけた。限界まで強化された脚力によって数十メートルの距離を一足で踏破して、剣を横薙ぎに払う。
『恐怖の軍勢』の最前列がまとめて真っ二つに切り裂かれ、音もなく砂となって地面に落ちた。

「おおっ!?」

「ぐ、軍曹ッ!?」

 まるで瞬間移動したかのように敵陣へと飛び込んだ俺に、冒険者達が驚愕の声を上げる。
 俺は振り返ることなく、はるか後方にいる部下達へとげきを飛ばす。

「お前らの足は飾りかよ! さっさとついてきやがれ!」

「お、おおっ!」

 冒険者達が慌てて進軍を始めて、南方から迫りくる『恐怖の軍勢』へと立ち向かう。
 彼らの到着を待つことなく、俺は銀の光を纏って死者の群れの中を駆け抜けた。

「はああアアアアアっ!」

『グ、ガアアアアアッ!』

 俺は勢いを緩めることなく進撃する。大地を踏みしめるたびに土煙が上がって戦場を舞う。
 ミイラの兵士達が剣や槍を向けてくるが、俺は最小限の動きでその切っ先を躱してすれ違いざまにその身体を切り裂いていく。首を刎ね飛ばし、四肢を切り飛ばし、背骨を断ち、胴体を両断する。
 もしもこれが生身の人間が相手であったのならば、辺りは血の海となり、臓物と骨が散らばる地獄絵図となっただろう。
 幸いと言っていいのだろうか、打倒された『恐怖の軍勢』は血の一滴すらも流すことなく砂に還り、地面に小さな山を作るだけであった。

「軍曹殿に続けええええっ!」

『うおおおおおおおおおっ!』

 後方からようやく冒険者達がたどり着いた。俺が討ち漏らした敵に剣や槍を突きこんで倒していく。
 俺と離れたことで【豪腕英傑】による回復効果は失われてしまったが、彼らに怯む様子は全くなかった。恐れることなく、死者の群れを次々と撃破していく。

「猛将の下に弱卒なし、ってやつだな。思ったより根性を見せてくれるじゃねえか。根無し草の冒険者のくせに」

 当初は冒険者達を捨て駒にするつもりだったが、いつの間にか彼らは使い捨ての死兵から生え抜きの精鋭へと生まれ変わっていた。

「ふっ、結構。実に結構! そのまま俺の許可なく倒れてくれるなよ!」

 俺はさらに速度を上昇させて、剣を振りかざしながら敵陣を疾走する。
 三の砦を取り巻いていた『恐怖の軍勢』が一体残らず討滅させられたのは、それから一時間後のことであった。
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