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第3章 南海冒険編
56.取り残された町
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「うっ・・・ぷはっ!」
町に飛び込む瞬間、薄い膜のようなものを突き破った感触がした。
そのまま落下して転がるように地面に倒れこみ、何度も呼吸を繰り返して肺に空気を送り込む。
「はあっ・・・はあっ・・・い、息ができる?」
「安心しろよお、ここはちゃんと空気があるからなあ!」
「海の中だってのに・・・どういう仕組みだ?」
「結界の一種だなあ。ここは外とは空間がずれていて、別世界になってるんだよなあ!」
「無茶苦茶だな・・・どんな技術だよ」
俺が周囲を見渡すと、長方形の建物が並んだ街並みが広がっていた。
その不思議な形の建物はアレキサンドライト島の地下にある町とよく似ており、不思議と懐かしく感じた。
上方には暗い深海の景色が夜空のように広がっており、ヤドカリの頭の光球が月のように輝いていた。
夜空となった深海には俺の身体に巻きついている鎖が伸びており、まるで天に伸びる懸け橋のように見えた。
「ここが古代の生物型魔具【海王星獣】の背中にある海底都市、『アトランティス』だあ! すごいだろお!?」
「すげえよ、凄すぎて言葉で表現できねえくらいだ」
それは本心からの言葉であった。
バアル帝国では【雷帝神槌】という尋常ではない魔具に度肝を抜かれたが、今回も負けてはいなかった。
「世界は広いよな。俺の知らないことが山ほどありやがる。ランペルージ王国とか、マクスウェル辺境伯家とか、自分が生きてきた世界がとんでもなくちっぽけなものに思えてきたぜ」
マクスウェル辺境伯家と領地の繁栄を目指すという野望に変わりはない。
しかし、それが叶ったのであれば、いつか広い世界を見るために旅に出るのも悪くないかもしれない。
海底を移動する都市という常識外れの光景は、そんなふうに俺の人生観にも変化をもたらしていた。
「ガハハハッ! だったらまずは、ドレークの奴を殺しておかないとなあ!」
グレイスは楽しそうに笑って、バンバンと肩を叩いてきた。
「あいつを生かしておいたら、お前の行く先、向かう先に追いかけて回るぞお? あいつが狙った獲物を逃したことは一度だってないんだからなあ!」
「・・・男に追い回されるなんてまっぴらだな。ここまで来た以上は是非もない。きっちり始末を付けさせてもらおうか」
鎖から解放された俺は、縛られていた腕を二度、三度と回して身体のコンディションを確認する。
身体の節々に痛みはあるが、損傷というほどでもない。戦いに支障はなさそうである。
「ドレークの奴は町の中央の聖堂にいるだろうなあ。さっさと行って片付けて来いよお」
「あ? オフクロは来ないのかよ」
「あいつがお前を殺し手に選んだというのなら、私が顔を合わせるまでもないからなあ。すでに別れは20年も前に済ませている。さっさと行って来いよお」
「・・・勝手な奴だな。まあ、今に始まったことでもないか」
一方的にここまで連れてきておいて、あとの問題は全て押しつける。
我が母親ながら、あまりにも身勝手すぎる言動であった。
俺は呆れたように首を振りながら、グレイスに教わった場所へと身体を向ける。
「何か伝言があれば言っておくぞ? 知り合いなんだろ?」
「余計な気を回すなよお。大人の世界に餓鬼が踏み込んでくるなあ」
「へいへい、行ってきますってな」
俺はヒラヒラと片手を振りながらその場を後にした。
頭上の光球の明かりを頼りにして、薄暗い町を進んで行く。
かつては大勢の人々が暮らしていた町には人影一つなく、寂れたゴーストタウンと化していた。
「・・・町ってのは誰かの居場所になるためにあるんだよな。人が住まなきゃ、どれだけ立派な街も死んでいるのと変わらねえ」
この町に住んでいた人々は、どうしてこんな海の底で暮らすことになったのだろうか?
そして、どうしてこの町から去っていったのだろうか?
