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幕間 王都武術大会
23.大会の覇者
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「優勝は・・・ディンギル・マクスウェル!」
『おおおおおおおおおおおおッ!』
闘技場が歓声に包まれる。俺は壇上に立って称賛の豪雨を浴びて、ゆっくりと右手に持った剣を掲げた。
セイバールーン流に拉致された美女を救出して数日。あれから俺は準決勝、決勝へと勝ち進み、とうとう優勝を手にすることに成功した。
セイバールーン流によって引き起こされた誘拐事件であったが、どうやら明るみにはならなかったようである。
部下に命じてバロン先輩の婚約者を屋敷まで届けさせた後、俺は一度『鋼牙』が拠点としている店へと足を向けた。
『鋼牙』の幹部であるキサラギとセイバールーン流に対する対策と報復について話していたところ、セイバールーン侯爵邸を見張っていた部下がベナミス・セイバールーンからの『手土産』を持って帰ってきた。
手土産の正体は、今回の事件に対する謝罪文といくらかの賠償金、そして、セイバールーン家の当主であるザイフォン・セイバールーンの首であった。
俺としては中央貴族武断派の筆頭であるセイバールーン家と表立って揉めるのは避けたかったし、当主の暗殺でカタをつけようとしていたため、これ以上は彼らと戦う理由がなくなってしまった。
スフィンクス家ではそもそも、誘拐事件について認知をしていないようである。
どうやら俺が監禁場所に向かう道中で叩きのめした男がスフィンクス家に誘拐を伝える使者だったらしく、なぜか被害者である褐色美女が口をつぐんだのか不思議なほどに騒ぎにならなかった。
結果、バロン先輩は準決勝でベナミス・セイバールーンに勝利をおさめ、決勝で俺と戦うことになった。
俺とバロン先輩の戦いは熾烈を極め、武術大会はここ数年で一番の盛り上がりを見せた。最終的には俺が勝利したものの、敗北した先輩に対する称賛も留まることはなかった。もっとも、バロン先輩は俺に敗北したことを憤死するほど悔しがっており、他者から向けられる称賛の言葉など耳に入っていないようであった。
「・・・優勝、おめでとう。ディンギル・マクスウェル」
「・・・ありがとうございます。バロン先輩」
授賞式を終えて控え室に戻ってきた俺は、バロン先輩から血を吐くような口調で祝いの言葉をかけられていた。
線の細い貴公子のような顔つきのバロン先輩であったが、どれほど悔しかったのか、その表情は熱しすぎた鉄鍋のように真っ赤になっている。
「今回は負けを認めよう・・・だが、次回の大会では私が勝たせてもらう! 今日の屈辱は決して忘れない! 覚えているがいい!
「そうさせてもらいますよ。ところで・・・そちらの女性を紹介していただけますか?」
バロン先輩の隣には一人の女性の姿があった。肩で切りそろえた金色の髪に、褐色の肌。西方の少数民族特有の容姿をした女性である。
快活そうな表情の顔はなかなかの美人であり、思わず目を引く健康的な美しさがあった。
「ああ、彼女は私の婚約者だ。応援のために西方から王都まで来てくれたんだ」
「はじめまして、ミスト・カイロと申します」
「は?」
婚約者という思わぬ言葉に、俺は思わず聞き返した。
バロン・スフィンクスの婚約者は例の誘拐された娘。踊り子のような美貌の色気でありながら子供じみた無垢さを持つ、あの女ではなかったのか?
「ディンギル・マクスウェル様のお噂はかねがね聞いておりますわ。この度は優勝、おめでとうございます」
「あ、ああ・・・ありがとう、ございます?」
激しく動揺しながら、俺は顔をひきつらせてなんとか挨拶を返す。
ひょっとしたら、自分はとんでもない勘違いをしていたのかもしれない。
あの褐色肌の美女がバロン先輩の婚約者でなかったというのであれば、別に口説いても問題なかったのではないだろうか。
救出した流れのままで適当な宿に連れていき、思う存分にお礼をしてもらっても許されたのではないだろうか?
(もったいなかった! もったいなかった、もったいなかった~~~~~~! 俺はなんて惜しいことを! というか、婚約者じゃないのならあの女は何者だったんだよ!? スフィンクス家の関係者なんだよな!?)
