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第4章 砂漠陰謀編
32.変身するおっさん
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スフィンクス家の兵士、五百。
冒険者の部隊、三百。
対する『恐怖の軍勢』は俺達の襲撃によって全体の2割ほどが斃されて、残すところ二千余。
ベルト・スフィンクスは砦の門を押し開けて外に飛び出した。
砦の東側にある門の前には七百ほどの敵がいたが、意気揚々と飛び出したスフィンクス家の兵と、後方から襲撃した冒険者の部隊の挟撃によって瞬く間に数を減らしていった。
やがて俺とベルトが顔を合わせたときにはほとんどが討ち取られており、残骸の砂が風に飛ばされて舞い上がる。
「来てくれなどとは頼んでいないぞ、小僧」
「別に貴方のために来たわけではありませんよ。スフィンクス辺境伯殿」
軽口に応えて、俺は剣を振って最後の一体を切り飛ばす。城門の前に群がっていた死者の群れは全滅し、兵士達が勝ち鬨の声を上げる。
「やれやれ・・・まだ戦いは終わってないのに随分な浮かれようだ」
「仕方があるまい。皆、何日も砦の中に籠りっぱなしだったのだ。かくいう私も、鬱憤がたまって仕方がなかったからな!」
ベルトはヒゲを撫でつけながら痛快そうに言った。
長い籠城生活でよほどストレスをため込んでいたのか、もう敵はいなくなったというのにブンブンと曲刀を振り回している。
病人とは思えないほどの活発さを見せるベルトに苦笑しつつ、俺はその背後に立つ人物へと目を向けた。
「ところで、そちらの方は副官ですか?」
「む? ああ、こいつはジャールといって、スフィンクス家に古くから仕えてくれている男だ」
「・・・お初にお目にかかります。ディンギル・マクスウェル様。ジャール・メンフィスと申します。このたびは遥々東方からのご助力、心より感謝を申し上げます」
「ジャール・・・ああ、カイロ嬢から話は聞いている。バロン先輩と最後に一緒だったという男だな?」
「・・・はい、その通りです。バロン様の最期は私が見届けさせていただきました」
ジャールが沈痛そうな面持ちで頷く。俺は続けて訊ねた。
「・・・先輩の最期はどうだったか、聞かせてもらっても構わないだろうか?」
「・・・は」
俺の問いかけに、ジャールは目を伏せて答えた。
「バロン様は最後まで勇敢に敵と戦い、戦死されました。『ロード級』と呼ばれる強力な死者との戦いで疲労したところを敵に囲まれてしまって・・・全てはあのお方をお救いできなかった私の責任です」
ジャールの説明に、俺は肩をすくめて首を横に振った。
「戦の結果は全て指揮官がとるものだ。貴方の言うようにバロン先輩が戦死したとするならば、それは先輩が背負うべき責だよ。無論、先輩の勇戦を否定するつもりはこれっぽっちもないがね」
「・・・お心遣い、感謝いたします」
ジャールが深々と頭を下げる。その肩を、ベルトが軽く叩いた。
「同胞の死を悼むのはそこまでだ。敵が来たぞ」
ベルトの言葉を受けて周囲に目を向けると、北方と南方、それぞれの方角から『恐怖の軍勢』が迫って来ていた。
どうやら砦の周囲を囲んでいた連中が、城門から兵士が出てきたことに気がついて回り込んできたようである。
俺は剣を天に向けて掲げて、高々と檄を飛ばす。
「勝利に浮かれるのはそこまでだ! 憐れな獲物がわざわざ殺されに来てくれたぞ! 感謝を込めてぶち殺せ!」
「おおっ!」
「やってやるぜ!」
「軍曹殿にどこまでもついて行くぜ!」
数日の訓練の中でよほど俺への畏怖が深まっていたのか、冒険者達は浮かれから一変、戦士の顔つきになって武器を振り上げる。
「マクスウェルにばかり格好をつけさせるな! ここはスフィンクス家の領地だ! 我らが故郷は我らの手で取り戻すぞ!」
「おおっ!」
「スフィンクス家、万歳! ベルト様、万歳!」
続いてベルトが声を張り上げると、スフィンクス家の兵士達が士気も高々と地面を踏み鳴らす。
「私は北から来る敵を片付ける。南は任せても構わないな?」
「もちろん、結構だが・・・病人が無理をするのはお勧めできないな」
ベルトの言葉に苦言を返すと、褐色肌の勇将はヒゲの生えた顔にニカッと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「問題ない、私には切り札がある」
ベルトは首にかかっていた細いヒモを引っ張った。すると、懐の中からヒモを通した指輪が現れた。
赤銅の色をした指輪には古代文字のような意匠が細かく刻まれており、かなり古いもののように見える。
「それは・・・?」
「スフィンクス家に古くから伝わる魔具の一つ【過去賢人】だ・・・その効力は、直接、目に焼きつけるがいい!」
ベルトはヒモを外して、指輪を右手の人差し指へと嵌めこんだ。すると、赤褐色の靄のようなものが指輪から噴き出して、その身体を包み込む。
「これは、なにが・・・!?」
「刮目せよ! この私の本領を!」
「はあっ!?」
靄が晴れて、中から現れた光景に俺は目を見開いた。
