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第4章 砂漠陰謀編
5.西方からの使者
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翌日の昼過ぎ。早めに昼食を摂った俺は、事前に指定されていた時間にサンダーバード家を訪れた。
執事に案内されて通された応接間にはエキドナ・サンダーバードの姿があり、ソファに優雅に腰を据えて扇で顔をあおいでいる。
「あら、ディン。時間通りじゃないの。寝坊しなくてよかったわ」
「ガキ扱いするんじゃねえよ。俺はもう19だぜ?」
「ふふっ、サクヤちゃんとお楽しみで寝坊するかと思ったんだけど、いつの間にか辺境伯家の次期当主としての自覚が芽生えたのかしら?」
「・・・お前ひとりか? 当主殿はどうした?」
エキドナの言葉を無視して、俺は一方的に問いかけた。
父親のことを尋ねられたエキドナは嫣然と唇の端を吊り上げ、パンと畳んだ扇で手の平を叩いた。
「お父様だったらサファイア王国に商談に行っているわよ。誰かさんのおかげで南洋諸島が騒がしくなっているから、商売のチャンスだって言ってね」
「俺のせいでないことは確かだな・・・しかし、そうか」
サンダーバード家の当主であるジャンゴ・サンダーバードが不在である以上、サンダーバード家の責任者は目の前の女ということになる。
エキドナは商才はともかくとして、軍事に関する才能は一切と言っていいほど皆無である。
「なるほど・・・それで俺の同席を認めたわけか」
「何の話かしら? 殿方が口にすることは難しくて、淑女の私にはわからないわー」
しらばっくれたように明後日の方向を見るエキドナに一言いってやろうと口を開くが、言葉を発する前に応接間の扉がノックされた。扉が開き、俺をこの部屋まで案内してくれた執事が顔を出す。
「失礼いたします。スフィンクス家からの使者の方がお見えです」
「通してちょうだい」
「承知いたしました」
俺は言いかけていた言葉を飲み込んで、エキドナの隣に腰かけた。
さりげない仕草で幼馴染がこちらの腕を引いて豊満な胸の間に抱こうとしてくるのをかわして、その額を指先で小突く。
「客が来るのに気安く触るなよ。勘違いされるだろうが」
「勘違いさせた方がこちらの有利になるかと思ったからよ。サンダーバード家とマクスウェル家がそれだけ親しい関係にあるということをアピールしたほうが、交渉が有利になるじゃなあい?」
サンダーバード家とマクスウェル家が統一した意思を有しているのであれば、それだけ今回の会談の重要性は跳ね上がることになる。話し合いのイニシアティブを握っているエキドナの優位性も大きくなるだろう。
「お前の権威付けに俺を利用するな。アクセサリー扱いされるのは不愉快だ」
「あら、可愛い幼馴染の誕生日にプレゼントも送ってこないような無粋な男で着飾ったりはしないわよ。装飾品扱いして欲しいのなら、指輪の一つも送ってもらいたいわね」
「恋人でも婚約者でもない女にどうして貢がなきゃいけないんだ。プレゼントする理由がねえよ」
「へー、文通相手のナーム・スフィンクスちゃんの誕生日には時計を送ったっていうのにねえ。ふーん、へえー」
「・・・どうやって仕入れてるんだ、その情報は」
サンダーバード家の情報網に呆れていると、再び扉がノックされた。外側からドアが開かれ、執事に連れられて一人の女性が入室してきた。
「お久しぶりでございます。エキドナ・サンダーバード様。それに、ディンギル・マクスウェル様」
「あら・・・まさか貴女がいらっしゃるなんて思いませんでしたわ・・・」
予想外の人物の登場に、珍しくエキドナが驚きに声を震わせている。
扉をくぐって入室してきたのは手足を隙間なく覆う黒いドレスに、半透明の薄暗いヴェールを頭にかけた妙齢の女性であった。
