俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

文字の大きさ
上 下
166 / 317
幕間 王都武術大会

1.能弁な剣

しおりを挟む
 今を遡ること2年前。
    ランペルージ王国王都にて。

 巨大な円形闘技場は人の波であふれかえっていた。
 観客席には無数の人間がいて、これから戦いが始まるであろう闘争の舞台へと視線を向けている。
 数百か、あるいは数千か。莫大ともいえる数の視線が一つの場所に向けられるのは異様な光景である。
 ましてや、それが人間同士の戦いを期待しての視線であればなおさらであった。

 人々の興奮と期待を向けられて闘技場に立つのは二人の男。
 そのうちの一方が軽やかに口を開いた。

「初戦で僕と当たってしまうとは、随分とついていないようだね」

 そう口にしたのは、小綺麗な軽鎧を身に着けた青年であった。
 いかにも育ちのよさそうな青年はこちらを見下すように鼻で笑い、観客席へとキザったらしくウィンクを飛ばす。
 金髪を肩まで伸ばした青年は整ったマスクで笑顔を振りまき、観客席の特に若い女性の間から黄色い歓声が上がった。

 青年の名前は知らない。
 確か中央貴族のなんとかの三男坊だったような気がするが、どうでもよいことだったので記憶していなかった。

「やれやれ、鬱陶しい奴め・・・」

 そんな青年に相対しているのは、使い込まれた革製の鎧を身に着けた男。飾り気も何もない鎧は貴族というよりも、戦場帰りの兵士か傭兵のような姿である。
 つまり・・・・・・俺であった。

「おやおや、仮にも貴族の令息ともあろうものがもっと良い装備はなかったのですか?」

「使い慣れた物が一番いいに決まっている。放っておけよ」

 蔑むように唇を歪めて傷だらけの鎧を侮蔑してくる青年に、俺は静かな口調で言葉を返す。
 あからさまにこちらを見下した態度にはふつふつと怒りが湧いてくるが、剣の柄を握りしめるとすぐにその怒りも霧散する。
 これから斬り合いをするのだ。怒りも苛立ちも、一振りの斬撃に込めればそれで良い。

 俺は静かに心を澄まして余計な感情を削ぎ落とし、握りしめた剣へと意識を込めていく。
 柄から剣先へと研ぎ澄まされた殺気が通っていき、剣が自分の身体の一部になっていくのを感じる。

 そうして意識を戦いへと集中させる俺の様子をどう解釈したのか、対戦相手の青年は瞳に宿る侮蔑の色を濃くさせた。

「そんなに緊張することはない。勝負は一瞬で決まる。そう、痛みを感じる暇さえ与えはしないさ」

「・・・そうかよ」

「予選を突破したからには君もそれなりの使い手かもしれないが・・・僕は幼い頃から剣聖セイバールーンに師事し、15歳で天剣十二席の1人へと相成った実力を持っている」

 青年はふわりと髪を撫で上げた。長い金髪が舞い上がり、観客席からは再び女性の歓声が響いた。

「君のような田舎貴族はこんな機会さえなければ、僕と立ち合いすることさえ許されないだろうね。まあ、そんな貴重な機会を生かせるほど、君程度が僕から学べることは多くないと思うけど」

 青年は腰の剣を抜く。
 抜き放たれた剣はやはり豪奢な装飾が施された一品で、宝石まであしらわれてキラキラと光を反射している。
 対する俺は剣を鞘に納めたまま、無言で足を前後に開く。

「さあ、抜き給えよ。それとも怯えて指先も動かないのかい? 最初の一太刀は君に譲ってあげよう。遠慮せずに切りかかってきたまえ」

プオオオオオオオッ!

 青年の宣言と同時に、ラッパの音が鳴り響く。決闘の開始を告げる合図である。

「かかってきたまえ! 改めて名乗らせてもらおう。僕はセイバールーン天剣十二席が序列十位。ロートルダム子爵家のさん・・・」

「うるせえ」

「は?」

 俺は強く地面を蹴り、一足の踏み込みで青年の懐へと飛び込んだ。
 突然、間合いのうちに飛び込んできた俺を幽霊でも見るような目で見て、青年は驚愕に顔を歪める。

「テメエの強さを口で語ってるうちは二流だぜ。剣士だったら剣で語りやがれ!」

「ぐべえええええっ!?」

 俺は抜き身も見せぬ神速で剣を鞘から解き放ち、そのままの勢いで青年の胴体へと叩きつける。
 刃引きされているとはいえ、それは頭蓋骨を容易に叩き割ることが出来る鉄の固まりである。
 きらびやかな装飾が施された青年の鎧にビキビキとヒビが入り、音を立てて粉砕される。

「ふっ!」

「ごどぎあああああああッ!?」

 俺は剣を振り抜いて、投げ飛ばすようにして青年の身体を吹き飛ばす。
 青年はおかしな悲鳴を上げながら地面を転がっていき、砂をまき散らして闘技場の壁へと激突する。

「け、ぶ・・・・・・」

 壁から剥がれ落ちた青年が地面にベチャリと倒れる。
 丁寧に整った髪も、中性的な甘いマスクも、全身が砂まみれになっていて、もはや試合開始時の面影はなかった。

 一瞬でついた決着に会場が静まり返り・・・たっぷり十秒ほど置いてから歓声に包まれた。

『オオオオオオオオオオオオ!!』

「道場剣術を馬鹿にする気はないが・・・俺と立ち会うには実戦経験が足りなかったようだな」

 豪雨のように降り注ぐ歓声に剣を掲げて応えて、俺はグルグルと目を回して気絶する青年へと皮肉気に言葉を投げつけた。
しおりを挟む
感想 1,043

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。