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幕間 王都武術大会
6.剣聖の一族
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セイバールーン侯爵家は代々『剣聖』の称号を継承し続けており、自分達こそがランペルージ王国で最強の存在であると考えていた。
そんな彼らにとっての目の上のタンコブは、王宮において政治権力を握っているロサイス公爵家とその派閥である。
王宮にはいくつかの派閥が存在するが、その中でもっとも力を有しているのが宰相であるロサイス公爵の穏健派閥である。
彼らの派閥は国防をマクスウェル家をはじめとした四方四家に一任して、王宮は経済や産業の振興を進めるべきであると主張していた。
そんな穏健派閥に対抗心を燃やしているのが、セイバールーン侯爵家を中心とした武断派閥である。
彼らは『富国強兵』の旗の下で軍事力をさらに強化させることを声高に叫んでおり、他国への積極的な外征も主張していた。
「現在は近衛騎士団や国軍などの要職もロサイス公爵の派閥で固められています。自分達こそが王家の剣であると自負するセイバールーン家にとっては非常に歯痒い思いでしょう」
「武人が武人として活躍の場を与えられていないのなら、さぞや屈辱だろうな。それで・・・その事が俺を尾行することとどうつながるんだ?」
俺の疑問にキサラギは頷き、一枚の紙を取り出した。紙には俺と同年代の若い青年の似顔絵が書かれていた。
「セイバールーン侯爵家の嫡男であるベナミス・セイバールーンです。この男もまた、今年の武術大会に参加しています」
「へえ・・・強いのか?」
俺は興味をそそられて、前のめりになって尋ねた。
バロン・スフィンクス以外に敵がいないと思っていた武術大会であったが、ひょっとしたら大会を飾る彩りが増えるかもしれない。
「そうですね。せいぜい一流というところでしょうか」
しかし、キサラギの言葉は期待外れのものであった。
「なんだ、その程度かよ」
俺は興味を失い、ソファの背もたれに体重を預けた。
『せいぜい一流』の剣士など、マクスウェル家の兵士の中には山ほどいる。
バロン先輩のような頭抜けた超一流の達人か、さもなければ母・グレイスのような怪物でなければ、敵として戦うには不足である。
「そうですね・・・だからこそ、若殿を大会から辞退させたかったようですよ」
「ふむ?」
「セイバールーン侯爵家がさらなる躍進を遂げるためにも、嫡男であるベナミス・セイバールーンは必ずこの大会で優勝しなければなりません。負けてしまえば、王国最強である『剣聖』の権威に泥を塗ってしまう。ロサイス公爵家から政権を奪うなど夢の彼方でしょうな」
「・・・話が見えてきやがった。正攻法じゃあ俺に勝てないと踏んで、裏から潰しに来たってことか」
なかなかに面白い展開である。
退屈なだけの武術大会に陰謀という名のスパイスが加わったようだ。
「はい、捕虜を尋問して聞き出したことですが、若殿だけではなくバロン・スフィンクスの下へも刺客を送り込んでいるようです。二人まとめて消えてもらう・・・ということでしょうね」
「ははっ、バロン先輩がその程度の剣士に負けるとは思えねえけどな!」
俺は快活に笑って、ソファの上で足を組んだ。
これから俺は武術大会に勝ち進みながら、影から狙ってくるセイバールーンの刺客とも戦わなければならない。
さっさと大会を棄権してしまえば相手もちょっかいをかける理由を失うのだろうが、そんな幕引きはあまりにも退屈だ。
「最強を名乗るセイバールーン家と、帝国から国境を守り続けてきたマクスウェル家。どちらが強いか試してみるのも一興だぜ」
俺は牙を剥いて笑い、これから巻き起こるであろう闘争に思いを馳せる。
「ああ、それと・・・これは単なる世間話なのですが」
「ん?」
新たな戦いに胸を踊らせている俺に、キサラギが思い出したように付け足した。
「そのバロン・スフィンクスですが、明日か明後日あたり妹と婚約者が王都に到着するようですよ。兄の試合の応援が目的だとか」
「ほー・・・その妹さんって、美人なのか?」
他人の、ましてや敬愛する先輩の婚約者に手を出すつもりはない。しかし、妹となれば話は別である。
好みの女であれば、一度口説いてみるのも面白そうである。バロン先輩の反応にも興味がある。
「そうですね・・・美人、になると思いますよ」
