156 / 317
第3章 南海冒険編
55.海底都市
しおりを挟む
俺達を乗せた船は沖合に待機していた白鬼海賊団の船と合流して、グレイスの指示で西の方角へと向かって行った。
いくつかの島を迂回して西に3日ほど進んで行くと、やがてグレイスはおもむろに口を開いた。
「ここだなあ、ここでいいぞお」
「ここって・・・何もない海の真ん中なんだが」
グレイスが指示した場所には島も何もない場所であった。
波もない穏やかな海原を指さすグレイスに、俺は怪訝な声をかける。
まさか加齢の影響が頭に来てしまったのかと戦慄していると、ブーツの踵で蹴り飛ばされた。
「いでっ!」
「失礼なことを考えているなあ! 馬鹿息子めえ!」
グレイスは眉の端を釣り上げて叫び、倒れた俺の上に馬乗りになってくる。
「母親への敬意が足りないぞお! 悪い息子にはお仕置きだなあ!」
「やめろ、コラ! 何をしやがる!」
グレイスは鎖で俺の身体をグルグル巻きにする。
俺は必死に抵抗するが、グレイスの馬鹿力にはかなわなかった。
「こんな海の真ん中に町があるとか言われたら、誰だって正気を疑うだろうが!」
「仕方がないだろお!? コンパスはここを指しているんだからなあ!」
「コンパス?」
グレイスの手には手のひら大のコンパスが握られている。
ぐいっと前に突き出されたそれを見ると、先端が赤と青に塗られたコンパスの針がグルグルと回転している。
「明らかに壊れているんだが? このコンパスも、ついでにババアの頭も」
「違うって言ってるだろお! このコンパスは北を指さないんだぞお!」
「むぐっ・・・!」
グレイスはコンパスを俺の口に押し込み、顔を寄せて恫喝する。
「アトランティスは海の底を移動する町だからなあ! このコンパスは北ではなく、アトランティスがどこを移動しているかを示すものだあ! だからこの場所でいいんだぞお!」
「わかった、わかった! わかったから鎖を解きやがれ!」
「んー? それはダメだなあ!」
グレイスは拘束された俺の身体を担いで、船の外へと放り投げる。
ドボンと大きく音を立てて、俺の身体が海面に着水する。
「うおっ! 何しやがるクソババア!」
「言っただろお? アトランティスは海の底にあるんだぞお?」
「てめ、まさか・・・!」
これから起こる未来が頭によぎって俺は顔をひきつらせた。
グレイスは鎖の端を船のマストへと結びつけ、重りの鉄球を抱えて海に飛び込んできた。
「さあ、一緒に海底探索に行こうじゃないかあ! なあに、苦しいのは最初だけだあ! 5分もすれば窒息して何も感じなくなるからなあ!」
「死んでるだろ、それは! コラ、身体にしがみつくな! しず・・・」
重りを抱えたグレイスにがっちりと抱擁されて、俺の身体が海水へと引きずり込まれる。
「ディンギル様!」
「ご、ご主人様~!」
サクヤとスーが叫ぶ声を最後に、俺の意識は暗い水底へと沈んでいった。
「んー、んー・・・!」
「声を出すと窒息が早まるぞお? 少しは落ち着いたらどうだあ?」
「んー、んー、んー!」
どうして当たり前のように水中でしゃべっているのだ、この母は。
そんなことを叫びたかったのだが、当然ながら水中で話すわけにはいかなかった。
深い深い海の底へと沈んでいく俺達の身体は、徐々に太陽の光が届かない深海へと踏み込んでいった。
締め上げるような水圧によって空気が絞りだされそうになるのを必死に堪えていると、やがて暗い海の底に明かりが見えた。
「んぐっ・・・?」
「見えてきたぞお、ああ。懐かしいなあ」
「っ・・・!」
視線の先に、山のように巨大な何かが海の底を移動している。
目についた明かりは、その巨大な『それ』の頭上に輝いていた。
(こいつは・・・ヤドカリ、か?)
わずかな光に照らされて、『それ』の正体が明らかになる。
それは視界の全てを覆い尽くすほど巨大なヤドカリであった。
先端のハサミで泥をかき分け、8本の足で海底を這うように進んでいる。
その頭上にはチョウチンアンコウのような光の玉がついて、淡い光で深海を照らしていた。
そして、何よりも特筆するべきなのはその背中である。
(あの背中の物は、まさか町なのか・・・?)
