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第3章 南海冒険編
39.救いを求める者
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side とある国の宰相
「可笑しなことを聞く。海賊である私が残忍な行為をすることが、そんなに不思議かね?」
「いえ、そうではなくて・・・その・・・提督殿は、拷問することを楽しんでいないように見えまして」
私は慎重に言葉を選びながら、ずっと聞きたかったことを尋ねた。
宰相という地位に立ち、多くの人間の心の闇に触れてきた私にとって、他人の苦しみを喜びにする人種は珍しくはなかった。
奴隷に鞭を打つことを趣味にしている商人。
生娘をなぶりながら抱くことを好む貴族。
罪人の拷問と処刑を生きがいとしている処刑人。
そんな心の闇を抱えた人間はこの国にも大勢いる。
しかし、私の目にはドレークが彼らと同類であるようには見えなかった。
人々が拷問にかけられるのを眺めるドレークの瞳はガラス玉のように透き通っていて、そこには何の感情も宿ってはいなかった。
人が苦しむ様を楽しむでもなく、被害者を憐れむでもなく、まるで与えられた仕事を淡々とこなすように拷問を見物しているのだ。
「そうだな、楽しくてやっているわけではないな」
ドレークはあっけないほど簡単に、私の言葉を肯定した。
「でしたら、なぜ・・・」
「宰相殿。これは神に対する挑戦なのだよ」
「は?」
私の疑問符に、ドレークは無感情な目をこちらに向けてきた。
「こうして残忍なことを繰り返していれば、いつしか神が私に裁きを与えてくれるかもしれない。私に呪いをかけた邪悪な神とは違う、正しき神が私を殺してくれるかもしれない・・・そう思って、こうして殺戮を繰り返しているのだよ」
「そ、そんな理由でこんなことを・・・」
「あるいは、獅子王船団に入団してこの国を滅ぼしたのも、この南の海のどこかに私を殺せる神がいるかもしれないと期待してのことなのかもしれないな」
「っ・・・」
ドレークの口から発された言葉は、あまりにも身勝手で理解しがたいものであった。
私はついつい苦言を呈しかけて、慌てて口を閉じた。
どんな理由であっても、この男の行動をとがめることは私には許されていなかった。
「ふざけるな! そんな事のために私の国民を殺したというのか!?」
しかし、私の代わりに抗議の声を上げる人物がいた。
その声は、ドレークの尻の下から放たれた。
「ふむ? どうやら『王座』が騒いでいるようだな」
「ぐぬっ・・・!」
ドレークが手の平でバシバシと『王座』を叩くと、『王座』からくぐもった悲鳴が漏れる。
残忍な海賊が腰かける『王座』の正体は、かつてこの国に君臨していたガーネット王その人であった。
文字通りの『王座』と化した国王は首を巡らしてドレークを睨みつけ、吐き捨てるように暴言をかける。
「つまらぬ悪事など働かずとも、貴様のような悪漢にはすぐに裁きが下るわ。この悪魔め! 首を洗って待っているがいい!」
「陛下・・・」
私は仕えるべき王の惨めな姿から目をそむけた。
この国が占領されてからというもの、ガーネット王はずっとこの男の椅子として扱われていた。
『王』に『座』して、これが本当の『王座』・・・・・・などという何が面白いのかわからないブラックユーモアをドレークが言い出したためである。
「待っていろか・・・残念ながら、私はもう千年も待った。これ以上は待てないのだよ」
国王の呪いの言葉を受けたドレークであったが、特に感じたことはないようで平然と肩をすくめた。
ドレークが口にした「千年」というセリフの意味は分からない。
しかし、それがゾッとするほど恐ろしい意味を持っていることだけは、説明されずともはっきりと理解できた。
「死にたくても死ねない。これは最上級の拷問なのだよ。私はもう、この拷問に耐えられない。耐える気もない。私を殺せるものがいないのなら、現れるまで私以外の人間を殺し続けるだけだ」
「なっ・・・!」
「ああ、主よ。偉大なる神よ! どうか愚かな我に裁きを与えたまえ! 永劫に続く我が生き地獄に終焉をもたらしたまえ!」
両手を広げて天を仰ぐドレークに、私と国王はそろって言葉を失った。
しばらくして、新たな被害者が大広間へと引きずってこられた。そして、残忍な拷問劇が再開される。
