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第3章 南海冒険編
57.神と邪神
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「そんな傷でどうやって生きてやがった? いったい何処を斬ったらお前を殺せるんだよ」
俺の問いかけに、心外だとばかりにドレークが肩をすくめた。
「俺だって好きで生き残ったわけじゃあねえさ。堕ちたる神が俺にかけた不死の呪いは、こんなザマになっても安らかに眠ることを許しちゃくれねえ。たとえ断食をして骨になろうが、踏み砕かれて砂に還ろうが、俺の意志とは無関係に復活させられちまう。はっきり言って拷問だぜ」
「・・・グレイスからお前のことは聞いた。千年以上も生きている、かつての英雄だってな」
俺が睨みつけながら言うと、ドレークはわずかに目を細めて遠くを見るような眼差しになる。
「そうだな、『かつての』英雄だな。役割を終えて、目的もなく生き残っている、英雄の残骸だ。この町と同じで死ぬべき場所で死ねなかった味噌っかすだな」
皮肉そうに唇を歪めて、ドレークは振り返って背中を見せた。
「ついてきな。せっかくだから、ちょっと話をしようぜ」
「・・・・・・」
俺の返事を待つことなく、ドレークは聖堂の中へと歩いていく。
背後から斬りかかるべきかしばし迷ったが、結局、俺はその背中を追うことにした。
キャプテン・ドレークという男が纏っている雰囲気は、ガーネット王国で会ったときとは一変している。
故郷に帰ってきたからだろうか。かつての剣呑な雰囲気が消え失せており、代わりに日向で寝転んでいるような和やかな空気を漂わせていた。
(こんな空気の奴をどうやって斬れというんだよ)
ドレークが殺すべき敵であることは頭では理解している。
しかし、こうも殺気を失っている男を問答無用で斬り捨ててしまえば、剣士の矜持を失うことになる。
俺は仕方がなしに、聖堂の中へと足を踏み入れた。
「これは・・・すごいな」
聖堂の中に広がる光景を目の当たりにして、俺は状況も忘れて感嘆の言葉を漏らした。
金と銀、それにプラチナで飾り付けられた聖堂は差し込む明かりを受けて、神秘的な輝きを放っている。
花や星をかたどったステンドグラスも色鮮やかなガラスで作られていて、人工の月の明かりを無数の色へと変えている。
そして、何よりも聖堂の天井。そこに描かれている絵画に俺は目を奪われた。
「すごいだろ? この絵。かつてこの世界を創りたもうた神々の、天地創造の光景を描いているんだぜ?」
我が事のように胸を張ってドレークが自慢をしてくる。
得意げな顔は皮肉の一つも言ってやりたくなるほど憎らしかったが、そんなことが気にならないほどその宗教画は見事だった。
絵の中央には太陽のような光の玉があり、その周りを羽を広げた天使や、武器や楽器を持った神々が取り囲んでいる。
絵の端に行くにつれて、神々の姿はおぞましく醜い物へと変わっていき、天井のスミに描かれているのは悪魔そのものである。
「・・・かつて、この世界には多くの神々がいた」
「ん・・・?」
「神がどこから来たのか、あるいは最初からいたのか、それは誰も知らない。しかし、神は地上の人間達に魔法という力をもたらして、古代魔法文明を生み出した」
絵画を見上げる俺へと、ドレークが朗々と語りだした。
俺がドレークの顔を見ると、ドレークはここではないどこか遠くを見る眼差しで天井の絵画に目を向けていた。
「神の力を借りたおかげで人々は繁栄し、病気もケガも、寿命すらもなくなって永遠の命を手にした。地上に楽園が築かれ、絶対なる神の統治の下で不自由のない永遠の平和が約束された」
「・・・・・・」
「しかし、ある日、神は人間を見捨てた。人間が失敗作であると断言した」
ドレークは天に手を伸ばし、グッ、と強く握りしめた。
「神は人間を見捨てて、魔法の力を取り上げた。この世界ではないどこか別の場所へと旅立っていった。楽園は崩壊して、神の力によって遠ざけられていた邪悪な者達が目を覚ました」
「邪悪な者・・・?」
「悪しき神、邪神と呼ばれる連中だな」
ドレークは俺の顔を見て、皮肉気に笑う。
「お前の仲間にもいたじゃねえか。邪神の眷属。怪物を操る力を持った女が」
「スーのことか? あいつが邪神の眷属だと?」
俺は顔をしかめた。
ポヤポヤとしていて、日向で寝転ぶ猫のようなスーが邪悪な者だと言われても信じられなかった。
「別にあの女が邪悪なんて言っちゃあいない。そういう一族の血を引いてるってことだな。あの髪と瞳の色は、たぶんサキュバスだな」
「・・・・・・」
心当たりがあるような、ないような。
俺は口を真一文字に結んで、黙り込んでしまう。
「まあ、とにかく千年前に神々が地上から消え失せて、人類の脅威だけが残された。希望といえるのは、良心ある一部の神が邪神と戦うための武器や兵器を残してくれたことだな」
「魔具か・・・」
「ご名答。魔法の力を断ち切って、神さえ殺すことができる剣。不死の肉体を与える腕輪。雷を降らして町を守る塔。このアトランティスだって、邪神から逃げ隠れする避難場所として造られた魔具だ」
「・・・・・・」
俺はドレークの説明を頭の中で噛み砕いて、表情を歪めた。
千年前に失われた魔法の力。古代遺跡から見つかる魔具と呼ばれる武器の存在。そして、高度な文明を持ちながらも滅亡した古代文明。
