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幕間 王都武術大会
13.花を手折る
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「おいおい、何だこの状況は・・・!」
褐色肌の女性の身体が宙へと舞い上がり、長い脚がムチのようにしなった。
うねりを上げて側頭部へと迫るハイキックを姿勢をかがめて躱しながら、俺は理不尽な状況に嘆きの言葉を漏らした。
自分は暴漢に狙われている女性を守るために、騎士道精神から女性のことを追いかけてきたはずである。
しかし、いざ路地裏に足を踏み入れてみればすでに事態は収拾されており、二人の男は地面に倒れていた。おまけに守るはずだったお姫様はこちらに矛先を向けてきて、容赦なく攻撃を仕掛けてきている。
どうしてこんなことになったのか、運命を呪いたくなるような気分であった。
「ちょっと待ちやがれ! こっちの話を・・・!」
「これもよけるのね! だったらこれはどうかしら!」
「ちょ、おおおっ!?」
女が腰に巻いたストールをスルリと解いた。下半身を覆うものがショーツのような布一枚になり、脚の付け根近くまで露になった。
健康的でなんとも触り心地のよさそうな太ももを見て、俺は思わず感嘆の声を上げてしまう。
「ハアッ!」
「痛っ!?」
しかし、色めき立っていられたのは一瞬のこと。女が手を振った途端、ストールの端が俺の肩を鋭く打ち抜いた。
末端を固く結んだストールは思わぬ威力があり、打撲をしてしまったのか肩にズキリと痛みが走る。
「こいつは確か『布槍術』だったか・・・珍しい技を使いやがる」
「へえ、詳しいじゃない。やっぱりその道の達人の方かしら」
布槍術とは、西方の民族に伝わる護身術の一種である。
長い布を槍や剣のように素早く振り抜くことにより武器として扱うもので、達人はまるで生き物のように変幻自在な動きで布を操れると聞いたことがある。
あくまでも布なので殺傷能力は皆無だと思っていたが、先ほどの威力を見る限り、頭部に命中してしまえば脳震盪くらいは起こしてしまいそうだ。
「喰らいなさいッ!」
「まったく・・・鬱陶しい攻撃をしやがるぜ!」
女は情熱的なダンスでも踊るかのように激しいステップを踏みながら、間断なく布槍を放ってくる。
俺は顔面に叩きこまれそうになる布を紙一重の所で避ける。しかし、布に付けられている金属の装飾がわずかに頬をかすって血がにじんでしまう。
「見ている分には眼福なんだけど・・・じっくり鑑賞できないのが残念だぜ」
俺は苦々しく顔をしかめた。
女が操る布槍は鷹の爪のように鋭く、蛇の牙のようにいやらしくこちらを追い詰めてくる。布に気を取られてしまえば、その隙をついてブーツを履いた靴が蹴りを繰り出してくる。
おまけに女が布を振るたびに二つの乳房が大きく揺れて、長い脚が軽やかに汗を飛ばしてこちらの目を奪ってくる。
どうしてもそちらに目が行ってしまい、回避がおろそかになってしまう。
「まあ、それでも・・・・・・ちょっとばかり経験が足りないみたいだな!」
「なっ・・・!?」
俺は牙を剥いて笑い、懐から屋台で食べた焼き鳥の串を取り出した。
布槍が突き出されたタイミングで素早く串を突き刺し、近くの建物の壁へと文字通りに串刺しにする。
女は布を手繰って引き寄せようとするが、串で固定された布はビクともしない。
「技は綺麗だけど、実戦経験が足りないのがまるわかりだ。未来有望なのはわかるが、ちょっと幼すぎるぜ」
「くっ、そんな・・・!」
「よっと」
「きゃっ!?」
俺は壁に固定された布槍をつかんで、思い切り引き寄せる。女は前のめりになって足をもつれさせ、俺の前へと引き寄せられてしまう。
布槍を奪い取ると同時に壁に刺さった竹串を引き抜き、素早く女の背後へと回り込む。
「ほれ、クルクルクルリ、と」
「きゃっ、ちょ、ちょっとやめ・・・!」
俺は奪った布を女の両腕に巻き付けて、背中の後ろで拘束する。女は後ろを振り向いて、黒い瞳でまっすぐにこちらを睨みつけた。
「このっ・・・!」
まだ心は折れていないようで、今度は俺の首へと噛みついてきた。
両腕を拘束されているためその動きは鈍く、俺は女のアゴのあたりを手で押さえて噛みつき攻撃を防ぐ。
「やれやれ・・・諦めの悪いやつだな。いい加減にしておけよ」
「ガウ、ガウガウ!」
「犬か、お前は」
「ガウウウウウウッ!」
両手を拘束されて、顔を抑え込まれてもなお女は暴れ続けている。こうなると、もう一手、女を無力化させるための攻撃が必要だろう。
「ふむ・・・まあ、しょうがないよな。これも正当防衛だ」
俺はニヤリと笑い、女の心を折るべく褐色肌の相貌へと顔を近づけた。
「暴れ過ぎだ。ちょっとお仕置きしてやろう」
「んぐっ・・・!?」