巨大ヤドカリの背中には、本来あるべき貝の代わりに一つの町が背負われていた。
大きさとしてはブリテン要塞と同じくらいだろうか。数千人は優に生活できるような町である。
「よく来たなあ、馬鹿息子。我が故郷アトランティスへ」
「んぐっ・・・!」
グレイスは重りを投げ捨て、俺の身体を抱えたままヤドカリの背中に向かって泳いでいく。
「ここが決戦の場所だぞお? 神に呪われた憐れな不死者に、終わりってやつを教えてやってくれよお」
そう言って、グレイスは海底を進む町へと飛び込んでいった。
いくつかの島を迂回して西に3日ほど進んで行くと、やがてグレイスはおもむろに口を開いた。
「ここだなあ、ここでいいぞお」
「ここって・・・何もない海の真ん中なんだが」
グレイスが指示した場所には島も何もない場所であった。
波もない穏やかな海原を指さすグレイスに、俺は怪訝な声をかける。
まさか加齢の影響が頭に来てしまったのかと戦慄していると、ブーツの踵で蹴り飛ばされた。
「いでっ!」
「失礼なことを考えているなあ! 馬鹿息子めえ!」
グレイスは眉の端を釣り上げて叫び、倒れた俺の上に馬乗りになってくる。
「母親への敬意が足りないぞお! 悪い息子にはお仕置きだなあ!」
「やめろ、コラ! 何をしやがる!」
グレイスは鎖で俺の身体をグルグル巻きにする。
俺は必死に抵抗するが、グレイスの馬鹿力にはかなわなかった。
「こんな海の真ん中に町があるとか言われたら、誰だって正気を疑うだろうが!」
「仕方がないだろお!? コンパスはここを指しているんだからなあ!」
「コンパス?」
グレイスの手には手のひら大のコンパスが握られている。
ぐいっと前に突き出されたそれを見ると、先端が赤と青に塗られたコンパスの針がグルグルと回転している。
「明らかに壊れているんだが? このコンパスも、ついでにババアの頭も」
「違うって言ってるだろお! このコンパスは北を指さないんだぞお!」
「むぐっ・・・!」
グレイスはコンパスを俺の口に押し込み、顔を寄せて恫喝する。
「アトランティスは海の底を移動する町だからなあ! このコンパスは北ではなく、アトランティスがどこを移動しているかを示すものだあ! だからこの場所でいいんだぞお!」
「わかった、わかった! わかったから鎖を解きやがれ!」
「んー? それはダメだなあ!」
グレイスは拘束された俺の身体を担いで、船の外へと放り投げる。
ドボンと大きく音を立てて、俺の身体が海面に着水する。
「うおっ! 何しやがるクソババア!」
「言っただろお? アトランティスは海の底にあるんだぞお?」
「てめ、まさか・・・!」
これから起こる未来が頭によぎって俺は顔をひきつらせた。
グレイスは鎖の端を船のマストへと結びつけ、重りの鉄球を抱えて海に飛び込んできた。
「さあ、一緒に海底探索に行こうじゃないかあ! なあに、苦しいのは最初だけだあ! 5分もすれば窒息して何も感じなくなるからなあ!」
「死んでるだろ、それは! コラ、身体にしがみつくな! しず・・・」
重りを抱えたグレイスにがっちりと抱擁されて、俺の身体が海水へと引きずり込まれる。
「ディンギル様!」
「ご、ご主人様~!」
サクヤとスーが叫ぶ声を最後に、俺の意識は暗い水底へと沈んでいった。
「んー、んー・・・!」
「声を出すと窒息が早まるぞお? 少しは落ち着いたらどうだあ?」
「んー、んー、んー!」
どうして当たり前のように水中でしゃべっているのだ、この母は。
そんなことを叫びたかったのだが、当然ながら水中で話すわけにはいかなかった。
深い深い海の底へと沈んでいく俺達の身体は、徐々に太陽の光が届かない深海へと踏み込んでいった。
締め上げるような水圧によって空気が絞りだされそうになるのを必死に堪えていると、やがて暗い海の底に明かりが見えた。
「んぐっ・・・?」
「見えてきたぞお、ああ。懐かしいなあ」
「っ・・・!」
視線の先に、山のように巨大な何かが海の底を移動している。
目についた明かりは、その巨大な『それ』の頭上に輝いていた。
(こいつは・・・ヤドカリ、か?)
わずかな光に照らされて、『それ』の正体が明らかになる。
それは視界の全てを覆い尽くすほど巨大なヤドカリであった。
先端のハサミで泥をかき分け、8本の足で海底を這うように進んでいる。
その頭上にはチョウチンアンコウのような光の玉がついて、淡い光で深海を照らしていた。
そして、何よりも特筆するべきなのはその背中である。
(あの背中の物は、まさか町なのか・・・?)
巨大ヤドカリの背中には、本来あるべき貝の代わりに一つの町が背負われていた。
大きさとしてはブリテン要塞と同じくらいだろうか。数千人は優に生活できるような町である。
「よく来たなあ、馬鹿息子。我が故郷アトランティスへ」
「んぐっ・・・!」
グレイスは重りを投げ捨て、俺の身体を抱えたままヤドカリの背中に向かって泳いでいく。
「ここが決戦の場所だぞお? 神に呪われた憐れな不死者に、終わりってやつを教えてやってくれよお」
そう言って、グレイスは海底を進む町へと飛び込んでいった。
0
お気に入りに追加
6,111
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています
もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。
使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。