金髪褐色肌という西方辺境の少数民族特有の特徴を持った女性は、バロン・スフィンクスの婚約者であるミスト・カイロであった。
執事に案内されて通された応接間にはエキドナ・サンダーバードの姿があり、ソファに優雅に腰を据えて扇で顔をあおいでいる。
「あら、ディン。時間通りじゃないの。寝坊しなくてよかったわ」
「ガキ扱いするんじゃねえよ。俺はもう19だぜ?」
「ふふっ、サクヤちゃんとお楽しみで寝坊するかと思ったんだけど、いつの間にか辺境伯家の次期当主としての自覚が芽生えたのかしら?」
「・・・お前ひとりか? 当主殿はどうした?」
エキドナの言葉を無視して、俺は一方的に問いかけた。
父親のことを尋ねられたエキドナは嫣然と唇の端を吊り上げ、パンと畳んだ扇で手の平を叩いた。
「お父様だったらサファイア王国に商談に行っているわよ。誰かさんのおかげで南洋諸島が騒がしくなっているから、商売のチャンスだって言ってね」
「俺のせいでないことは確かだな・・・しかし、そうか」
サンダーバード家の当主であるジャンゴ・サンダーバードが不在である以上、サンダーバード家の責任者は目の前の女ということになる。
エキドナは商才はともかくとして、軍事に関する才能は一切と言っていいほど皆無である。
「なるほど・・・それで俺の同席を認めたわけか」
「何の話かしら? 殿方が口にすることは難しくて、淑女の私にはわからないわー」
しらばっくれたように明後日の方向を見るエキドナに一言いってやろうと口を開くが、言葉を発する前に応接間の扉がノックされた。扉が開き、俺をこの部屋まで案内してくれた執事が顔を出す。
「失礼いたします。スフィンクス家からの使者の方がお見えです」
「通してちょうだい」
「承知いたしました」
俺は言いかけていた言葉を飲み込んで、エキドナの隣に腰かけた。
さりげない仕草で幼馴染がこちらの腕を引いて豊満な胸の間に抱こうとしてくるのをかわして、その額を指先で小突く。
「客が来るのに気安く触るなよ。勘違いされるだろうが」
「勘違いさせた方がこちらの有利になるかと思ったからよ。サンダーバード家とマクスウェル家がそれだけ親しい関係にあるということをアピールしたほうが、交渉が有利になるじゃなあい?」
サンダーバード家とマクスウェル家が統一した意思を有しているのであれば、それだけ今回の会談の重要性は跳ね上がることになる。話し合いのイニシアティブを握っているエキドナの優位性も大きくなるだろう。
「お前の権威付けに俺を利用するな。アクセサリー扱いされるのは不愉快だ」
「あら、可愛い幼馴染の誕生日にプレゼントも送ってこないような無粋な男で着飾ったりはしないわよ。装飾品扱いして欲しいのなら、指輪の一つも送ってもらいたいわね」
「恋人でも婚約者でもない女にどうして貢がなきゃいけないんだ。プレゼントする理由がねえよ」
「へー、文通相手のナーム・スフィンクスちゃんの誕生日には時計を送ったっていうのにねえ。ふーん、へえー」
「・・・どうやって仕入れてるんだ、その情報は」
サンダーバード家の情報網に呆れていると、再び扉がノックされた。外側からドアが開かれ、執事に連れられて一人の女性が入室してきた。
「お久しぶりでございます。エキドナ・サンダーバード様。それに、ディンギル・マクスウェル様」
「あら・・・まさか貴女がいらっしゃるなんて思いませんでしたわ・・・」
予想外の人物の登場に、珍しくエキドナが驚きに声を震わせている。
扉をくぐって入室してきたのは手足を隙間なく覆う黒いドレスに、半透明の薄暗いヴェールを頭にかけた妙齢の女性であった。
金髪褐色肌という西方辺境の少数民族特有の特徴を持った女性は、バロン・スフィンクスの婚約者であるミスト・カイロであった。
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