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幕間 王都武術大会
1.能弁な剣
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今を遡ること2年前。
ランペルージ王国王都にて。
巨大な円形闘技場は人の波であふれかえっていた。
観客席には無数の人間がいて、これから戦いが始まるであろう闘争の舞台へと視線を向けている。
数百か、あるいは数千か。莫大ともいえる数の視線が一つの場所に向けられるのは異様な光景である。
ましてや、それが人間同士の戦いを期待しての視線であればなおさらであった。
人々の興奮と期待を向けられて闘技場に立つのは二人の男。
そのうちの一方が軽やかに口を開いた。
「初戦で僕と当たってしまうとは、随分とついていないようだね」
そう口にしたのは、小綺麗な軽鎧を身に着けた青年であった。
いかにも育ちのよさそうな青年はこちらを見下すように鼻で笑い、観客席へとキザったらしくウィンクを飛ばす。
金髪を肩まで伸ばした青年は整ったマスクで笑顔を振りまき、観客席の特に若い女性の間から黄色い歓声が上がった。
青年の名前は知らない。
確か中央貴族のなんとかの三男坊だったような気がするが、どうでもよいことだったので記憶していなかった。
「やれやれ、鬱陶しい奴め・・・」
そんな青年に相対しているのは、使い込まれた革製の鎧を身に着けた男。飾り気も何もない鎧は貴族というよりも、戦場帰りの兵士か傭兵のような姿である。
つまり・・・・・・俺であった。
「おやおや、仮にも貴族の令息ともあろうものがもっと良い装備はなかったのですか?」
「使い慣れた物が一番いいに決まっている。放っておけよ」
蔑むように唇を歪めて傷だらけの鎧を侮蔑してくる青年に、俺は静かな口調で言葉を返す。
あからさまにこちらを見下した態度にはふつふつと怒りが湧いてくるが、剣の柄を握りしめるとすぐにその怒りも霧散する。
これから斬り合いをするのだ。怒りも苛立ちも、一振りの斬撃に込めればそれで良い。
俺は静かに心を澄まして余計な感情を削ぎ落とし、握りしめた剣へと意識を込めていく。
柄から剣先へと研ぎ澄まされた殺気が通っていき、剣が自分の身体の一部になっていくのを感じる。
そうして意識を戦いへと集中させる俺の様子をどう解釈したのか、対戦相手の青年は瞳に宿る侮蔑の色を濃くさせた。
「そんなに緊張することはない。勝負は一瞬で決まる。そう、痛みを感じる暇さえ与えはしないさ」
「・・・そうかよ」
「予選を突破したからには君もそれなりの使い手かもしれないが・・・僕は幼い頃から剣聖セイバールーンに師事し、15歳で天剣十二席の1人へと相成った実力を持っている」
青年はふわりと髪を撫で上げた。長い金髪が舞い上がり、観客席からは再び女性の歓声が響いた。
「君のような田舎貴族はこんな機会さえなければ、僕と立ち合いすることさえ許されないだろうね。まあ、そんな貴重な機会を生かせるほど、君程度が僕から学べることは多くないと思うけど」
青年は腰の剣を抜く。
抜き放たれた剣はやはり豪奢な装飾が施された一品で、宝石まであしらわれてキラキラと光を反射している。
対する俺は剣を鞘に納めたまま、無言で足を前後に開く。
「さあ、抜き給えよ。それとも怯えて指先も動かないのかい? 最初の一太刀は君に譲ってあげよう。遠慮せずに切りかかってきたまえ」
プオオオオオオオッ!
青年の宣言と同時に、ラッパの音が鳴り響く。決闘の開始を告げる合図である。
「かかってきたまえ! 改めて名乗らせてもらおう。僕はセイバールーン天剣十二席が序列十位。ロートルダム子爵家のさん・・・」
「うるせえ」
「は?」
俺は強く地面を蹴り、一足の踏み込みで青年の懐へと飛び込んだ。
突然、間合いのうちに飛び込んできた俺を幽霊でも見るような目で見て、青年は驚愕に顔を歪める。
「テメエの強さを口で語ってるうちは二流だぜ。剣士だったら剣で語りやがれ!」
「ぐべえええええっ!?」
俺は抜き身も見せぬ神速で剣を鞘から解き放ち、そのままの勢いで青年の胴体へと叩きつける。
刃引きされているとはいえ、それは頭蓋骨を容易に叩き割ることが出来る鉄の固まりである。
きらびやかな装飾が施された青年の鎧にビキビキとヒビが入り、音を立てて粉砕される。
「ふっ!」
「ごどぎあああああああッ!?」
俺は剣を振り抜いて、投げ飛ばすようにして青年の身体を吹き飛ばす。
青年はおかしな悲鳴を上げながら地面を転がっていき、砂をまき散らして闘技場の壁へと激突する。
「け、ぶ・・・・・・」
壁から剥がれ落ちた青年が地面にベチャリと倒れる。
丁寧に整った髪も、中性的な甘いマスクも、全身が砂まみれになっていて、もはや試合開始時の面影はなかった。
一瞬でついた決着に会場が静まり返り・・・たっぷり十秒ほど置いてから歓声に包まれた。
『オオオオオオオオオオオオ!!』
「道場剣術を馬鹿にする気はないが・・・俺と立ち会うには実戦経験が足りなかったようだな」
