俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

文字の大きさ
上 下
149 / 317
第3章 南海冒険編

48.不死身の男と、運命の出会い

しおりを挟む
「女を殺すのはベッドの中だけで十分だぜ。痛めつけて楽しむなんてゲスのすることだ」

「ははっ、手厳しいじゃないか」

 たしかに胸の中心を貫いたはずだったが、ドレークは何事もなかったかのようにナイフを引き抜いた。
 出血もすぐに止まり、傷は跡形もなく消えてしまった。

「回復能力がある魔具の効力・・・いや、違うな」

 その傷の治り方は俺がよく知るもの。子供の頃から、嫌というほど見てきたもの酷似していた。

「どうりで親近感があるわけだぜ。あのクソババアと同じ存在が他にもいるとか悪い夢だな」

「ほう、驚かないのか。これを見たら大抵の者は目を丸くするのだがな」

 ドレークは心なしか残念そうに肩をすくめて、ナイフを投げ捨てた。
 死体に突き刺していた剣を引き抜き、切っ先をまっすぐ俺に向ける。

「サクヤ。スー。わかってるな?」

「はい、援護します。背中を気にせず存分に戦ってください」

「邪魔にならないように隠れています・・・ご主人様、どうかお気をつけて」

 サクヤが毒針を両手に持ち、スーはパタパタと足音を立てて柱の陰に隠れる。
 俺は腰から【無敵鉄鋼ジークフリート】を抜いた。腕にはすでに【豪腕英傑ヘラクレス】が嵌められており、銀色の光が激しく明滅している。

「お前の永遠とやらをここで終わらせてやろう。感謝しながら死ね」

「ははっ! やってみろよ、若造め!」

 俺は一足でドレークの間合いへと踏み込み、横なぎに剣を振るった。
 必殺といってよい速度で放たれた斬撃であったが、ドレークは剣の腹で弾き飛ばす。

「良い一撃だ。若いのによく鍛錬しているじゃないか!」

「ふっ!」

 ドレークの称賛を無視して、立て続けに剣を振り続ける。
 上。下。右。左。
 上と見せかけて下。右と見せかけて左。
 十重、二十重とフェイントも交えて斬撃を放つが、ドレークは涼しい顔で防ぎ続けている。

「ニ十歳かそこらでそれだけの高みにたどり着くとは、見事なものだ。ここで摘むのが惜しくなる才能だ」

「そうかい! サクヤ!」

「失礼いたします」

「むっ!?」

 攻撃を続ける俺の背後から、影をすり抜けるようにして毒針が飛ばされた。俺の背中を壁に隠れるように接近していた、サクヤの援護射撃である。

「小賢しい!」

 眼球めがけて放たれた二本の毒針をドレークは軽く首を振る動きだけで回避する。
 最小限の動きでの回避であったが、そこでわずかに隙が生まれた。

「はあっ!」

「ぬおっ!?」

 胴体を真っ二つに切り裂くように剣を振る。
 しかし、ドレークが恐るべき反射速度で防御して、剣先はわずかに腕を切って血の線をつけただけにとどまった。

「やるじゃないか。さっきの雑魚どもよりは楽しませてくれる!」

「ちっ・・・仕留めそこなったか」

「そんなに落ち込むことはない。私でなければ終わっていた・・・む?」

 愉快そうに笑っていたドレークであったが、笑い顔を引っ込めて怪訝そうに顔を歪める。
 ドレークの視線は切り裂かれた腕に向けられていて、前腕に沿うようにつけられた傷口からは血が流れ続けていた。
 先ほどナイフでつけられた傷口と違い、腕に刻まれた傷に治る気配はない。

「腕が治癒しない、だと・・・・・・まさか!?」

 ドレークは驚愕に目を見開いて俺の手に握られた剣を見る。

「堕ちたる神を殺すために鍛えられた呪われた魔剣、【無敵鉄鋼】! まさか、お前はその剣に選ばれたのか!」

 ドレークの顔が驚愕から歓喜、そして狂ったような哄笑へと切り替わる。

「はははは、あははははははハハッ! いいぞ! 最高じゃないか! 千年の時を越えて、敵として我が前に舞い戻ったのか! 私を殺すことが出来る唯一にして至高なる愛剣よ!」

「なにを・・・」

「お前か! お前が俺の運命か! ああ、よくぞ来てくれた! 我が運命、天より落とされし神罰、愛しい愛しい死神よ! お前が来てくれるのを、千年も待ったぞ!」

「・・・・・・っ!」

 剣を手放し、両手で腹を抱えて笑い続けるドレークは隙だらけである。
 しかし、その総身から放たれる凶暴なまでの狂喜と殺気が、踏み込むことを拒んでしまう。

「ああ、困ったなあ! こんなに嬉しいのは何百年ぶりだろうなあ! この気持ち、この愛はどうやったらお前に伝わる!?」

「気持ち悪りいんだよ!」

「ははははっ!」

 必死に恐怖を振り払い、俺は接近してくるドレークに斬撃を放つ。
 わずかに腰が引けた攻撃は、あっさりとドレークの手で受け止められてしまった。

「そんなに焦るじゃねえ! 待ちに待った死神との邂逅だ、もっと楽しませろよお!」

「ぐっ!」

「ディンギル様!」

 ドレークの蹴りが胴体に叩きこまれる。後方に自分から飛んで勢いを殺しつつ、空中で体勢を立て直した。
 着地した俺の隣にサクヤが駆け寄ってきた。軽く腕を振って無事を伝えて、改めて剣を構える。

「相手の気に呑まれちまったか・・・俺としたことが、情けない」

「相手の気配が変わりました。お気をつけください!」

「ああ、わかってる」

 先ほどまでのドレークにはどこか遊んでいるような空気があったが、今はそれが消えている。日焼けした逞しい身体は目に見えてわかるほどの闘気に覆われていた。
 理由は全くわからないが、俺のことを対等な敵と認めたようである。

「さあ、始めようか。ここからは殺すか殺されるかの死合いだ! お前が俺を殺せる器なのか、試させてくれよ!」

「・・・いいだろう。その頃には、お前の首は胴体と永遠にお別れしてるだろうけどな!」

「ははははっ! その意気だ!」

 ドレークは懐に手を入れて、紐のついたロケットを取り出した。
 赤茶けた銅のような金属で作られたロケットの蓋を開けて、床に叩きつける。

「これは【紅瓢封魔キンカクギンカク】という魔具だ。生き物を中に閉じ込めておく、それだけの力しかない玩具だが・・・・・・お前の力を測らせてもらうぞ、我が愛しい運命よ!」

 転がったロケットから赤い煙が噴き出し、中から黒い獣が姿を現わした。
 獅子の倍ほどの巨体の黒犬は、赤い瞳でぎょろりとこちらを見据えて、後ろ足で床を蹴って飛びかかってきた。
しおりを挟む
感想 1,043

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。