かつてない後悔に苛まれながら、俺は必死に笑顔を取り繕う。
抑えきれなかった激情から口元が引きつってしまい、先輩とその婚約者がやや不審そうな目で見てくる。
「っ~~~、あ? そっちの子は・・・?」
表情を取り繕うのに限界がきてしまい、俺は二人から顔を下げた。すると、ミスト・カイロ嬢の背中に隠れている小柄な人影に気がついた。
「ああ、こっちも紹介しておこうか。この子は私の妹、ナーム・スフィンクスだ。今年で10歳になる」
『おおおおおおおおおおおおッ!』
闘技場が歓声に包まれる。俺は壇上に立って称賛の豪雨を浴びて、ゆっくりと右手に持った剣を掲げた。
セイバールーン流に拉致された美女を救出して数日。あれから俺は準決勝、決勝へと勝ち進み、とうとう優勝を手にすることに成功した。
セイバールーン流によって引き起こされた誘拐事件であったが、どうやら明るみにはならなかったようである。
部下に命じてバロン先輩の婚約者を屋敷まで届けさせた後、俺は一度『鋼牙』が拠点としている店へと足を向けた。
『鋼牙』の幹部であるキサラギとセイバールーン流に対する対策と報復について話していたところ、セイバールーン侯爵邸を見張っていた部下がベナミス・セイバールーンからの『手土産』を持って帰ってきた。
手土産の正体は、今回の事件に対する謝罪文といくらかの賠償金、そして、セイバールーン家の当主であるザイフォン・セイバールーンの首であった。
俺としては中央貴族武断派の筆頭であるセイバールーン家と表立って揉めるのは避けたかったし、当主の暗殺でカタをつけようとしていたため、これ以上は彼らと戦う理由がなくなってしまった。
スフィンクス家ではそもそも、誘拐事件について認知をしていないようである。
どうやら俺が監禁場所に向かう道中で叩きのめした男がスフィンクス家に誘拐を伝える使者だったらしく、なぜか被害者である褐色美女が口をつぐんだのか不思議なほどに騒ぎにならなかった。
結果、バロン先輩は準決勝でベナミス・セイバールーンに勝利をおさめ、決勝で俺と戦うことになった。
俺とバロン先輩の戦いは熾烈を極め、武術大会はここ数年で一番の盛り上がりを見せた。最終的には俺が勝利したものの、敗北した先輩に対する称賛も留まることはなかった。もっとも、バロン先輩は俺に敗北したことを憤死するほど悔しがっており、他者から向けられる称賛の言葉など耳に入っていないようであった。
「・・・優勝、おめでとう。ディンギル・マクスウェル」
「・・・ありがとうございます。バロン先輩」
授賞式を終えて控え室に戻ってきた俺は、バロン先輩から血を吐くような口調で祝いの言葉をかけられていた。
線の細い貴公子のような顔つきのバロン先輩であったが、どれほど悔しかったのか、その表情は熱しすぎた鉄鍋のように真っ赤になっている。
「今回は負けを認めよう・・・だが、次回の大会では私が勝たせてもらう! 今日の屈辱は決して忘れない! 覚えているがいい!
「そうさせてもらいますよ。ところで・・・そちらの女性を紹介していただけますか?」
バロン先輩の隣には一人の女性の姿があった。肩で切りそろえた金色の髪に、褐色の肌。西方の少数民族特有の容姿をした女性である。
快活そうな表情の顔はなかなかの美人であり、思わず目を引く健康的な美しさがあった。
「ああ、彼女は私の婚約者だ。応援のために西方から王都まで来てくれたんだ」
「はじめまして、ミスト・カイロと申します」
「は?」
婚約者という思わぬ言葉に、俺は思わず聞き返した。
バロン・スフィンクスの婚約者は例の誘拐された娘。踊り子のような美貌の色気でありながら子供じみた無垢さを持つ、あの女ではなかったのか?
「ディンギル・マクスウェル様のお噂はかねがね聞いておりますわ。この度は優勝、おめでとうございます」
「あ、ああ・・・ありがとう、ございます?」
激しく動揺しながら、俺は顔をひきつらせてなんとか挨拶を返す。
ひょっとしたら、自分はとんでもない勘違いをしていたのかもしれない。
あの褐色肌の美女がバロン先輩の婚約者でなかったというのであれば、別に口説いても問題なかったのではないだろうか。
救出した流れのままで適当な宿に連れていき、思う存分にお礼をしてもらっても許されたのではないだろうか?
(もったいなかった! もったいなかった、もったいなかった~~~~~~! 俺はなんて惜しいことを! というか、婚約者じゃないのならあの女は何者だったんだよ!? スフィンクス家の関係者なんだよな!?)
かつてない後悔に苛まれながら、俺は必死に笑顔を取り繕う。
抑えきれなかった激情から口元が引きつってしまい、先輩とその婚約者がやや不審そうな目で見てくる。
「っ~~~、あ? そっちの子は・・・?」
表情を取り繕うのに限界がきてしまい、俺は二人から顔を下げた。すると、ミスト・カイロ嬢の背中に隠れている小柄な人影に気がついた。
「ああ、こっちも紹介しておこうか。この子は私の妹、ナーム・スフィンクスだ。今年で10歳になる」
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