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第3章 南海冒険編
60.天主帝釈
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「この腕輪の力に、まだ先があるってのか?」
それは意外を通り越して、いっそ疑わしい話であった。
潜在能力すら超えた身体能力を引き出し、不死身の肉体を与える腕輪。
その先が存在するなど、考えたこともなかった。
「別にお前が悪い訳じゃあないけどな。お前は腕輪に全てを委ねちゃいないだろ?」
ドレークは薄笑いを浮かべたまま、指を突き刺して断言する。
「その腕輪は使用者の命を前借りして、奇跡の力を発揮する。お前はその副作用にビビり過ぎなんだよ」
「チッ・・・」
俺は目を細めて小さく舌打ちをする。ドレークの言葉に心当たりがないわけではないからだ。
かつてこの腕輪を身につけていたサリヴァン・ノムスという男は、腕輪の副作用によって50歳以上も老化した。
その末路を目の当たりにしたせいか、心のどこかでブレーキをかけている部分があった。
「武器ってのは女と一緒だぜ? 心を開いてくれない男に、女は決してテメエの胸の内を開きゃしない。お前が腕輪に遠慮している限り、腕輪も全てを見せちゃくれねえさ」
「ハッ・・・まさかこの俺が女の扱いを説かれる日が来るとはな。不愉快すぎて笑えてくるぜ」
俺は唾を吐くように言い捨てて、剣の柄で腕輪を叩く。
「俺がこいつを満足させられてないってのは不甲斐ないけどな。だが、俺は簡単に死ぬわけにはいかないんだよ。果たすべき野望も残っているし、待たせてる女がダース単位でいやがるからな。まだまだジジイになれやしないさ!」
「ハッ、お盛んで羨ましいねえ! 女なんて三百年は抱いてねえ!」
ドレークは牙を剥いて咆え、「だが」と言葉を続ける。
「お前は勘違いをしているぞ? その腕輪でお前がジジイになるなんざあり得ねえよ!」
「あ? どういう事だ?」
俺は訝しげに問う。
ドレークは肩をすくめて、からかうようにチロリと舌を出す。
「お前は自分が人間だとか思ってんのか? この私とまともに戦える男が、あの怪力化け物女の胎から出てきたお前が、タダの人間だと? 笑わせるんじゃねえよ!」
「なに・・・?」
「こうして顔を合わせて確信したが、お前は母親から不死の呪いを受け継いでいる。私やグレイスのような完全な不死者ではないが、寿命で死ねるほど上等な身体なわけがあるかよ!」
「ッ・・・!」
俺は目を見開いて、言葉を失った。
ドレークは今、なんと言った?
「驚くのも無理はねえな。お前は普通にしてりゃ人間と変わりゃしない。首を落とされれば死ぬ。心臓を貫かれても死ぬ。不死者なんて呼べるもんじゃねえな」
「・・・・・・」
「だが・・・賭けてもいい。お前は人間とは違う。一割か、二割か、その程度の割合だろうが、不死の呪いは確実にお前の身体にも巣くっている。十年もすりゃ嫌でも気づくだろうよ。自分だけ老化が遅いってな!」
「それは・・・いや・・・」
俺は何事かを口にしようとして、首を振った。
「だとしても、関係ないな。長生きできるんなら結構じゃねえか。俺はお前みたいな死にたがりにはならねえよ。ゲラゲラ笑いながら、面白おかしく生きてやる」
「ハッ! 言ってくれるじゃねえか、百年も生きちゃいねえ小僧がよ!」
ドレークがこちらを睨んでくるが、今度は俺が笑顔で迎え撃つ。
「キャプテン・ドレーク。アンタの言いたいことはわかったぜ。つまり、人よりも死にづらい命を持っている俺にとって、【豪腕英傑】の副作用は恐れるに足りない、そう言いたいわけだ。わざわざ教えてくれるなんて、ずいぶんと親切だな。ありがたくって涙が出るぜ」
「ははっ、こう見えてもガキにゃ甘いんだぜ? 年上の余裕ってやつだな!」
「そうかよ・・・! おかげで、心おきなく戦れる!」
「おおッ!?」
俺の身体からまばゆい銀光が放たれ、ドレークが思わずといったように飛び退いた。
これまで副作用を恐れて、セーブしていた力を腕輪に込めていく。
「おおおおおおオオオオオッ!!」
込める。込める。込める。
込める。込める。込める込める込めるーー!