それらの点と点が、一本の長い線で結ばれてしまった。
俺の問いかけに、心外だとばかりにドレークが肩をすくめた。
「俺だって好きで生き残ったわけじゃあねえさ。堕ちたる神が俺にかけた不死の呪いは、こんなザマになっても安らかに眠ることを許しちゃくれねえ。たとえ断食をして骨になろうが、踏み砕かれて砂に還ろうが、俺の意志とは無関係に復活させられちまう。はっきり言って拷問だぜ」
「・・・グレイスからお前のことは聞いた。千年以上も生きている、かつての英雄だってな」
俺が睨みつけながら言うと、ドレークはわずかに目を細めて遠くを見るような眼差しになる。
「そうだな、『かつての』英雄だな。役割を終えて、目的もなく生き残っている、英雄の残骸だ。この町と同じで死ぬべき場所で死ねなかった味噌っかすだな」
皮肉そうに唇を歪めて、ドレークは振り返って背中を見せた。
「ついてきな。せっかくだから、ちょっと話をしようぜ」
「・・・・・・」
俺の返事を待つことなく、ドレークは聖堂の中へと歩いていく。
背後から斬りかかるべきかしばし迷ったが、結局、俺はその背中を追うことにした。
キャプテン・ドレークという男が纏っている雰囲気は、ガーネット王国で会ったときとは一変している。
故郷に帰ってきたからだろうか。かつての剣呑な雰囲気が消え失せており、代わりに日向で寝転んでいるような和やかな空気を漂わせていた。
(こんな空気の奴をどうやって斬れというんだよ)
ドレークが殺すべき敵であることは頭では理解している。
しかし、こうも殺気を失っている男を問答無用で斬り捨ててしまえば、剣士の矜持を失うことになる。
俺は仕方がなしに、聖堂の中へと足を踏み入れた。
「これは・・・すごいな」
聖堂の中に広がる光景を目の当たりにして、俺は状況も忘れて感嘆の言葉を漏らした。
金と銀、それにプラチナで飾り付けられた聖堂は差し込む明かりを受けて、神秘的な輝きを放っている。
花や星をかたどったステンドグラスも色鮮やかなガラスで作られていて、人工の月の明かりを無数の色へと変えている。
そして、何よりも聖堂の天井。そこに描かれている絵画に俺は目を奪われた。
「すごいだろ? この絵。かつてこの世界を創りたもうた神々の、天地創造の光景を描いているんだぜ?」
我が事のように胸を張ってドレークが自慢をしてくる。
得意げな顔は皮肉の一つも言ってやりたくなるほど憎らしかったが、そんなことが気にならないほどその宗教画は見事だった。
絵の中央には太陽のような光の玉があり、その周りを羽を広げた天使や、武器や楽器を持った神々が取り囲んでいる。
絵の端に行くにつれて、神々の姿はおぞましく醜い物へと変わっていき、天井のスミに描かれているのは悪魔そのものである。
「・・・かつて、この世界には多くの神々がいた」
「ん・・・?」
「神がどこから来たのか、あるいは最初からいたのか、それは誰も知らない。しかし、神は地上の人間達に魔法という力をもたらして、古代魔法文明を生み出した」
絵画を見上げる俺へと、ドレークが朗々と語りだした。
俺がドレークの顔を見ると、ドレークはここではないどこか遠くを見る眼差しで天井の絵画に目を向けていた。
「神の力を借りたおかげで人々は繁栄し、病気もケガも、寿命すらもなくなって永遠の命を手にした。地上に楽園が築かれ、絶対なる神の統治の下で不自由のない永遠の平和が約束された」
「・・・・・・」
「しかし、ある日、神は人間を見捨てた。人間が失敗作であると断言した」
ドレークは天に手を伸ばし、グッ、と強く握りしめた。
「神は人間を見捨てて、魔法の力を取り上げた。この世界ではないどこか別の場所へと旅立っていった。楽園は崩壊して、神の力によって遠ざけられていた邪悪な者達が目を覚ました」
「邪悪な者・・・?」
「悪しき神、邪神と呼ばれる連中だな」
ドレークは俺の顔を見て、皮肉気に笑う。
「お前の仲間にもいたじゃねえか。邪神の眷属。怪物を操る力を持った女が」
「スーのことか? あいつが邪神の眷属だと?」
俺は顔をしかめた。
ポヤポヤとしていて、日向で寝転ぶ猫のようなスーが邪悪な者だと言われても信じられなかった。
「別にあの女が邪悪なんて言っちゃあいない。そういう一族の血を引いてるってことだな。あの髪と瞳の色は、たぶんサキュバスだな」
「・・・・・・」
心当たりがあるような、ないような。
俺は口を真一文字に結んで、黙り込んでしまう。
「まあ、とにかく千年前に神々が地上から消え失せて、人類の脅威だけが残された。希望といえるのは、良心ある一部の神が邪神と戦うための武器や兵器を残してくれたことだな」
「魔具か・・・」
「ご名答。魔法の力を断ち切って、神さえ殺すことができる剣。不死の肉体を与える腕輪。雷を降らして町を守る塔。このアトランティスだって、邪神から逃げ隠れする避難場所として造られた魔具だ」
「・・・・・・」
俺はドレークの説明を頭の中で噛み砕いて、表情を歪めた。
千年前に失われた魔法の力。古代遺跡から見つかる魔具と呼ばれる武器の存在。そして、高度な文明を持ちながらも滅亡した古代文明。
それらの点と点が、一本の長い線で結ばれてしまった。
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