俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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第3章 南海冒険編

37.落日の海賊国家

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「国滅ぼし、だと・・・なぜ、そんなことを聞く?」

 ガイオンは首を傾げた。
 グレイスがどうしてそんなことを気にするのか、わからなかった。

(国滅ぼしを量産するつもりか? まさか、この女も南海を支配する野心を持っているのか?)

 そんなことを考えながら、ガイオンは口を開いた。

「あれは・・・何年か前にふらりとやってきて一味に加わった男が伝えたものだ」

「男・・・?」

「おかしな男だよ。我々の知らない未知の知識を山ほど持っていてな。まるで未来からやってきたような奴だ」

 ガイオンはふんっ、と鼻を鳴らして笑った。

「あいつの知識はほとんどが再現不可能で、辛うじて形になったのは『国滅ぼし』だけだったな。まったく、どこであんな知識を手に入れたんだか」

「・・・そいつは今、どこにいる!? 名前はなんだあ!?」

「お、おお・・・?」

 重傷を負っているガイオンに詰め寄り、珍しく真剣なまなざしでグレイスが問う。
 触れれば切れてしまいそうな剣幕に、歴戦の海賊であるはずのガイオンもたじろいでしまった。

「や、奴には占領地の・・・ガーネット王国の統治を任せている。名前は・・・」

 ガイオンは震える声で、その名前を告げた。

「ドレーク・・・そう名乗っている。本名かどうかは、俺達も知らながっ!」

 ぐしゃり、と湿った音が鳴った。
 グレイスが手の平でガイオンの頭を握り、そのまま力任せに潰してしまったのだ。
 頭蓋骨と脳を原形をとどめないほど破壊されて、ガイオンの身体が横倒しになって倒れた。

「ああっ、婆さんグランマ! そいつにはまだ聞くことがあったんじゃ・・・」

「うるさい」

「ぐけっ!」

 尋問を離れた場所で見ていたゴートが駆け寄ってくるが、グレイスに力任せに蹴り飛ばされてしまった。
 ゴロゴロと玉座の間を転がり、やがて壁にぶつかって停止する。

「・・・どうやら死に損ないの亡霊がいるみたいだなあ! 今度こそ、きっちりしっかり、ぶち殺してやらないとなあ!」

「ぐ、婆さん・・・!?」

 普段は笑顔で暴力を振るうグレイスであったが、今日は驚くほど険しい表情で暴力を振るってくる。
 長い付き合いのゴートだからわかることだが、グレイスがここまで不機嫌になるとは意外と珍しいことであった。

 グレイスはどしどしと大股で部屋の出入口まで歩いていき、大扉を蹴って破壊して外へ出ていった。

「・・・こんなに不機嫌な婆さん、若さんがマクスウェル家に引き取られたとき以来だな」

 戦慄とともに、ゴートがつぶやいた。
 触らぬ鬼に祟りなし。ゴートは大きな体を必死に縮めて、グレイスの視界に入らないように後ろに続く。

 王城の外に出ると、燃え盛る炎に焼かれる城下町が現れた。
 獅子王国の王都は白鬼海賊団とその傘下の海賊達によって総攻撃を受け、地獄の光景と化していた。
 逃げ惑う人々を白鬼の海賊は容赦なく斬り捨て、女子供関係なく虐殺している。

 グレイスが城から出てきたのを見て、部下の海賊が傍へと駆け寄ってくる。

「姐さん! 町の裏門から逃げようとしていた、ブラッドペインの身内連中を捕まえやした! 処分はどうしやすか!?」

「殺せえ」

 部下の言葉に、打てば響くような調子でグレイスが返した。
 白髪の女海賊は背後に燃え盛る炎を背負って、地獄の鬼のように凄惨にわらう。

「この町にいる連中は、どれも海賊とその身内だあ。遠慮することはない。捕虜も、奴隷もいらん。一人残らず殺し尽くせえ!」

「はっ! 了解しやした!」

 間髪ださずに出された指示に従って、部下が町中を走っていく。
 その背中を見送って、グレイスは後ろをヒソヒソと付いてくるゴートへと言葉を投げた。

「次の目的はガーネット王国だあ! 略奪が終わりしだい、船を出すぞお!」

「おおっ!」

 グレイスの指示に従って、海賊達が野太い号令を上げる。

 その日、南洋諸島の片隅で一つの国が滅亡し、多くの人間の命が炎に飲み込まれて失われることになった。
 海賊国家という呪われた王国は跡形もなく消滅して、これにより植民地にされていた国のいくつかが独立していった。

 しかし、それでも南海の戦いは終わらない。
 戦いの舞台は滅ぼされた亡国ガーネット王国へと移され、再び激しい戦火が巻き起こるのであった。
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