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第4章 砂漠陰謀編
13.彼女の手紙
しおりを挟むディンギル・マクスウェル様
初めてお手紙を出します。ナームといいます。
先日は突然、文通を申し込んだりして失礼いたしました。あなたはきっとわけもわからず、混乱しているかと思います。
でも、私にとってこれはとても大事なことで、あなたにどうしても伝えたいことがあって、それでこうしてペンをとらせていただきました。
今はまだそのことについて話す勇気がないのですが、いつか必ずあの時のことを話して、改めてお礼を言いたいと思います。
つまり、その・・・私も何と言っていいのかまとまらないのですが、とにかく、私はあなたに仲良くなりたいと思っています。
変ですよね、一度しか会ったことがないのに・・・
またお手紙を書きます。できれば、お返事をいただければ嬉しいです。
最近、お庭に植えているサボテンが花を咲かせました。
あ、サボテンという植物はご存じですか? 西方特有の植物なんですが、緑色の幹にたくさん針が生えていて、触ると指に刺さってチクチクしています。それなのに花はとってもキレイで、鮮やかな色をしているんです。
砂漠の砂の上でも生きることができる強い植物で、亡くなった母はこんなふうになって欲しいって私にいつも言ってました。
いつか、ディンギルさまと一緒にサボテンの花を見てみたいな・・・
なんちゃって。
またお手紙書きます。
これから秋になりますから、どうぞ風邪をひかれませんよう。
ディンギルさま! 婚約破棄の話を聞きました!
ディンギルさまは全く悪くありません! ディンギルさまは私みたいな子にいつも優しくしてくれて、誕生日には時計を送ってくれて、こうして文通にも付き合ってくれて、とにかくディンギルさまは何も悪くありません!
だから、気を落としたりしないでください!
きっとその女性とディンギルさまは結ばれる運命じゃなかったんだと思います!
ディンギル様にふさわしい女性は他にいて、その子はディンギルさまのことをとてもお慕いしているのだと思います!
私だって・・・ええと、その、とにかくディンギルさまは気にすることはありません!
その女性はディンギルさまを選ばなかったことを絶対に後悔しますから!
絶対にです!!
帝国が東方辺境へと攻めてきた兄から聞きました。
ディンギルさまが追い払ったと聞いて、やっぱりディンギルさまはとてもすごい方なのだと改めて思いました。
ケガをしたりはしていませんか? 痛いところはないですか? 手紙と一緒に、西で採れる薬草を送らせていただきます。何かのお役に立てばいいのだけど・・・
ディンギルさまはとてもお強い方ですけど、それでもときおり、私は心配になってしまいます。
あの強かった兄でさえ倒せるディンギルさまを私なんかが案じるのはおかしなことかもしれませんけど、あなたが健やかであることをいつも祈っております。
またお手紙お送りします。
最近、手紙の返事が来なくて心配しています。
あ、これは決して催促をしているわけではなくて、純粋にディンギルさまがお元気でいらっしゃるか気になっているだけで・・・
ごめんなさい、私なんかがディンギルさまを心配するなんておこがましいことかもしれません。それでも、あなたが危ないことをしてケガをしているかもしれないと思うと、いてもたってもいられなくなってしまいます。
どうかご無事でいらっしゃるかどうかだけでも、お教えいただければ嬉しく思います。
お返事、お待ちしております。
ひょっとしたら、これが最後のお手紙になるかもしれません。
先日、西方辺境の要塞が陥落して、兄が戦死したとの報告が入りました。あの強かった兄が命を落とすなど信じられず、いまだに実感がわきません。
西から恐るべき敵の軍勢が流れ込んできて、やがて西方辺境は大きな戦乱になるかと思います。
私も無事に戦いを乗り越えられるかどうか、わかりません。私は兄よりもずっと弱いですから。
ディンギルさまはご存じないかと思いますが、私は昔、あなたに命を救っていただいたことがあります。
いつかあなたにその時のお礼が言いたくて、あなたとの縁を切りたくなくて、闘技場で兄に紹介されたときには、思わず文通を申し込んでしまいました。
本当はきちんと恩返しをしたかったのですが、私にはもうそんな時間が残っていないかもしれません・・・だから、せめてお礼の言葉だけでもお伝えしておきます。
私を救っていただき、本当にありがとうございました。
スフィンクス家の娘としてはこんなことを言ってはいけないかもしれませんが、どうか西方に援軍を送らないでください。
私達の存在があなたの負担になるなど、我慢できませんから。
ディンギルさまは、どうかご自分の領地を守ることだけを考えてください。
あなたの幸福をお祈りしています。
ナーム・スフィンクス
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