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幕間 王都武術大会
15.女の正体
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俺は座り込んだ女を上から見下ろして、改めてその全身を目に映した。
真っ先に目を引くのは煽情的な衣装を突き上げる豊満なバスト。次に、長い脚である。
見るからに女として熟成された身体は明らかに経験豊富な女の身体なのだが、その挙動は妙に子供じみている。
金色の髪に褐色の肌という西方の少数民族特有の容姿をしているのだが、あちらの女はみんなこんなふうなのだろうか?
「ん・・・? 西方の女・・・?」
俺はふと頭に引っかかるものを感じて、眉を寄せて考え込む。
いまさらというか、もっと早く気付かなければいけない重大な事柄を見逃している気がする。女の美貌や色気に惑わされて、大切なことを見逃しているのではないだろうか?
「げっ、ひょっとして・・・」
そこまできて、ようやく俺は目の前の女の正体に思い至った。
金髪の長い髪。褐色の肌。西方の少数民族独特の身体的特徴は、俺がよく知るある人物と酷似していた。
「あー・・・君、もしかしてバロン・スフィンクスの身内か?」
「え・・・?」
女は驚いたように目を見開いて俺のことを見る。言葉にせずとも、その反応が質問の回答が「イエス」であることを雄弁に語っている。
(そうか・・・この娘がバロン先輩の婚約者か!)
俺はようやく、その答えにたどり着いた。
どうしてすぐに気がつかなかったのだろうか。『鋼牙』のキサラギからバロン先輩の妹と婚約者が王都に来ていることは聞いていたはず。年齢から妹であることはないだろうから、婚約者に違いないだろう。
(やべえな・・・色香に酔って完全に失念していた! キスしちまったぞ? 舌まで入れて味わい尽くしちまったぞ?)
もしもこの事がバロン先輩の耳に入れば、確実に俺を殺しにかかってくるだろう。
正当防衛だの、勘違いの事故だの、こちらの無実をいくら主張したとしても、あの誇り高くも感情的な先輩が怒りを収めてくれるとはとても思えなかった。
勝てる勝てないの問題ではない。辺境伯家二つの後継者が殺し合いなどすることがあれば、最悪の場合、内乱にまで発展するだろう。
俺は頭痛をこらえるようにこめかみを手で押さえながら、座り込んでいる女におずおずと提案をする。
「今回のことは・・・まあ、不幸な行き違いだったな。うん、君は俺のことを暴漢と勘違いして、俺は身を守るためとはいえ君の唇を奪ってしまった。どうだろう、今回のことは二人ともなかったことにしないか?」
「え・・・なかった、ことに?」
「ああ」
呆然と聞き返してくる女に、俺は頷きを返した。
「お互い、このことがバレたら不味い相手がいるだろう? 虫にでも刺されたと思って忘れちまったほうが、どちらにとっても良いと思うんだが?」
「・・・・・・」
女はしばらく呆然とこちらを見上げていたが、やがて油に火がついたように感情を爆発させた。
「ふ、ふざけないで!」
「うおっ!?」
突然、目をつり上げて叫ぶ女に、俺は思わずたじろいだ。
「あんなことをされて忘れられる訳ないじゃない! あんなエッチな・・・い、いやらしい接吻を・・・」
「・・・おいおい、そんな格好をしてまるで生娘みたいなことを言いやがるじゃないか。まさか、本当に処女なのか?」
「あたりまえ・・・!」
女はカアッと顔を赤くさせた。
腰に巻いていたストールをかき抱いて胸元を隠し、恥じらうようにこちらを睨みつけた。
その反応を見て、俺はようやく彼女が見た目とは真逆に男性経験の乏しい淑女である事に気がついた。
「なるほど・・・悪かったな。そんだけ色気をふり撒いてるから、てっきり男慣れしてるとばかり・・・」
「ば・・・」
「ば?」
女は射殺すようにこちらを睨みつけ、黒い大きな瞳からポロポロと涙をこぼした。
20代前半の、間違いなく年上にしか見えない女の涙に、俺は驚いて目を見開いた。
驚きから生じた隙をついて、女は両手で俺の身体を突き飛ばす。
「ばかああああああああっ!!」
「おおっ!?」
俺を壁際に突き飛ばして、褐色肌の女は大通りの方向へと走って行ってしまった。
路地裏に取り残された俺は呆れかえったように硬直して、その背中を見送る。
「馬鹿って・・・子供かよ」
つぶやかれた言葉は誰の耳にも届くことはなく、路地裏の空虚な暗闇へと消えていった。
真っ先に目を引くのは煽情的な衣装を突き上げる豊満なバスト。次に、長い脚である。
見るからに女として熟成された身体は明らかに経験豊富な女の身体なのだが、その挙動は妙に子供じみている。
金色の髪に褐色の肌という西方の少数民族特有の容姿をしているのだが、あちらの女はみんなこんなふうなのだろうか?
