222 / 317
第4章 砂漠陰謀編
33.若返りの勇将
しおりを挟む
「おいおい、こいつはどうなっていやがる?」
目の前に現れた金髪の青年の姿に、俺は頭を掻きながら唸った。
その青年の姿はバロン・スフィンクスそのものである。違いがあるとすれば、青年の鼻の下には綺麗に切りそろえられた金色のヒゲがあるくらいだろう。
俺は視線を青年の指にはめられた赤銅色の指輪へと向けて、瞳を細めた。
「その指輪、魔具なのか。効力は・・・若返りか?」
「いかにも!」
青年――若々しい姿となったベルト・スフィンクスは胸を張って高々と叫んだ。
「これぞ我が家に伝わる魔具の一つ、【過去賢人】! その効力は指輪を嵌めた人間を全盛期の姿へと若返らせることだ! 見ての通り、外見はもちろん・・・」
ベルトは部下の持っていた槍を奪い取り、北方から迫る『恐怖の軍勢』へと投擲した。
凄まじい膂力で放たれた槍は大砲のような勢いで飛んでゆき、数体の死者をまとめて串刺しにして地面へと突き刺さる。
「力も在りし日のままである! 病も消えているし、今ならば死者の千や二千、まとめて切り払ってくれようぞ!」
「・・・そんな切り札をどうして隠していたのやら。それがあったら、俺の援軍なんていらなかったんじゃないか?」
「ふっ、生憎とそう旨い話はなくてな。強い魔具にはそれだけの対価があるということだ」
俺の言葉に皮肉気な笑みを返して、ベルトは改めて曲刀を北へと向ける。
「スフィンクスの勇敢なる戦士達よ! 反撃のときは今、故郷を取り戻すときは今である! 全軍突撃!」
『おおおおおおおおっ!』
スフィンクス家の兵士達がベルトの声に応えて高々と鬨の声を上げる。地面を踏み鳴らし、若返った勇将を先頭にして北方から迫りくる『恐怖の軍勢』へと果敢に突進していく。
最高のポテンシャルを取り戻した指揮官に率いられた兵士達は、まるで大牛の大群のように死者の群れを蹴散らしていく。
「おいおい、若作りのオッサンにばかりいい格好をさせるわけにはいかないな。俺もちょっと本気を出させてもらおうか」
俺はその奮迅ぶりに苦笑しつつ、南へと目を向けた。迫りくる死者の群れへと剣先を向けつつ、右腕に嵌めた魔具を発動させる。
「【豪腕英傑】! いい加減に鬱陶しい死者共にはご退場願おうか!」
眩いばかりの銀色の光が俺の身体を包み込む。
さきほど回復アイテム代わりに使っていたときとは違って、その力の全てを身体能力の強化へと注ぎ込む。
深く息を吸い込み、足に力を込めて思い切り地面を蹴りつけた。限界まで強化された脚力によって数十メートルの距離を一足で踏破して、剣を横薙ぎに払う。
『恐怖の軍勢』の最前列がまとめて真っ二つに切り裂かれ、音もなく砂となって地面に落ちた。
「おおっ!?」
「ぐ、軍曹ッ!?」
まるで瞬間移動したかのように敵陣へと飛び込んだ俺に、冒険者達が驚愕の声を上げる。
俺は振り返ることなく、はるか後方にいる部下達へと檄を飛ばす。
「お前らの足は飾りかよ! さっさとついてきやがれ!」
「お、おおっ!」
冒険者達が慌てて進軍を始めて、南方から迫りくる『恐怖の軍勢』へと立ち向かう。
彼らの到着を待つことなく、俺は銀の光を纏って死者の群れの中を駆け抜けた。
「はああアアアアアっ!」
『グ、ガアアアアアッ!』
俺は勢いを緩めることなく進撃する。大地を踏みしめるたびに土煙が上がって戦場を舞う。
ミイラの兵士達が剣や槍を向けてくるが、俺は最小限の動きでその切っ先を躱してすれ違いざまにその身体を切り裂いていく。首を刎ね飛ばし、四肢を切り飛ばし、背骨を断ち、胴体を両断する。
もしもこれが生身の人間が相手であったのならば、辺りは血の海となり、臓物と骨が散らばる地獄絵図となっただろう。
幸いと言っていいのだろうか、打倒された『恐怖の軍勢』は血の一滴すらも流すことなく砂に還り、地面に小さな山を作るだけであった。
「軍曹殿に続けええええっ!」
『うおおおおおおおおおっ!』
後方からようやく冒険者達がたどり着いた。俺が討ち漏らした敵に剣や槍を突きこんで倒していく。
俺と離れたことで【豪腕英傑】による回復効果は失われてしまったが、彼らに怯む様子は全くなかった。恐れることなく、死者の群れを次々と撃破していく。
「猛将の下に弱卒なし、ってやつだな。思ったより根性を見せてくれるじゃねえか。根無し草の冒険者のくせに」
当初は冒険者達を捨て駒にするつもりだったが、いつの間にか彼らは使い捨ての死兵から生え抜きの精鋭へと生まれ変わっていた。
「ふっ、結構。実に結構! そのまま俺の許可なく倒れてくれるなよ!」
俺はさらに速度を上昇させて、剣を振りかざしながら敵陣を疾走する。
三の砦を取り巻いていた『恐怖の軍勢』が一体残らず討滅させられたのは、それから一時間後のことであった。
目の前に現れた金髪の青年の姿に、俺は頭を掻きながら唸った。