豪雨のように降り注ぐ歓声に剣を掲げて応えて、俺はグルグルと目を回して気絶する青年へと皮肉気に言葉を投げつけた。
ランペルージ王国王都にて。
巨大な円形闘技場は人の波であふれかえっていた。
観客席には無数の人間がいて、これから戦いが始まるであろう闘争の舞台へと視線を向けている。
数百か、あるいは数千か。莫大ともいえる数の視線が一つの場所に向けられるのは異様な光景である。
ましてや、それが人間同士の戦いを期待しての視線であればなおさらであった。
人々の興奮と期待を向けられて闘技場に立つのは二人の男。
そのうちの一方が軽やかに口を開いた。
「初戦で僕と当たってしまうとは、随分とついていないようだね」
そう口にしたのは、小綺麗な軽鎧を身に着けた青年であった。
いかにも育ちのよさそうな青年はこちらを見下すように鼻で笑い、観客席へとキザったらしくウィンクを飛ばす。
金髪を肩まで伸ばした青年は整ったマスクで笑顔を振りまき、観客席の特に若い女性の間から黄色い歓声が上がった。
青年の名前は知らない。
確か中央貴族のなんとかの三男坊だったような気がするが、どうでもよいことだったので記憶していなかった。
「やれやれ、鬱陶しい奴め・・・」
そんな青年に相対しているのは、使い込まれた革製の鎧を身に着けた男。飾り気も何もない鎧は貴族というよりも、戦場帰りの兵士か傭兵のような姿である。
つまり・・・・・・俺であった。
「おやおや、仮にも貴族の令息ともあろうものがもっと良い装備はなかったのですか?」
「使い慣れた物が一番いいに決まっている。放っておけよ」
蔑むように唇を歪めて傷だらけの鎧を侮蔑してくる青年に、俺は静かな口調で言葉を返す。
あからさまにこちらを見下した態度にはふつふつと怒りが湧いてくるが、剣の柄を握りしめるとすぐにその怒りも霧散する。
これから斬り合いをするのだ。怒りも苛立ちも、一振りの斬撃に込めればそれで良い。
俺は静かに心を澄まして余計な感情を削ぎ落とし、握りしめた剣へと意識を込めていく。
柄から剣先へと研ぎ澄まされた殺気が通っていき、剣が自分の身体の一部になっていくのを感じる。
そうして意識を戦いへと集中させる俺の様子をどう解釈したのか、対戦相手の青年は瞳に宿る侮蔑の色を濃くさせた。
「そんなに緊張することはない。勝負は一瞬で決まる。そう、痛みを感じる暇さえ与えはしないさ」
「・・・そうかよ」
「予選を突破したからには君もそれなりの使い手かもしれないが・・・僕は幼い頃から剣聖セイバールーンに師事し、15歳で天剣十二席の1人へと相成った実力を持っている」
青年はふわりと髪を撫で上げた。長い金髪が舞い上がり、観客席からは再び女性の歓声が響いた。
「君のような田舎貴族はこんな機会さえなければ、僕と立ち合いすることさえ許されないだろうね。まあ、そんな貴重な機会を生かせるほど、君程度が僕から学べることは多くないと思うけど」
青年は腰の剣を抜く。
抜き放たれた剣はやはり豪奢な装飾が施された一品で、宝石まであしらわれてキラキラと光を反射している。
対する俺は剣を鞘に納めたまま、無言で足を前後に開く。
「さあ、抜き給えよ。それとも怯えて指先も動かないのかい? 最初の一太刀は君に譲ってあげよう。遠慮せずに切りかかってきたまえ」
プオオオオオオオッ!
青年の宣言と同時に、ラッパの音が鳴り響く。決闘の開始を告げる合図である。
「かかってきたまえ! 改めて名乗らせてもらおう。僕はセイバールーン天剣十二席が序列十位。ロートルダム子爵家のさん・・・」
「うるせえ」
「は?」
俺は強く地面を蹴り、一足の踏み込みで青年の懐へと飛び込んだ。
突然、間合いのうちに飛び込んできた俺を幽霊でも見るような目で見て、青年は驚愕に顔を歪める。
「テメエの強さを口で語ってるうちは二流だぜ。剣士だったら剣で語りやがれ!」
「ぐべえええええっ!?」
俺は抜き身も見せぬ神速で剣を鞘から解き放ち、そのままの勢いで青年の胴体へと叩きつける。
刃引きされているとはいえ、それは頭蓋骨を容易に叩き割ることが出来る鉄の固まりである。
きらびやかな装飾が施された青年の鎧にビキビキとヒビが入り、音を立てて粉砕される。
「ふっ!」
「ごどぎあああああああッ!?」
俺は剣を振り抜いて、投げ飛ばすようにして青年の身体を吹き飛ばす。
青年はおかしな悲鳴を上げながら地面を転がっていき、砂をまき散らして闘技場の壁へと激突する。
「け、ぶ・・・・・・」
壁から剥がれ落ちた青年が地面にベチャリと倒れる。
丁寧に整った髪も、中性的な甘いマスクも、全身が砂まみれになっていて、もはや試合開始時の面影はなかった。
一瞬でついた決着に会場が静まり返り・・・たっぷり十秒ほど置いてから歓声に包まれた。
『オオオオオオオオオオオオ!!』
「道場剣術を馬鹿にする気はないが・・・俺と立ち会うには実戦経験が足りなかったようだな」
豪雨のように降り注ぐ歓声に剣を掲げて応えて、俺はグルグルと目を回して気絶する青年へと皮肉気に言葉を投げつけた。
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