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幕間 王都武術大会

16.陰謀の標的

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 王都の郊外にある小さな廃屋。誰も住まなくなって何年も経つ建物の中に、ランプの明かりがともった。

「やはり、バロン・スフィンクスは勝ち残ったようだな」

「はい、明日の午後の準決勝で若君と戦うことになります」

 ランプの明かりの中、剣呑な雰囲気を纏った男達が真剣な顔を向き合って話している。
 彼らはいずれもセイバールーン流に所属する剣士であり、セイバールーン侯爵の部下であった。

「正直なところ、若君はスフィンクスに勝つことができるだろうか?」

 一人が口にした問いに、他の男達は頭を振った。

「無理だろうな。若君も素質は悪くはないが、スフィンクスやマクスウェルと戦えるレベルには達していない。確実に敗北するだろう」

「うむ、そうなればセイバールーン流の名誉も地に落ちる。御当主様がどれほどお怒りになることか・・・」

「我らも処分を免れない。覚悟を決めねばなるまい・・・」

 彼らは一人一人が、セイバールーン流を真奥まで極めた達人である。
 しかし、そんな彼らの目から見ても、バロン・スフィンクスは確実に勝利できる相手ではなかった。
 ここにいる全員で闇討ちを仕掛けたとしても、何人かが命を落とすことになるだろう。

「何か・・・確実に勝利を収めることができる妙案があればいいのだが・・・」

「屋敷に押し入って寝込みを襲うのはどうだ? 夜盗の仕業にみせかければ・・・」」

「馬鹿な、警備の兵もいるだろうし時間をかければ王都の警備隊も駆けつけてくるぞ!」

「毒を盛ってはどうだ? 剣を持たせなければあんな男、恐れるに足るまい!」

「どうやってだ? 我らの中に、暗殺の知識がある者などいまい」

 アレコレと意見を言い合う男達であったが、なかなか意見はまとまらなかった。

 しかし、夜明けの時刻が近くなった頃、若い男が思い出したようにつぶやいた。

「そういえば・・・バロン・スフィンクスの妹と婚約者が王都に来ていたはずだが・・・」

「それだ!」

 パシリと年輩の男が膝を叩いて頷く。

「身内を人質に取り、わざと試合で負けるように指示をするのだ! その後で、ディンギル・マクスウェルを討つように指示をすれば・・・」

「そうか、決勝の相手も潰せるというわけか!」

 それはまさに天計といってもいい妙案だった。
 準決勝の相手であるバロン・スフィンクスと、決勝で戦うことになるだろうディンギル・マクスウェルまでも消すことができる謀略である。

「準決勝は明日の午後・・・時間がもうないな」

「なに、二人ともバロン・スフィンクスの応援のために来ているのだろう? ならば闘技場に現れるはず。チャンスは必ずあるだろう」

「念のため、スフィンクス家の屋敷の前に見張りを立たせておけ。うまく散歩にでも出てくれれば、正午までにケリがつくかもしれぬ」

 誇り高い剣士であるはずの彼らは、女子供を誘拐するという卑劣な算段を日が昇るまで続けていた。

 お家のため、国のためと大義名分を掲げて自分をごまかす彼らの悪巧みは、思わぬ方向へと転がっていくことになるのであった。
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