俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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第3章 南海冒険編

46.討ち入り直前、林の五人

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 そして、明くる日の夜。
 俺達はドレークが暮らしている宮殿近くの林へと足を踏み入れた。
 ぶ厚い雲に覆われた夜空には月明かりも星の瞬きも見ることはできず、夜襲にはうってつけの天気であった。

「それはいいんだが・・・何でお前らまでついて来たんだ?」

 事前に宰相ラウロスから指定されていた集合場所にたどり着いた俺とサクヤ。
 その背後には、戦闘要員でもないのについて来たスーとロウ、さらにシャオマオの姿があった。

「あ、私は宮殿の案内をしようと思いまして」

 控えめに手を挙げて主張したのはスーである。
 青みがかった黒髪を背中にまとめて結んだ彼女は、サクヤとお揃いのメイド服の上に黒いコートを羽織っている。

「修道院に入る前、父と一緒に何度か宮殿に入ったことがあります。道案内くらいはできると思いますよ」

「なるほど、それは助かるんだが・・・お前らは何しに来たんだよ」

 俺がジロリと視線を向けると、ロウは飄々とした態度で両手を広げる。

「金目の物があるかと思ってついてきました! 反省はしていません!」

「よし、帰れ。もしくはここで斬り捨ててやる。林だから埋める場所には困らんだろ」

 俺が剣の柄に手をかけると、シャオマオが割って入ってきた。

「違うゾ。スロウスは馬鹿で夢遊病で変態だカラ、フラフラと迷い込んできただけだゾ! 決して、宮殿の宝物庫に用があるワケじゃないゾ!」

「うん、ほぼ自白してるねー。っていうか、俺様ちゃん、めちゃくちゃ言われてんじゃん!」

「・・・もう勝手にしろ。さて、そろそろ約束の時間なんだが」

 事前の話し合いでは、この林で他の殺し屋と合流して宮殿に忍び込むことになっていた。
 俺が林の中を見まわすと、太い木の背後から執事服を着た老人が現れた。

「お待ちしておりました。ディンギル様」

「ああ、他の連中はどうした?」

 あの密会に現れた殺し屋の中には、依頼を断って出ていく者もいた。
 しかし、ジャック・ザ・ボマーを名乗る男を始め、俺の他にも何人かが依頼を受けていたはずなのだが。

「えー・・・そのことなんですが・・・」

「どうした、アクシデントでもあったのかよ?」

 老人は言いづらそうに口ごもる。
 俺が眼力を強めて睨むようにすると、申し訳なさそうに口を開いた。

「他の皆様は、先に宮殿に入られました」

「はあ? まだ集合時間には早いだろ?」

 俺がいぶかしげに聞くと、老人は困ったように溜息をつく。

「少し前にディンギル様以外の方々がそろったのですが、急にジャック様が『ドレークを討ち取った奴が報酬を総取りしよう』などと提案をいたしまして・・・」

「・・・話が読めてきましたね。どうやら我々は出し抜かれたようです」

 サクヤが不快そうに唇を尖らせた。
 老人は慌てて手を振って、言い訳を口にする。

「もちろん、私は止めたのですが・・・他の皆様もジャック様に賛同してしまいまして、争うようにして宮殿に入ってしまいまして・・・」

「ああ、アンタのせいじゃないから心配するな。裏社会の連中に約束がどうのとか主張したって無駄なことだからな」

 俺は鬱陶しそうに首を振りつつ、宮殿がある方角へと目を向ける。

「別に報酬はいらないんだが・・・さて、どうするかね」

「もちろん、ディンギル様の報酬は他の方々とは別とさせていただきます。ここで依頼を断っていただいても、前金を返せとは申しません」

「そんなことはどうでもいいんだけどな・・・まあ、あいつ等がどうなろうと自己責任ってことにしておくか」

 不思議なことに、ドレークという男が他の殺し屋に斃されてしまったとは思えなかった。
 返り討ちにされているジャック達の姿が思い浮かび、俺はやれやれと肩をすくめた。

「俺達のやることは変わらない。さっさと宮殿に入るとしよう」

「門番には手を回していますから問題なく通ることができます。ドレークは玉座の間にいるはずです」

「玉座? 寝室じゃなくてか」

 俺が尋ねると、老人は頷いた。

「なぜかあの男は一日中、玉座の間にいるのですよ。暗殺者を警戒しているのか、横になっているのを見たことがありません」

「へえ、そいつは暗殺のターゲットとしては一番、面倒臭いタイプだな。俺は隠密行動が苦手だからどっちでもいいんだが」

「そうですか。それでは案内を・・・」

「あ、それは私がやりますから、いいですよ」

 スーがにっこりと笑って、老人の言葉を遮った。

「玉座の間でしたら何度か入ったことがあります! やっとご主人様のお役に立てますね!」

「貴女は・・・!」

 老人が目を見開き、なぜか食い入るようにしてスーの顔を見つめる。

「人の女をまじまじ見てんじゃねえよ。男の視線で汚れたらどうしてくれる」

「で、ディンギル様の女、ですか・・・?」

 俺がスーの前に割って入ると、老人は顔をひきつらせた。
 その反応を不審に感じて振り返るが、スーもきょとんとした顔で小首を傾けている。

「ええと、どこかでお会いしましたっけ? 見覚えがあるような、ないような・・・?」

「い、いえ・・・そんなはずは、ええと・・・」

 老人はあたふたと慌てたような反応を見せた後、気を取り直したようにコホンと咳払いをした。

「そ、そういうことでしたら案内は要りませんね。どうぞ皆様、お気をつけて」

「ああ」

 俺は短く答えて、一行を率いて宮殿へと足を向ける。
 老人が俺達の背中を。特にスーのことを見つめている気配がしたが、振り返ることなく宮殿の裏口へと小走りで駆けて行った。
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