噛みつく犬にはしつけが必要だ。
俺は獣のように暴れ続ける女の唇を、容赦なく奪い取った。
褐色肌の女性の身体が宙へと舞い上がり、長い脚がムチのようにしなった。
うねりを上げて側頭部へと迫るハイキックを姿勢をかがめて躱しながら、俺は理不尽な状況に嘆きの言葉を漏らした。
自分は暴漢に狙われている女性を守るために、騎士道精神から女性のことを追いかけてきたはずである。
しかし、いざ路地裏に足を踏み入れてみればすでに事態は収拾されており、二人の男は地面に倒れていた。おまけに守るはずだったお姫様はこちらに矛先を向けてきて、容赦なく攻撃を仕掛けてきている。
どうしてこんなことになったのか、運命を呪いたくなるような気分であった。
「ちょっと待ちやがれ! こっちの話を・・・!」
「これもよけるのね! だったらこれはどうかしら!」
「ちょ、おおおっ!?」
女が腰に巻いたストールをスルリと解いた。下半身を覆うものがショーツのような布一枚になり、脚の付け根近くまで露になった。
健康的でなんとも触り心地のよさそうな太ももを見て、俺は思わず感嘆の声を上げてしまう。
「ハアッ!」
「痛っ!?」
しかし、色めき立っていられたのは一瞬のこと。女が手を振った途端、ストールの端が俺の肩を鋭く打ち抜いた。
末端を固く結んだストールは思わぬ威力があり、打撲をしてしまったのか肩にズキリと痛みが走る。
「こいつは確か『布槍術』だったか・・・珍しい技を使いやがる」
「へえ、詳しいじゃない。やっぱりその道の達人の方かしら」
布槍術とは、西方の民族に伝わる護身術の一種である。
長い布を槍や剣のように素早く振り抜くことにより武器として扱うもので、達人はまるで生き物のように変幻自在な動きで布を操れると聞いたことがある。
あくまでも布なので殺傷能力は皆無だと思っていたが、先ほどの威力を見る限り、頭部に命中してしまえば脳震盪くらいは起こしてしまいそうだ。
「喰らいなさいッ!」
「まったく・・・鬱陶しい攻撃をしやがるぜ!」
女は情熱的なダンスでも踊るかのように激しいステップを踏みながら、間断なく布槍を放ってくる。
俺は顔面に叩きこまれそうになる布を紙一重の所で避ける。しかし、布に付けられている金属の装飾がわずかに頬をかすって血がにじんでしまう。
「見ている分には眼福なんだけど・・・じっくり鑑賞できないのが残念だぜ」
俺は苦々しく顔をしかめた。
女が操る布槍は鷹の爪のように鋭く、蛇の牙のようにいやらしくこちらを追い詰めてくる。布に気を取られてしまえば、その隙をついてブーツを履いた靴が蹴りを繰り出してくる。
おまけに女が布を振るたびに二つの乳房が大きく揺れて、長い脚が軽やかに汗を飛ばしてこちらの目を奪ってくる。
どうしてもそちらに目が行ってしまい、回避がおろそかになってしまう。
「まあ、それでも・・・・・・ちょっとばかり経験が足りないみたいだな!」
「なっ・・・!?」
俺は牙を剥いて笑い、懐から屋台で食べた焼き鳥の串を取り出した。
布槍が突き出されたタイミングで素早く串を突き刺し、近くの建物の壁へと文字通りに串刺しにする。
女は布を手繰って引き寄せようとするが、串で固定された布はビクともしない。
「技は綺麗だけど、実戦経験が足りないのがまるわかりだ。未来有望なのはわかるが、ちょっと幼すぎるぜ」
「くっ、そんな・・・!」
「よっと」
「きゃっ!?」
俺は壁に固定された布槍をつかんで、思い切り引き寄せる。女は前のめりになって足をもつれさせ、俺の前へと引き寄せられてしまう。
布槍を奪い取ると同時に壁に刺さった竹串を引き抜き、素早く女の背後へと回り込む。
「ほれ、クルクルクルリ、と」
「きゃっ、ちょ、ちょっとやめ・・・!」
俺は奪った布を女の両腕に巻き付けて、背中の後ろで拘束する。女は後ろを振り向いて、黒い瞳でまっすぐにこちらを睨みつけた。
「このっ・・・!」
まだ心は折れていないようで、今度は俺の首へと噛みついてきた。
両腕を拘束されているためその動きは鈍く、俺は女のアゴのあたりを手で押さえて噛みつき攻撃を防ぐ。
「やれやれ・・・諦めの悪いやつだな。いい加減にしておけよ」
「ガウ、ガウガウ!」
「犬か、お前は」
「ガウウウウウウッ!」
両手を拘束されて、顔を抑え込まれてもなお女は暴れ続けている。こうなると、もう一手、女を無力化させるための攻撃が必要だろう。
「ふむ・・・まあ、しょうがないよな。これも正当防衛だ」
俺はニヤリと笑い、女の心を折るべく褐色肌の相貌へと顔を近づけた。
「暴れ過ぎだ。ちょっとお仕置きしてやろう」
「んぐっ・・・!?」
噛みつく犬にはしつけが必要だ。
俺は獣のように暴れ続ける女の唇を、容赦なく奪い取った。
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