その青年の姿はバロン・スフィンクスそのものである。違いがあるとすれば、青年の鼻の下には綺麗に切りそろえられた金色のヒゲがあるくらいだろう。
俺は視線を青年の指にはめられた赤銅色の指輪へと向けて、瞳を細めた。
「その指輪、魔具なのか。効力は・・・若返りか?」
「いかにも!」
青年――若々しい姿となったベルト・スフィンクスは胸を張って高々と叫んだ。
「これぞ我が家に伝わる魔具の一つ、【過去賢人】! その効力は指輪を嵌めた人間を全盛期の姿へと若返らせることだ! 見ての通り、外見はもちろん・・・」
ベルトは部下の持っていた槍を奪い取り、北方から迫る『恐怖の軍勢』へと投擲した。
凄まじい膂力で放たれた槍は大砲のような勢いで飛んでゆき、数体の死者をまとめて串刺しにして地面へと突き刺さる。
「力も在りし日のままである! 病も消えているし、今ならば死者の千や二千、まとめて切り払ってくれようぞ!」
「・・・そんな切り札をどうして隠していたのやら。それがあったら、俺の援軍なんていらなかったんじゃないか?」
「ふっ、生憎とそう旨い話はなくてな。強い魔具にはそれだけの対価があるということだ」
俺の言葉に皮肉気な笑みを返して、ベルトは改めて曲刀を北へと向ける。
「スフィンクスの勇敢なる戦士達よ! 反撃のときは今、故郷を取り戻すときは今である! 全軍突撃!」
『おおおおおおおおっ!』
スフィンクス家の兵士達がベルトの声に応えて高々と鬨の声を上げる。地面を踏み鳴らし、若返った勇将を先頭にして北方から迫りくる『恐怖の軍勢』へと果敢に突進していく。
最高のポテンシャルを取り戻した指揮官に率いられた兵士達は、まるで大牛の大群のように死者の群れを蹴散らしていく。
「おいおい、若作りのオッサンにばかりいい格好をさせるわけにはいかないな。俺もちょっと本気を出させてもらおうか」
俺はその奮迅ぶりに苦笑しつつ、南へと目を向けた。迫りくる死者の群れへと剣先を向けつつ、右腕に嵌めた魔具を発動させる。
「【豪腕英傑】! いい加減に鬱陶しい死者共にはご退場願おうか!」
眩いばかりの銀色の光が俺の身体を包み込む。
さきほど回復アイテム代わりに使っていたときとは違って、その力の全てを身体能力の強化へと注ぎ込む。
深く息を吸い込み、足に力を込めて思い切り地面を蹴りつけた。限界まで強化された脚力によって数十メートルの距離を一足で踏破して、剣を横薙ぎに払う。
『恐怖の軍勢』の最前列がまとめて真っ二つに切り裂かれ、音もなく砂となって地面に落ちた。
「おおっ!?」
「ぐ、軍曹ッ!?」
まるで瞬間移動したかのように敵陣へと飛び込んだ俺に、冒険者達が驚愕の声を上げる。
俺は振り返ることなく、はるか後方にいる部下達へと檄を飛ばす。
「お前らの足は飾りかよ! さっさとついてきやがれ!」
「お、おおっ!」
冒険者達が慌てて進軍を始めて、南方から迫りくる『恐怖の軍勢』へと立ち向かう。
彼らの到着を待つことなく、俺は銀の光を纏って死者の群れの中を駆け抜けた。
「はああアアアアアっ!」
『グ、ガアアアアアッ!』
俺は勢いを緩めることなく進撃する。大地を踏みしめるたびに土煙が上がって戦場を舞う。
ミイラの兵士達が剣や槍を向けてくるが、俺は最小限の動きでその切っ先を躱してすれ違いざまにその身体を切り裂いていく。首を刎ね飛ばし、四肢を切り飛ばし、背骨を断ち、胴体を両断する。
もしもこれが生身の人間が相手であったのならば、辺りは血の海となり、臓物と骨が散らばる地獄絵図となっただろう。
幸いと言っていいのだろうか、打倒された『恐怖の軍勢』は血の一滴すらも流すことなく砂に還り、地面に小さな山を作るだけであった。
「軍曹殿に続けええええっ!」
『うおおおおおおおおおっ!』
後方からようやく冒険者達がたどり着いた。俺が討ち漏らした敵に剣や槍を突きこんで倒していく。
俺と離れたことで【豪腕英傑】による回復効果は失われてしまったが、彼らに怯む様子は全くなかった。恐れることなく、死者の群れを次々と撃破していく。
「猛将の下に弱卒なし、ってやつだな。思ったより根性を見せてくれるじゃねえか。根無し草の冒険者のくせに」
当初は冒険者達を捨て駒にするつもりだったが、いつの間にか彼らは使い捨ての死兵から生え抜きの精鋭へと生まれ変わっていた。
「ふっ、結構。実に結構! そのまま俺の許可なく倒れてくれるなよ!」
俺はさらに速度を上昇させて、剣を振りかざしながら敵陣を疾走する。
三の砦を取り巻いていた『恐怖の軍勢』が一体残らず討滅させられたのは、それから一時間後のことであった。
0
お気に入りに追加
6,111
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています
もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。
使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。