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第4章 砂漠陰謀編
6.喪服の使者
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「お久しぶりですね、カイロ嬢。スフィンクス夫人とお呼びしたほうがよろしいですか」
「まだ籍は入れておりませんので、カイロで結構ですよ」
俺の挨拶にカイロ嬢は丁寧に腰を折って応える。
彼女と最後に顔を合わせたのは2年前。王都で開かれた武術大会の折、バロン先輩の応援に来た彼女と会って以来である。
俺は目の前で頭を下げている彼女の服装を観察する。
カイロ嬢が身に着けた黒いドレスは袖が長く手首まで覆われており、裾は足首まで届くほどの長さである。頭には半透明のこれまた黒いヴェールを駆けており、顔をすっぽりと覆っている。
大陸南方の亜熱帯地域であるこの町にはそぐわない、見ているだけで暑そうな格好である。
(この服は・・・まさか喪服か?)
カイロ嬢の服装を見て、俺は胸がざわつくのを感じた。
西方国境の要塞が落とされて、そこでバロン・スフィンクスが行方不明になっていると報告を受けている。
「カイロ様、その格好はもしかして・・・」
同じことが気になったらしく、エキドナが言いづらそうに言葉を濁す。
カイロ嬢はヴェールの向こうで目を伏せて、わずかに唇を震わせる。
「お察しの通りです。私の婚約者であるバロンはすでに西の要塞で・・・」
「まさか・・・あり得ないだろ」
俺は奥歯を噛みしめて唸る。
バロン先輩とは学院の模擬試合や武術大会で何度も剣を合わせている。先輩は感情的で向こう見ずな性格ではあるが、手堅い守りは俺の剣にはないものであった。
あのバロン先輩が簡単にやられるなど、到底信じられることではなかった。
「バロンに仕えていた側近が彼の死を確認しています。壮絶な戦いの末の見事な戦死であったと」
「・・・・・・」
俺は顔をしかめた。反論をしようと口を開くが、結局言葉を発しないまま目を逸らした。
バロンの死が信じられないのは、俺よりも婚約者であるカイロ嬢のほうだろう。彼女がバロン先輩の死を確認したというのなら、きっとそういうことなのだろう。
「・・・気高い英雄の奮戦に敬意を表する」
「ありがとうございます。きっとバロンも喜びます」
俺が知るカイロ嬢は快活で明るい性格だったと記憶しているが、目の前にいる女性は言葉の端々に陰が差しているのを感じた。
「バロンはマクスウェル様のことを好敵手だと思っていたようです。いつか貴方に勝って見せるといつも言っておりました」
「先輩はとっくに勝っていましたよ。そして、二度と敗北することはない」
俺は天井に視線を向けてゆっくりと息を吐いた。
黙り込んだ俺とカイロ嬢を交互に見て、エキドナが困ったような声で口をはさんでくる。
「さて、そろそろ本題に移りましょうか。カイロ様、当家にお越しの理由を窺ってもよろしいかしら?」
「そうですね・・・まずはスフィンクス家の現状について説明させていただきますが、現在、西方辺境は壊滅の危機に瀕しています」
カイロ嬢は真剣なまなざしをエキドナへと向ける。
「国境の要塞が落とされ、『恐怖の軍勢』が領内へと侵入してきました。敵軍は散り散りとなって西方辺境中へと広がっていき、村や町を次々と襲っています。スフィンクス家の騎士や各地の領主が迎え撃っていますが、相手の数が多すぎて対処しきれていない状態です」
「指揮は誰がとっているんだ? バロン先輩がいないのなら・・・」
「スフィンクス家の指揮は現当主であるお義父さまが執っています」
スフィンクス家の現当主は俺の父と同年代で、英傑として知られている人物である。
「しかし、現当主のサンド・スフィンクス殿は病床の身と聞いていたが・・・」
「はい、病の身体に鞭を打ち、それでも西方辺境のために戦っています」
「そうか・・・たいした御仁だな」
「それで、当家にお越しの理由はやはり・・・」
エキドナの言葉にカイロ嬢は頷いた。
「はい、サンダーバード家に援軍をお願いしたくて参りました。どうか西方辺境を救うためにお力添えをください」
「まだ籍は入れておりませんので、カイロで結構ですよ」
俺の挨拶にカイロ嬢は丁寧に腰を折って応える。
彼女と最後に顔を合わせたのは2年前。王都で開かれた武術大会の折、バロン先輩の応援に来た彼女と会って以来である。
俺は目の前で頭を下げている彼女の服装を観察する。
カイロ嬢が身に着けた黒いドレスは袖が長く手首まで覆われており、裾は足首まで届くほどの長さである。頭には半透明のこれまた黒いヴェールを駆けており、顔をすっぽりと覆っている。
大陸南方の亜熱帯地域であるこの町にはそぐわない、見ているだけで暑そうな格好である。
(この服は・・・まさか喪服か?)