「ん・・・? 西方の女・・・?」
俺はふと頭に引っかかるものを感じて、眉を寄せて考え込む。
いまさらというか、もっと早く気付かなければいけない重大な事柄を見逃している気がする。女の美貌や色気に惑わされて、大切なことを見逃しているのではないだろうか?
「げっ、ひょっとして・・・」
そこまできて、ようやく俺は目の前の女の正体に思い至った。
金髪の長い髪。褐色の肌。西方の少数民族独特の身体的特徴は、俺がよく知るある人物と酷似していた。
「あー・・・君、もしかしてバロン・スフィンクスの身内か?」
「え・・・?」
女は驚いたように目を見開いて俺のことを見る。言葉にせずとも、その反応が質問の回答が「イエス」であることを雄弁に語っている。
(そうか・・・この娘がバロン先輩の婚約者か!)
俺はようやく、その答えにたどり着いた。
どうしてすぐに気がつかなかったのだろうか。『鋼牙』のキサラギからバロン先輩の妹と婚約者が王都に来ていることは聞いていたはず。年齢から妹であることはないだろうから、婚約者に違いないだろう。
(やべえな・・・色香に酔って完全に失念していた! キスしちまったぞ? 舌まで入れて味わい尽くしちまったぞ?)
もしもこの事がバロン先輩の耳に入れば、確実に俺を殺しにかかってくるだろう。
正当防衛だの、勘違いの事故だの、こちらの無実をいくら主張したとしても、あの誇り高くも感情的な先輩が怒りを収めてくれるとはとても思えなかった。
勝てる勝てないの問題ではない。辺境伯家二つの後継者が殺し合いなどすることがあれば、最悪の場合、内乱にまで発展するだろう。
俺は頭痛をこらえるようにこめかみを手で押さえながら、座り込んでいる女におずおずと提案をする。
「今回のことは・・・まあ、不幸な行き違いだったな。うん、君は俺のことを暴漢と勘違いして、俺は身を守るためとはいえ君の唇を奪ってしまった。どうだろう、今回のことは二人ともなかったことにしないか?」
「え・・・なかった、ことに?」
「ああ」
呆然と聞き返してくる女に、俺は頷きを返した。
「お互い、このことがバレたら不味い相手がいるだろう? 虫にでも刺されたと思って忘れちまったほうが、どちらにとっても良いと思うんだが?」
「・・・・・・」
女はしばらく呆然とこちらを見上げていたが、やがて油に火がついたように感情を爆発させた。
「ふ、ふざけないで!」
「うおっ!?」
突然、目をつり上げて叫ぶ女に、俺は思わずたじろいだ。
「あんなことをされて忘れられる訳ないじゃない! あんなエッチな・・・い、いやらしい接吻を・・・」
「・・・おいおい、そんな格好をしてまるで生娘みたいなことを言いやがるじゃないか。まさか、本当に処女なのか?」
「あたりまえ・・・!」
女はカアッと顔を赤くさせた。
腰に巻いていたストールをかき抱いて胸元を隠し、恥じらうようにこちらを睨みつけた。
その反応を見て、俺はようやく彼女が見た目とは真逆に男性経験の乏しい淑女である事に気がついた。
「なるほど・・・悪かったな。そんだけ色気をふり撒いてるから、てっきり男慣れしてるとばかり・・・」
「ば・・・」
「ば?」
女は射殺すようにこちらを睨みつけ、黒い大きな瞳からポロポロと涙をこぼした。
20代前半の、間違いなく年上にしか見えない女の涙に、俺は驚いて目を見開いた。
驚きから生じた隙をついて、女は両手で俺の身体を突き飛ばす。
「ばかああああああああっ!!」
「おおっ!?」
俺を壁際に突き飛ばして、褐色肌の女は大通りの方向へと走って行ってしまった。
路地裏に取り残された俺は呆れかえったように硬直して、その背中を見送る。
「馬鹿って・・・子供かよ」
つぶやかれた言葉は誰の耳にも届くことはなく、路地裏の空虚な暗闇へと消えていった。
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