167 / 317
幕間 王都武術大会
2.控え室の花
しおりを挟む
王都武術大会。
ランペルージ王国の王都で毎年開かれるそのイベントは、初代国王の時代から続けられているものである。
ランペルージ王国初代国王は武勇によって周辺の領主をまとめあげ、バアル帝国を始めとした外敵を退けて一国を建国した傑物であった。
初代は王国臣民たるもの武をきわめて国を守るべきとの考えを主張し、武を競い合う場として武術大会を創設した。
武術大会は建国から100年以上たった今でも続けられており、特に王都に在籍している貴族の男子は必ずと言っていいほど参加させられる。
それは東方辺境から貴族学校に留学している俺も例外ではない。
面倒ではあったが、ヘタに逃げ出したりすればマクスウェル家と東方辺境が侮られることになる。仕方がなしに大会に参加していた。
「本戦1回戦突破おめでとう。かっこよかったわよ?」
「・・・俺の控え室に、何でお前がいるんだよ」
本戦1回戦の試合を終えて控え室に戻ってきた俺を出迎えたのは、幼馴染の少女エキドナ・サンダーバードであった。
胸と背中を大胆に開いたドレスを身に着けた彼女は、我が物顔で椅子に座り、まるでここがサロンであるかのようにティーカップを傾けている。
エキドナの背後には若い男の執事が控えている。
彫りの深い男前な執事は、おそらくエキドナの愛人の一人だろう。
「試合を終えて戻ってきた幼馴染をねぎらいに来て上げたんじゃない。感謝してもバチは当たらないと思うけど?」
「娼婦みたいな恰好をした奴が勝手に部屋に入っていたら、俺じゃなくてもビビるっての。ハニートラップ専門の暗殺者かと思ったぜ」
「・・・どんな生活してるのよ、あなた」
呆れた目で見てくるエキドナを無視して、俺は鎧を脱いで下の肌着を着替える。
大した運動はしていないが、皮の鎧はなかなかに蒸れる。肌着は汗が染みており肌にくっついて気色の悪い感触がする。
「あらあらあら。こんな所で服を脱ぎだして、ようやく私を押し倒す気になったのかしら?」
「起きたまま寝言を言えるとは器用な奴だな。こんな所って、ここは着替えるための部屋だろうが」
「ふーん、へー、ちょっと見ないうちに良い身体になったじゃないの。私も下着の替えが必要かしら?」
「・・・品のない冗談を言うならマジで出てってくれ。女だけど、部屋から蹴り出すぞ?」
俺が半目になって睨みつけると、エキドナは愉快そうに紅を塗った唇を吊り上げる。
艶のある濡れた瞳をこちらに向けて、悪戯っぽく微笑んだ。
「どうせ婚約者の彼女は応援にも来ていないんでしょう? なんであの子と婚約しているのかしら?」
エキドナが言っているのは、俺の婚約者であるセレナ・ノムスのことである。
血生臭いイベントを嫌うセレナの姿は当然のように観客席にはなく、俺への応援の言葉さえなかった。
「嫌われてるんじゃない? ああいうメルヘンな娘はいつか『運命の恋』とか言い出して他の男と浮気をするわよ」
「まさか。あの気弱なセレナにそんな度胸はないだろうよ」
俺は肩をすくめてエキドナの予想を笑い飛ばし、普段着へと着替えた。
「次の試合は明後日だから、俺はもう帰るよ」
「あら、せっかく応援に来てあげたのに袖にする気かしら? 食事の一つもごちそうしてくれたっていいんじゃないかしら?」
「・・・そっちの執事と行っておけよ。間に俺を入れてるんじゃねえよ」
おそらく肉体関係があるであろう二人と一つの席で食事をとるなど、正直言ってゾッとする。
カップルに挟まれてどんな心境で飯を食えというのだ。
「冷たいわねえ。まあ、いいわ。闘技場の入り口までエスコートしてちょうだい。それくらいはいいでしょう?」
「・・・ま、いいけどな。さっさと行くぞ。こっちは腹減ってんだ」
「はあい」
エキドナが俺の隣に寄り添ってきて、両手を腕へと絡めてくる。
俺の愛人であり専属メイドであるエリザにも匹敵する、たわわな果実が俺の腕に押しつけられて形を変える。
「・・・・・・」
「どうしたのかしら、早く行きましょう」
「ああ・・・」
俺はエキドナを睨みつけるが、ご機嫌な様子の彼女は俺の視線を受け流して扉に向けてグイグイと引っ張っていく。
俺は諦めの境地から溜息をつき、歩きながら背後の執事に頭を下げる。
「なんというか・・・悪いな」
「自分はしょせん、愛人の一人にすぎません。こういうことは慣れておりますのでお気になさらず」
「・・・そうかよ」
ドライな肉体関係を匂わせる執事に肩をすくめて、俺は控え室の扉をくぐって廊下へと出た。
ランペルージ王国の王都で毎年開かれるそのイベントは、初代国王の時代から続けられているものである。