あらんかぎりの力を込めるうちに、やがて【豪腕英傑】から放たれる光は黄金色に変わっていく。
朝日が昇ったような金色の光が身体を包み込み、かつてない活力が爪先から脳天まで突き抜ける。
「は、ははは、あはははハハハ! そうだ! やれば出来るじゃねえか! もったいぶりやがってこのだし惜しみ野郎め!」
金色の光を鎧のように纏う俺の姿に、ドレークが狂ったような哄笑を上げる。
「『天主帝釈』・・・! あいつはそれをそう呼んでいた! ああ、まさかもう一度見られるとはな・・・!」
「キャプテン・ドレーク」
俺は額ににじむ汗をそのままに、はっきりと断言する。
「今の俺にはこの状態は長く保てそうにない。一撃だ。一撃で終わらせてやる」
「ハッ!」
俺の殺害宣言を受けて、ドレークはにんまりと笑う。
「いいぞお! 我が愛しい死神にして、我らの後継者よ! グレイスの子であり、俺の剣とアイツの腕輪を受け継ぐ、救世の運命を引き継ぐ者よ! 最高の一太刀で逝かせてくれよお!!」
「そうするさ。それじゃあ、お疲れさん・・・!!」
金色の光が【無敵鉄鋼】の剣身に凝縮する。
太陽のごとき熱量を手にして、俺は剣を振り抜いた。
光が斬撃となり、津波のようにドレークの身体を飲み込んだ。
それは意外を通り越して、いっそ疑わしい話であった。
潜在能力すら超えた身体能力を引き出し、不死身の肉体を与える腕輪。
その先が存在するなど、考えたこともなかった。
「別にお前が悪い訳じゃあないけどな。お前は腕輪に全てを委ねちゃいないだろ?」
ドレークは薄笑いを浮かべたまま、指を突き刺して断言する。
「その腕輪は使用者の命を前借りして、奇跡の力を発揮する。お前はその副作用にビビり過ぎなんだよ」
「チッ・・・」
俺は目を細めて小さく舌打ちをする。ドレークの言葉に心当たりがないわけではないからだ。
かつてこの腕輪を身につけていたサリヴァン・ノムスという男は、腕輪の副作用によって50歳以上も老化した。
その末路を目の当たりにしたせいか、心のどこかでブレーキをかけている部分があった。
「武器ってのは女と一緒だぜ? 心を開いてくれない男に、女は決してテメエの胸の内を開きゃしない。お前が腕輪に遠慮している限り、腕輪も全てを見せちゃくれねえさ」
「ハッ・・・まさかこの俺が女の扱いを説かれる日が来るとはな。不愉快すぎて笑えてくるぜ」
俺は唾を吐くように言い捨てて、剣の柄で腕輪を叩く。
「俺がこいつを満足させられてないってのは不甲斐ないけどな。だが、俺は簡単に死ぬわけにはいかないんだよ。果たすべき野望も残っているし、待たせてる女がダース単位でいやがるからな。まだまだジジイになれやしないさ!」
「ハッ、お盛んで羨ましいねえ! 女なんて三百年は抱いてねえ!」
ドレークは牙を剥いて咆え、「だが」と言葉を続ける。
「お前は勘違いをしているぞ? その腕輪でお前がジジイになるなんざあり得ねえよ!」
「あ? どういう事だ?」
俺は訝しげに問う。
ドレークは肩をすくめて、からかうようにチロリと舌を出す。
「お前は自分が人間だとか思ってんのか? この私とまともに戦える男が、あの怪力化け物女の胎から出てきたお前が、タダの人間だと? 笑わせるんじゃねえよ!」
「なに・・・?」
「こうして顔を合わせて確信したが、お前は母親から不死の呪いを受け継いでいる。私やグレイスのような完全な不死者ではないが、寿命で死ねるほど上等な身体なわけがあるかよ!」
「ッ・・・!」
俺は目を見開いて、言葉を失った。
ドレークは今、なんと言った?
「驚くのも無理はねえな。お前は普通にしてりゃ人間と変わりゃしない。首を落とされれば死ぬ。心臓を貫かれても死ぬ。不死者なんて呼べるもんじゃねえな」
「・・・・・・」
「だが・・・賭けてもいい。お前は人間とは違う。一割か、二割か、その程度の割合だろうが、不死の呪いは確実にお前の身体にも巣くっている。十年もすりゃ嫌でも気づくだろうよ。自分だけ老化が遅いってな!」
「それは・・・いや・・・」
俺は何事かを口にしようとして、首を振った。
「だとしても、関係ないな。長生きできるんなら結構じゃねえか。俺はお前みたいな死にたがりにはならねえよ。ゲラゲラ笑いながら、面白おかしく生きてやる」
「ハッ! 言ってくれるじゃねえか、百年も生きちゃいねえ小僧がよ!」
ドレークがこちらを睨んでくるが、今度は俺が笑顔で迎え撃つ。
「キャプテン・ドレーク。アンタの言いたいことはわかったぜ。つまり、人よりも死にづらい命を持っている俺にとって、【豪腕英傑】の副作用は恐れるに足りない、そう言いたいわけだ。わざわざ教えてくれるなんて、ずいぶんと親切だな。ありがたくって涙が出るぜ」
「ははっ、こう見えてもガキにゃ甘いんだぜ? 年上の余裕ってやつだな!」
「そうかよ・・・! おかげで、心おきなく戦れる!」
「おおッ!?」
俺の身体からまばゆい銀光が放たれ、ドレークが思わずといったように飛び退いた。
これまで副作用を恐れて、セーブしていた力を腕輪に込めていく。
「おおおおおおオオオオオッ!!」
込める。込める。込める。
込める。込める。込める込める込めるーー!
あらんかぎりの力を込めるうちに、やがて【豪腕英傑】から放たれる光は黄金色に変わっていく。
朝日が昇ったような金色の光が身体を包み込み、かつてない活力が爪先から脳天まで突き抜ける。
「は、ははは、あはははハハハ! そうだ! やれば出来るじゃねえか! もったいぶりやがってこのだし惜しみ野郎め!」
金色の光を鎧のように纏う俺の姿に、ドレークが狂ったような哄笑を上げる。
「『天主帝釈』・・・! あいつはそれをそう呼んでいた! ああ、まさかもう一度見られるとはな・・・!」
「キャプテン・ドレーク」
俺は額ににじむ汗をそのままに、はっきりと断言する。
「今の俺にはこの状態は長く保てそうにない。一撃だ。一撃で終わらせてやる」
「ハッ!」
俺の殺害宣言を受けて、ドレークはにんまりと笑う。
「いいぞお! 我が愛しい死神にして、我らの後継者よ! グレイスの子であり、俺の剣とアイツの腕輪を受け継ぐ、救世の運命を引き継ぐ者よ! 最高の一太刀で逝かせてくれよお!!」
「そうするさ。それじゃあ、お疲れさん・・・!!」
金色の光が【無敵鉄鋼】の剣身に凝縮する。
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