私は心から、目の前の狂人を殺してくれる救いの神が現れることを祈るのであった。
「可笑しなことを聞く。海賊である私が残忍な行為をすることが、そんなに不思議かね?」
「いえ、そうではなくて・・・その・・・提督殿は、拷問することを楽しんでいないように見えまして」
私は慎重に言葉を選びながら、ずっと聞きたかったことを尋ねた。
宰相という地位に立ち、多くの人間の心の闇に触れてきた私にとって、他人の苦しみを喜びにする人種は珍しくはなかった。
奴隷に鞭を打つことを趣味にしている商人。
生娘をなぶりながら抱くことを好む貴族。
罪人の拷問と処刑を生きがいとしている処刑人。
そんな心の闇を抱えた人間はこの国にも大勢いる。
しかし、私の目にはドレークが彼らと同類であるようには見えなかった。
人々が拷問にかけられるのを眺めるドレークの瞳はガラス玉のように透き通っていて、そこには何の感情も宿ってはいなかった。
人が苦しむ様を楽しむでもなく、被害者を憐れむでもなく、まるで与えられた仕事を淡々とこなすように拷問を見物しているのだ。
「そうだな、楽しくてやっているわけではないな」
ドレークはあっけないほど簡単に、私の言葉を肯定した。
「でしたら、なぜ・・・」
「宰相殿。これは神に対する挑戦なのだよ」
「は?」
私の疑問符に、ドレークは無感情な目をこちらに向けてきた。
「こうして残忍なことを繰り返していれば、いつしか神が私に裁きを与えてくれるかもしれない。私に呪いをかけた邪悪な神とは違う、正しき神が私を殺してくれるかもしれない・・・そう思って、こうして殺戮を繰り返しているのだよ」
「そ、そんな理由でこんなことを・・・」
「あるいは、獅子王船団に入団してこの国を滅ぼしたのも、この南の海のどこかに私を殺せる神がいるかもしれないと期待してのことなのかもしれないな」
「っ・・・」
ドレークの口から発された言葉は、あまりにも身勝手で理解しがたいものであった。
私はついつい苦言を呈しかけて、慌てて口を閉じた。
どんな理由であっても、この男の行動をとがめることは私には許されていなかった。
「ふざけるな! そんな事のために私の国民を殺したというのか!?」
しかし、私の代わりに抗議の声を上げる人物がいた。
その声は、ドレークの尻の下から放たれた。
「ふむ? どうやら『王座』が騒いでいるようだな」
「ぐぬっ・・・!」
ドレークが手の平でバシバシと『王座』を叩くと、『王座』からくぐもった悲鳴が漏れる。
残忍な海賊が腰かける『王座』の正体は、かつてこの国に君臨していたガーネット王その人であった。
文字通りの『王座』と化した国王は首を巡らしてドレークを睨みつけ、吐き捨てるように暴言をかける。
「つまらぬ悪事など働かずとも、貴様のような悪漢にはすぐに裁きが下るわ。この悪魔め! 首を洗って待っているがいい!」
「陛下・・・」
私は仕えるべき王の惨めな姿から目をそむけた。
この国が占領されてからというもの、ガーネット王はずっとこの男の椅子として扱われていた。
『王』に『座』して、これが本当の『王座』・・・・・・などという何が面白いのかわからないブラックユーモアをドレークが言い出したためである。
「待っていろか・・・残念ながら、私はもう千年も待った。これ以上は待てないのだよ」
国王の呪いの言葉を受けたドレークであったが、特に感じたことはないようで平然と肩をすくめた。
ドレークが口にした「千年」というセリフの意味は分からない。
しかし、それがゾッとするほど恐ろしい意味を持っていることだけは、説明されずともはっきりと理解できた。
「死にたくても死ねない。これは最上級の拷問なのだよ。私はもう、この拷問に耐えられない。耐える気もない。私を殺せるものがいないのなら、現れるまで私以外の人間を殺し続けるだけだ」
「なっ・・・!」
「ああ、主よ。偉大なる神よ! どうか愚かな我に裁きを与えたまえ! 永劫に続く我が生き地獄に終焉をもたらしたまえ!」
両手を広げて天を仰ぐドレークに、私と国王はそろって言葉を失った。
しばらくして、新たな被害者が大広間へと引きずってこられた。そして、残忍な拷問劇が再開される。
私は心から、目の前の狂人を殺してくれる救いの神が現れることを祈るのであった。
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