俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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第4章 砂漠陰謀編

7.会談の終わり

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 カイロ嬢の要請はおおむね、こちらの予想通りであった。
 国境を越えた『恐怖の軍勢』への対処のために援軍を送ること。その見返りとして金銭や財宝を支払うこと、西方と南方での貿易について南方に便宜を図ることなどを提示してきた。

「よろしければ・・・マクスウェル家にもご助力いただきたいのですけど・・・」

「んー、マクスウェル家としてもスフィンクス家の危機を放置したくはないんだが・・・」

 万が一、西方辺境で『恐怖の軍勢』を押しとどめることができなかった場合、恐るべき死者の群れは国中に散っていくだろう。
 そうなったら、もはや止めることはできない。対岸の火事を眺めるつもりでいたら、こっちまで破滅してしまうだろう。

「マクスウェル家の領地は正反対だからな。簡単に援軍を送れる立地じゃあない。ちなみに、王宮やウトガルド家には援軍要請をしたのか?」

「ええ、どちらもすでに使者が向かっているわ。どちらも期待できないというのがお義父様の見立てなのだけど・・・」

 カイロ嬢はヴェールの下で物憂げに睫毛を伏せた。俺も内心で同意する。
 王宮は先王が病床に倒れ、新しい国王はいまだ幼い年齢である。ロサイス公爵家が支えているようだが、辺境に援軍を送れるほど力が戻っているか怪しいところである。
 ウトガルド家に至っては、その領地の大部分が高所の寒冷地帯である。山岳戦闘においては無敵を誇る勇猛な山岳民族も、灼熱の砂漠が広がる西方辺境に繰り出しては慣れない環境にほとんど力を発揮できないだろう。
 落ち込んだ様子のカイロ嬢の姿に、励ますようにエキドナが明るく笑う。

「つまり、まともに援軍を送れるのはウチだけということね。安心して構いませんよ? 南方辺境には傭兵が山のようにいるし、お金さえもらえればいくらでも兵は出せますから」

「そうですか、とても有り難いです」

「近々、俺もマクスウェル家に戻る予定だ。そのときに援軍のことは親父に伝えておこう。まあ、王宮が王都周辺の直轄領を通る許可を出してくれればの話だが」

「ウチの領地を通っていくのは・・・さすがに遠いわよね」

「それだけ遠回りしたら時間も労力もかかり過ぎるからな。費用の問題ではなく難しいな」

 東方辺境と南方辺境には両者を隔てるように険しい山々が立ちふさがっている。少人数での移動であれば山道を通って可能であるが、大規模な軍隊を送り込むことは至難であった。
 王宮が王国中央の通過を認めてくれなければ、マクスウェル家から援軍を出すことはできそうもなかった。

「ロサイス公爵がどこまで頑張ってくれるかだな・・・まあ、頑張ってみるから、期待せずに待っていてもらいたい」

「そうします・・・ああ、それと、マクスウェル様にお渡しするものがあったのでした」

 カイロ嬢が物憂げに細い息を吐きながら一通の手紙を取り出した。
 差し出された便箋を確認すると、裏側に「ナーム・スフィンクス」の名前が記されていた。

「ナームちゃんからか。随分と久しぶりだな」

「貴方が留守中にしている間にも何度か手紙を出していたみたいだけどね。何カ月も返事が来なくて、少し落ち込んでいたわ」

「それは申し訳ないことをした。謝っておいてもらえると嬉しいのだが・・・」

「直接、あの子に言ってあげて頂戴。手紙でも構わないから。そっちの方が喜ぶわよ」

「・・・・・・」

 どうしてこんなに懐かれてしまったのかと首を傾げつつ、俺は便箋を懐へと収めた。

「それじゃあ、俺はこの辺りで失礼しよう。スフィンクス家の皆様の勝利を心より祈っている」

「ええ、わざわざありがとう。援軍を抜きにしても、近いうちにナームに会いに来てくれると嬉しいわ」

 俺は丁寧に頭を下げてサンダーバード家から辞して、そのままサクヤが待つ宿へと帰還した。
 事前に荷物をまとめておくように命じていたため、すでに帰り支度はできている。
 その日のうちに、マクスウェル辺境伯領に帰還するべく宿を後にしたのだった。

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