「あ? なんだそりゃ」
「まだ10歳ですからね。口説きに行きますか?」
「・・・・・・」
俺は無言で首を振り、ソファを傾けて天井を仰いだ。
そんな彼らにとっての目の上のタンコブは、王宮において政治権力を握っているロサイス公爵家とその派閥である。
王宮にはいくつかの派閥が存在するが、その中でもっとも力を有しているのが宰相であるロサイス公爵の穏健派閥である。
彼らの派閥は国防をマクスウェル家をはじめとした四方四家に一任して、王宮は経済や産業の振興を進めるべきであると主張していた。
そんな穏健派閥に対抗心を燃やしているのが、セイバールーン侯爵家を中心とした武断派閥である。
彼らは『富国強兵』の旗の下で軍事力をさらに強化させることを声高に叫んでおり、他国への積極的な外征も主張していた。
「現在は近衛騎士団や国軍などの要職もロサイス公爵の派閥で固められています。自分達こそが王家の剣であると自負するセイバールーン家にとっては非常に歯痒い思いでしょう」
「武人が武人として活躍の場を与えられていないのなら、さぞや屈辱だろうな。それで・・・その事が俺を尾行することとどうつながるんだ?」
俺の疑問にキサラギは頷き、一枚の紙を取り出した。紙には俺と同年代の若い青年の似顔絵が書かれていた。
「セイバールーン侯爵家の嫡男であるベナミス・セイバールーンです。この男もまた、今年の武術大会に参加しています」
「へえ・・・強いのか?」
俺は興味をそそられて、前のめりになって尋ねた。
バロン・スフィンクス以外に敵がいないと思っていた武術大会であったが、ひょっとしたら大会を飾る彩りが増えるかもしれない。
「そうですね。せいぜい一流というところでしょうか」
しかし、キサラギの言葉は期待外れのものであった。
「なんだ、その程度かよ」
俺は興味を失い、ソファの背もたれに体重を預けた。
『せいぜい一流』の剣士など、マクスウェル家の兵士の中には山ほどいる。
バロン先輩のような頭抜けた超一流の達人か、さもなければ母・グレイスのような怪物でなければ、敵として戦うには不足である。
「そうですね・・・だからこそ、若殿を大会から辞退させたかったようですよ」
「ふむ?」
「セイバールーン侯爵家がさらなる躍進を遂げるためにも、嫡男であるベナミス・セイバールーンは必ずこの大会で優勝しなければなりません。負けてしまえば、王国最強である『剣聖』の権威に泥を塗ってしまう。ロサイス公爵家から政権を奪うなど夢の彼方でしょうな」
「・・・話が見えてきやがった。正攻法じゃあ俺に勝てないと踏んで、裏から潰しに来たってことか」
なかなかに面白い展開である。
退屈なだけの武術大会に陰謀という名のスパイスが加わったようだ。
「はい、捕虜を尋問して聞き出したことですが、若殿だけではなくバロン・スフィンクスの下へも刺客を送り込んでいるようです。二人まとめて消えてもらう・・・ということでしょうね」
「ははっ、バロン先輩がその程度の剣士に負けるとは思えねえけどな!」
俺は快活に笑って、ソファの上で足を組んだ。
これから俺は武術大会に勝ち進みながら、影から狙ってくるセイバールーンの刺客とも戦わなければならない。
さっさと大会を棄権してしまえば相手もちょっかいをかける理由を失うのだろうが、そんな幕引きはあまりにも退屈だ。
「最強を名乗るセイバールーン家と、帝国から国境を守り続けてきたマクスウェル家。どちらが強いか試してみるのも一興だぜ」
俺は牙を剥いて笑い、これから巻き起こるであろう闘争に思いを馳せる。
「ああ、それと・・・これは単なる世間話なのですが」
「ん?」
新たな戦いに胸を踊らせている俺に、キサラギが思い出したように付け足した。
「そのバロン・スフィンクスですが、明日か明後日あたり妹と婚約者が王都に到着するようですよ。兄の試合の応援が目的だとか」
「ほー・・・その妹さんって、美人なのか?」
他人の、ましてや敬愛する先輩の婚約者に手を出すつもりはない。しかし、妹となれば話は別である。
好みの女であれば、一度口説いてみるのも面白そうである。バロン先輩の反応にも興味がある。
「そうですね・・・美人、になると思いますよ」
「あ? なんだそりゃ」
「まだ10歳ですからね。口説きに行きますか?」
「・・・・・・」
俺は無言で首を振り、ソファを傾けて天井を仰いだ。
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