俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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第3章 南海冒険編

38.残虐なる者

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side とある国の宰相

 私の名前はサミュエル・ラウロス。
 南洋諸島の東部にあるガーネット王国の宰相をしている。

 否、正確に言うのであれば、「していた」というべきだろうか。
 なぜなら、ガーネット王国は数ヵ月前に敵国に占領されて滅亡しており、もはや宰相という地位すらも意味のないものなのだから。

 ガーネット王国を滅ぼしたのは獅子王国という海賊国家である。
 長年の宿敵であったこの国は数年前から急激に勢いを増しており、とうとう我が国を滅ぼすまでに力を付けてしまった。

 我が国とて、無抵抗で滅ぼされたわけではない。
 兵士達は死力を尽くして戦ったし、矢も火薬も惜しげもなく使った。

 その甲斐もあって、最初のうちは攻め込んでくる無数の海賊船を相手に優位に戦うことができていた。
 しかし、獅子王国側に『あの男』が現れたことにより、形勢が大きく動くことになった。
 沿岸の国境線は瞬く間に崩壊して、野火が燃え広がるように敵の軍勢が王都まで押し寄せてきた。

 そして・・・とうとう、王都は陥落して、獅子王国の占領下に置かれてしまった。

 植民地となったガーネット王国であったが、その統治は思いのほかに穏やかなものであった。
 獅子王国の兵士は不思議なほどに規律が整っていた。
 ガーネット王国の国民に対して略奪や暴行を働くことはなかったし、獅子王国に対する上納金も常識の範囲内に抑えられていた。
 むしろ、占領時の混乱に乗じて悪徳商人や貴族がこぞって粛清され、国家を蝕んでいた膿が出されたことでかえって治安が良くなったくらいだ。

 問題があるとすれば、占領された宮殿の内部。
 獅子王国からこの国の統治を任された、『あの男』の存在であった。





「う、うわああああああああぁっ!」

 宮殿の大広間に男の悲鳴が響き渡った。
 かつてガーネット王家が君臨した由緒ある建物。
    白亜の大理石で作られた荘厳な宮殿は、今は残忍な拷問部屋と化していた。

「やめろっ・・・たすけて、助けてくれえええええええっ!!」

「くっ・・・」

 悲痛な男の叫びを聞いて、私は思わず顔をしかめた。

 大広間の中心には40歳ほどの男が縛られている。
 両手両足を縛られ、バツ印のような格好で床に拘束された男は、布切れ一枚纏っていない。
 そして・・・全裸の男の身体の上を、数匹の毒蛇が這いまわっている。
 その毒蛇はこの国の森に生息するもので、噛まれれば全身が痺れて呼吸困難に陥り、10分以上かけて苦しみながら死に至る。

 そんな猛毒の蛇を身体の上に乗せているのだから、男の恐怖は想像を絶するものだろう。

(なんという・・・無残な)

「どうかしたかね、宰相殿。ずいぶんと気分が悪そうではないか」

「い、いえ・・・」

 顔色を悪くした私に声をかけてきたのは、この憐れな男を生み出した張本人。
 ガーネット王国を攻め滅ぼした怨敵であり、獅子王国からこの国の統治を任された男。キャプテン・ドレークと名乗る海賊であった。

 ドレークの引き締まった体は海の男らしく浅黒く日焼けしており、ちぢれた長い黒髪を伸ばして背中に流している。
    顔立ちは精悍に整っており、悪党だけが持つ危険な色気のようなものを纏っていた。

 足を組んで『王座』に腰かけてふんぞり返る姿は、まさに蛮族の王といった振る舞いであった。

「この男はずいぶんと頑張るな。称賛に値するとは思わんか?」

「はっ・・・」

 ドレークの言葉に、私は頭を下げて引きつった表情を隠す。
 かつてはガーネット王国の宰相であった私は、今はこの残忍な男の部下をしていた。
 売国奴と陰口を叩かれる地位は望んで得た物ではなく、家族を人質に取られてやむを得ずついた役職である。

「ギャアアアアアアアアア!」

「ふむ・・・これまでか」

「ああっ・・・!」

 磔にされていた男がとうとう毒蛇に噛まれてしまった。
 男は自由の利かない手足をバタバタと動かしてのたうって、しばらくすると口から泡を吹いて絶命してしまった。

 動かなくなった男を冷たく見下ろして、ドレークはやれやれと首を振った。

「また玩具が壊れてしまったな・・・すぐに新しいものを用意するように」

「・・・承知、いたしました」

「次の玩具には煮えた湯をひたすら飲ませてみるとしようか。樽一杯を飲み干せたら助けてやろうか」

「・・・・・・」

 助かるわけがない。
 私は奥歯を噛んで、必死に怒りを抑えていた。

 ドレークという男の統治の下、旧・ガーネット王国は小康状態を保っている。
 しかし、一度、この男の機嫌を損なってしまえば、たちまちこの国は阿鼻叫喚の地獄に変わるだろう。
 私はこの男をなだめるために、ひたすら玩具という名の生贄を連れてこなければいけない。
 愛する自国民を拷問にかけなければいけない境遇は、私にとっても地獄であった。

「提督殿は・・・なぜこのようなことを為さるのでしょうか」

「ん・・・?」

 私の問いかけを受けて、ドレークは意外そうに目を細めた。
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