「さあ、蹴散らしてくれよう! 私の領地を好き勝手に踏み荒らしたことを後悔するがいい!」
そこから現れたのは、バロン・スフィンクスと瓜二つの顔つきをした若い青年の姿であった。
冒険者の部隊、三百。
対する『恐怖の軍勢』は俺達の襲撃によって全体の2割ほどが斃されて、残すところ二千余。
ベルト・スフィンクスは砦の門を押し開けて外に飛び出した。
砦の東側にある門の前には七百ほどの敵がいたが、意気揚々と飛び出したスフィンクス家の兵と、後方から襲撃した冒険者の部隊の挟撃によって瞬く間に数を減らしていった。
やがて俺とベルトが顔を合わせたときにはほとんどが討ち取られており、残骸の砂が風に飛ばされて舞い上がる。
「来てくれなどとは頼んでいないぞ、小僧」
「別に貴方のために来たわけではありませんよ。スフィンクス辺境伯殿」
軽口に応えて、俺は剣を振って最後の一体を切り飛ばす。城門の前に群がっていた死者の群れは全滅し、兵士達が勝ち鬨の声を上げる。
「やれやれ・・・まだ戦いは終わってないのに随分な浮かれようだ」
「仕方があるまい。皆、何日も砦の中に籠りっぱなしだったのだ。かくいう私も、鬱憤がたまって仕方がなかったからな!」
ベルトはヒゲを撫でつけながら痛快そうに言った。
長い籠城生活でよほどストレスをため込んでいたのか、もう敵はいなくなったというのにブンブンと曲刀を振り回している。
病人とは思えないほどの活発さを見せるベルトに苦笑しつつ、俺はその背後に立つ人物へと目を向けた。
「ところで、そちらの方は副官ですか?」
「む? ああ、こいつはジャールといって、スフィンクス家に古くから仕えてくれている男だ」
「・・・お初にお目にかかります。ディンギル・マクスウェル様。ジャール・メンフィスと申します。このたびは遥々東方からのご助力、心より感謝を申し上げます」
「ジャール・・・ああ、カイロ嬢から話は聞いている。バロン先輩と最後に一緒だったという男だな?」
「・・・はい、その通りです。バロン様の最期は私が見届けさせていただきました」
ジャールが沈痛そうな面持ちで頷く。俺は続けて訊ねた。
「・・・先輩の最期はどうだったか、聞かせてもらっても構わないだろうか?」
「・・・は」
俺の問いかけに、ジャールは目を伏せて答えた。
「バロン様は最後まで勇敢に敵と戦い、戦死されました。『ロード級』と呼ばれる強力な死者との戦いで疲労したところを敵に囲まれてしまって・・・全てはあのお方をお救いできなかった私の責任です」
ジャールの説明に、俺は肩をすくめて首を横に振った。
「戦の結果は全て指揮官がとるものだ。貴方の言うようにバロン先輩が戦死したとするならば、それは先輩が背負うべき責だよ。無論、先輩の勇戦を否定するつもりはこれっぽっちもないがね」
「・・・お心遣い、感謝いたします」
ジャールが深々と頭を下げる。その肩を、ベルトが軽く叩いた。
「同胞の死を悼むのはそこまでだ。敵が来たぞ」
ベルトの言葉を受けて周囲に目を向けると、北方と南方、それぞれの方角から『恐怖の軍勢』が迫って来ていた。
どうやら砦の周囲を囲んでいた連中が、城門から兵士が出てきたことに気がついて回り込んできたようである。
俺は剣を天に向けて掲げて、高々と檄を飛ばす。
「勝利に浮かれるのはそこまでだ! 憐れな獲物がわざわざ殺されに来てくれたぞ! 感謝を込めてぶち殺せ!」
「おおっ!」
「やってやるぜ!」
「軍曹殿にどこまでもついて行くぜ!」
数日の訓練の中でよほど俺への畏怖が深まっていたのか、冒険者達は浮かれから一変、戦士の顔つきになって武器を振り上げる。
「マクスウェルにばかり格好をつけさせるな! ここはスフィンクス家の領地だ! 我らが故郷は我らの手で取り戻すぞ!」
「おおっ!」
「スフィンクス家、万歳! ベルト様、万歳!」
続いてベルトが声を張り上げると、スフィンクス家の兵士達が士気も高々と地面を踏み鳴らす。
「私は北から来る敵を片付ける。南は任せても構わないな?」
「もちろん、結構だが・・・病人が無理をするのはお勧めできないな」
ベルトの言葉に苦言を返すと、褐色肌の勇将はヒゲの生えた顔にニカッと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「問題ない、私には切り札がある」
ベルトは首にかかっていた細いヒモを引っ張った。すると、懐の中からヒモを通した指輪が現れた。
赤銅の色をした指輪には古代文字のような意匠が細かく刻まれており、かなり古いもののように見える。
「それは・・・?」
「スフィンクス家に古くから伝わる魔具の一つ【過去賢人】だ・・・その効力は、直接、目に焼きつけるがいい!」
ベルトはヒモを外して、指輪を右手の人差し指へと嵌めこんだ。すると、赤褐色の靄のようなものが指輪から噴き出して、その身体を包み込む。
「これは、なにが・・・!?」
「刮目せよ! この私の本領を!」
「はあっ!?」
靄が晴れて、中から現れた光景に俺は目を見開いた。
「さあ、蹴散らしてくれよう! 私の領地を好き勝手に踏み荒らしたことを後悔するがいい!」
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