カイロ嬢の服装を見て、俺は胸がざわつくのを感じた。
西方国境の要塞が落とされて、そこでバロン・スフィンクスが行方不明になっていると報告を受けている。
「カイロ様、その格好はもしかして・・・」
同じことが気になったらしく、エキドナが言いづらそうに言葉を濁す。
カイロ嬢はヴェールの向こうで目を伏せて、わずかに唇を震わせる。
「お察しの通りです。私の婚約者であるバロンはすでに西の要塞で・・・」
「まさか・・・あり得ないだろ」
俺は奥歯を噛みしめて唸る。
バロン先輩とは学院の模擬試合や武術大会で何度も剣を合わせている。先輩は感情的で向こう見ずな性格ではあるが、手堅い守りは俺の剣にはないものであった。
あのバロン先輩が簡単にやられるなど、到底信じられることではなかった。
「バロンに仕えていた側近が彼の死を確認しています。壮絶な戦いの末の見事な戦死であったと」
「・・・・・・」
俺は顔をしかめた。反論をしようと口を開くが、結局言葉を発しないまま目を逸らした。
バロンの死が信じられないのは、俺よりも婚約者であるカイロ嬢のほうだろう。彼女がバロン先輩の死を確認したというのなら、きっとそういうことなのだろう。
「・・・気高い英雄の奮戦に敬意を表する」
「ありがとうございます。きっとバロンも喜びます」
俺が知るカイロ嬢は快活で明るい性格だったと記憶しているが、目の前にいる女性は言葉の端々に陰が差しているのを感じた。
「バロンはマクスウェル様のことを好敵手だと思っていたようです。いつか貴方に勝って見せるといつも言っておりました」
「先輩はとっくに勝っていましたよ。そして、二度と敗北することはない」
俺は天井に視線を向けてゆっくりと息を吐いた。
黙り込んだ俺とカイロ嬢を交互に見て、エキドナが困ったような声で口をはさんでくる。
「さて、そろそろ本題に移りましょうか。カイロ様、当家にお越しの理由を窺ってもよろしいかしら?」
「そうですね・・・まずはスフィンクス家の現状について説明させていただきますが、現在、西方辺境は壊滅の危機に瀕しています」
カイロ嬢は真剣なまなざしをエキドナへと向ける。
「国境の要塞が落とされ、『恐怖の軍勢』が領内へと侵入してきました。敵軍は散り散りとなって西方辺境中へと広がっていき、村や町を次々と襲っています。スフィンクス家の騎士や各地の領主が迎え撃っていますが、相手の数が多すぎて対処しきれていない状態です」
「指揮は誰がとっているんだ? バロン先輩がいないのなら・・・」
「スフィンクス家の指揮は現当主であるお義父さまが執っています」
スフィンクス家の現当主は俺の父と同年代で、英傑として知られている人物である。
「しかし、現当主のサンド・スフィンクス殿は病床の身と聞いていたが・・・」
「はい、病の身体に鞭を打ち、それでも西方辺境のために戦っています」
「そうか・・・たいした御仁だな」
「それで、当家にお越しの理由はやはり・・・」
エキドナの言葉にカイロ嬢は頷いた。
「はい、サンダーバード家に援軍をお願いしたくて参りました。どうか西方辺境を救うためにお力添えをください」
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