ランペルージ王国初代国王は武勇によって周辺の領主をまとめあげ、バアル帝国を始めとした外敵を退けて一国を建国した傑物であった。
初代は王国臣民たるもの武をきわめて国を守るべきとの考えを主張し、武を競い合う場として武術大会を創設した。
武術大会は建国から100年以上たった今でも続けられており、特に王都に在籍している貴族の男子は必ずと言っていいほど参加させられる。
それは東方辺境から貴族学校に留学している俺も例外ではない。
面倒ではあったが、ヘタに逃げ出したりすればマクスウェル家と東方辺境が侮られることになる。仕方がなしに大会に参加していた。
「本戦1回戦突破おめでとう。かっこよかったわよ?」
「・・・俺の控え室に、何でお前がいるんだよ」
本戦1回戦の試合を終えて控え室に戻ってきた俺を出迎えたのは、幼馴染の少女エキドナ・サンダーバードであった。
胸と背中を大胆に開いたドレスを身に着けた彼女は、我が物顔で椅子に座り、まるでここがサロンであるかのようにティーカップを傾けている。
エキドナの背後には若い男の執事が控えている。
彫りの深い男前な執事は、おそらくエキドナの愛人の一人だろう。
「試合を終えて戻ってきた幼馴染をねぎらいに来て上げたんじゃない。感謝してもバチは当たらないと思うけど?」
「娼婦みたいな恰好をした奴が勝手に部屋に入っていたら、俺じゃなくてもビビるっての。ハニートラップ専門の暗殺者かと思ったぜ」
「・・・どんな生活してるのよ、あなた」
呆れた目で見てくるエキドナを無視して、俺は鎧を脱いで下の肌着を着替える。
大した運動はしていないが、皮の鎧はなかなかに蒸れる。肌着は汗が染みており肌にくっついて気色の悪い感触がする。
「あらあらあら。こんな所で服を脱ぎだして、ようやく私を押し倒す気になったのかしら?」
「起きたまま寝言を言えるとは器用な奴だな。こんな所って、ここは着替えるための部屋だろうが」
「ふーん、へー、ちょっと見ないうちに良い身体になったじゃないの。私も下着の替えが必要かしら?」
「・・・品のない冗談を言うならマジで出てってくれ。女だけど、部屋から蹴り出すぞ?」
俺が半目になって睨みつけると、エキドナは愉快そうに紅を塗った唇を吊り上げる。
艶のある濡れた瞳をこちらに向けて、悪戯っぽく微笑んだ。
「どうせ婚約者の彼女は応援にも来ていないんでしょう? なんであの子と婚約しているのかしら?」
エキドナが言っているのは、俺の婚約者であるセレナ・ノムスのことである。
血生臭いイベントを嫌うセレナの姿は当然のように観客席にはなく、俺への応援の言葉さえなかった。
「嫌われてるんじゃない? ああいうメルヘンな娘はいつか『運命の恋』とか言い出して他の男と浮気をするわよ」
「まさか。あの気弱なセレナにそんな度胸はないだろうよ」
俺は肩をすくめてエキドナの予想を笑い飛ばし、普段着へと着替えた。
「次の試合は明後日だから、俺はもう帰るよ」
「あら、せっかく応援に来てあげたのに袖にする気かしら? 食事の一つもごちそうしてくれたっていいんじゃないかしら?」
「・・・そっちの執事と行っておけよ。間に俺を入れてるんじゃねえよ」
おそらく肉体関係があるであろう二人と一つの席で食事をとるなど、正直言ってゾッとする。
カップルに挟まれてどんな心境で飯を食えというのだ。
「冷たいわねえ。まあ、いいわ。闘技場の入り口までエスコートしてちょうだい。それくらいはいいでしょう?」
「・・・ま、いいけどな。さっさと行くぞ。こっちは腹減ってんだ」
「はあい」
エキドナが俺の隣に寄り添ってきて、両手を腕へと絡めてくる。
俺の愛人であり専属メイドであるエリザにも匹敵する、たわわな果実が俺の腕に押しつけられて形を変える。
「・・・・・・」
「どうしたのかしら、早く行きましょう」
「ああ・・・」
俺はエキドナを睨みつけるが、ご機嫌な様子の彼女は俺の視線を受け流して扉に向けてグイグイと引っ張っていく。
俺は諦めの境地から溜息をつき、歩きながら背後の執事に頭を下げる。
「なんというか・・・悪いな」
「自分はしょせん、愛人の一人にすぎません。こういうことは慣れておりますのでお気になさらず」
「・・・そうかよ」
ドライな肉体関係を匂わせる執事に肩をすくめて、俺は控え室の扉をくぐって廊下へと出た。
0
お気に入りに追加
6,111
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています
もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。
使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。