そんなことを考えながら、俺は石でできた階段を昇っていく。
長い階段を昇り切ると、そこは町の高台になっていた。
町の全てを見下ろせる場所からの景色はなかなかの壮観であったが、やはり人影がない町並みはどこか寒々しく見えた。
「住む人が消えて、それでも存在し続ける町。誰かが帰ってくるのを待っているのか? それとも、いっそ滅んでしまいたかったのか?」
「優しいことを言ってくれるじゃねえか。涙が出ちまうぜ」
「・・・・・・」
背中にかけられた声に振り替えると、教会のような建物の入り口に一人の男が腰かけていた。
「キャプテン・ドレーク・・・本当に生きていやがったな」
「ああ、残念ながら生き残っちまったぜ。この町と同じようにな」
胸に大きな傷をつくったその男は、ニカッと爽やかな笑顔で俺を出迎えるのであった。
町に飛び込む瞬間、薄い膜のようなものを突き破った感触がした。
そのまま落下して転がるように地面に倒れこみ、何度も呼吸を繰り返して肺に空気を送り込む。
「はあっ・・・はあっ・・・い、息ができる?」
「安心しろよお、ここはちゃんと空気があるからなあ!」
「海の中だってのに・・・どういう仕組みだ?」
「結界の一種だなあ。ここは外とは空間がずれていて、別世界になってるんだよなあ!」
「無茶苦茶だな・・・どんな技術だよ」
俺が周囲を見渡すと、長方形の建物が並んだ街並みが広がっていた。
その不思議な形の建物はアレキサンドライト島の地下にある町とよく似ており、不思議と懐かしく感じた。
上方には暗い深海の景色が夜空のように広がっており、ヤドカリの頭の光球が月のように輝いていた。
夜空となった深海には俺の身体に巻きついている鎖が伸びており、まるで天に伸びる懸け橋のように見えた。
「ここが古代の生物型魔具【海王星獣】の背中にある海底都市、『アトランティス』だあ! すごいだろお!?」
「すげえよ、凄すぎて言葉で表現できねえくらいだ」
それは本心からの言葉であった。
バアル帝国では【雷帝神槌】という尋常ではない魔具に度肝を抜かれたが、今回も負けてはいなかった。
「世界は広いよな。俺の知らないことが山ほどありやがる。ランペルージ王国とか、マクスウェル辺境伯家とか、自分が生きてきた世界がとんでもなくちっぽけなものに思えてきたぜ」
マクスウェル辺境伯家と領地の繁栄を目指すという野望に変わりはない。
しかし、それが叶ったのであれば、いつか広い世界を見るために旅に出るのも悪くないかもしれない。
海底を移動する都市という常識外れの光景は、そんなふうに俺の人生観にも変化をもたらしていた。
「ガハハハッ! だったらまずは、ドレークの奴を殺しておかないとなあ!」
グレイスは楽しそうに笑って、バンバンと肩を叩いてきた。
「あいつを生かしておいたら、お前の行く先、向かう先に追いかけて回るぞお? あいつが狙った獲物を逃したことは一度だってないんだからなあ!」
「・・・男に追い回されるなんてまっぴらだな。ここまで来た以上は是非もない。きっちり始末を付けさせてもらおうか」
鎖から解放された俺は、縛られていた腕を二度、三度と回して身体のコンディションを確認する。
身体の節々に痛みはあるが、損傷というほどでもない。戦いに支障はなさそうである。
「ドレークの奴は町の中央の聖堂にいるだろうなあ。さっさと行って片付けて来いよお」
「あ? オフクロは来ないのかよ」
「あいつがお前を殺し手に選んだというのなら、私が顔を合わせるまでもないからなあ。すでに別れは20年も前に済ませている。さっさと行って来いよお」
「・・・勝手な奴だな。まあ、今に始まったことでもないか」
一方的にここまで連れてきておいて、あとの問題は全て押しつける。
我が母親ながら、あまりにも身勝手すぎる言動であった。
俺は呆れたように首を振りながら、グレイスに教わった場所へと身体を向ける。
「何か伝言があれば言っておくぞ? 知り合いなんだろ?」
「余計な気を回すなよお。大人の世界に餓鬼が踏み込んでくるなあ」
「へいへい、行ってきますってな」
俺はヒラヒラと片手を振りながらその場を後にした。
頭上の光球の明かりを頼りにして、薄暗い町を進んで行く。
かつては大勢の人々が暮らしていた町には人影一つなく、寂れたゴーストタウンと化していた。
「・・・町ってのは誰かの居場所になるためにあるんだよな。人が住まなきゃ、どれだけ立派な街も死んでいるのと変わらねえ」
この町に住んでいた人々は、どうしてこんな海の底で暮らすことになったのだろうか?
そして、どうしてこの町から去っていったのだろうか?
そんなことを考えながら、俺は石でできた階段を昇っていく。
長い階段を昇り切ると、そこは町の高台になっていた。
町の全てを見下ろせる場所からの景色はなかなかの壮観であったが、やはり人影がない町並みはどこか寒々しく見えた。
「住む人が消えて、それでも存在し続ける町。誰かが帰ってくるのを待っているのか? それとも、いっそ滅んでしまいたかったのか?」
「優しいことを言ってくれるじゃねえか。涙が出ちまうぜ」
「・・・・・・」
背中にかけられた声に振り替えると、教会のような建物の入り口に一人の男が腰かけていた。
「キャプテン・ドレーク・・・本当に生きていやがったな」
「ああ、残念ながら生き残っちまったぜ。この町と同じようにな」
胸に大きな傷をつくったその男は、ニカッと爽やかな笑顔で俺を出迎えるのであった。
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