俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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第3章 南海冒険編

36.進撃の狂母

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 南洋諸島、西方にあるアメジスト島。
 島の西半分が火山になっているその島の東端に、海賊国家・獅子王国の首都があった。

 20年前、当時の国王であったガラハト・ブラッドペインの戦死によって暗黒時代を迎えたこの国であったが、ここ数年、新たな国王の元で盛り返しを見せていた。
 ガラハトの弟であるガイオン・ブラッドペインは『国滅ぼし』を始めとした兵器を積極的に利用して、ガーネット王国を始めとしたいくつかの国を攻め滅ぼして支配下に置いた。

 まさに飛ぶ鳥を落とす勢い。
 国の全盛期を迎えようとしていた国であったが・・・その繁栄はとある親子によって台無しにされようとしていた。




 獅子王国の首都、レオンソウル。
 その中心にある王城が炎に包まれていた。

「ぐっ・・・がはっ、き、さまあ!」

 王城内部、玉座の間にて。
 壮年の男が腹部を押さえ、大理石の床に膝をついた。
 年齢のわりにがっしりとした体つきをしたその男こそが、獅子王国の現・国王であるガイオン・ブラッドペインである。

 ガイオンは口端から血の泡がこぼして、目の前に立つ女を睨みつけた。

「グレイス・・・オマリ、よくも我が国を・・・!」

「がははっ! だらしないなあ、まったく!」

 怨嗟のこもった視線を向けられてなお怯むことはなく、グレイスは牙をむいて笑ってガイオンを見下ろした。

 二人の周囲には、獅子王国を守る兵士達が屍となって倒れている。
 もはや国王を護るものはなにもなく、城は落城寸前であった。

「お前等から売ってきた喧嘩だろお? 恨まれる筋合いはないなあ!」

「ぐっ・・・主力艦隊さえ戻ってきていれば、貴様ごときに・・・!」

 南洋諸島でも屈指の軍事力を有していたはずの獅子王国があっさりと陥落してしまった原因は、その主力であった海賊船が港町ブルートスに向けて侵攻をしていたからである。
 この戦いに勝利すれば、一気に大国であったサファイア王国を滅ぼして獅子王国が南の海を手に入れることができたのに・・・。
 激しい悔恨と憎悪がガイオンの心を支配する。

「残念だなあ、その主力ももう戻ってこないぞお?」

 グレイスがあっさりと言ってのけた。

「自慢の海賊船も、今頃うちの息子につぶされてるぞお? デキの悪いクソ餓鬼だけど、お前らの手下にやられるほど弱くはないからなあ!」

「貴様の、息子だと・・・?」

 ガイオンは表情を歪めた。
 目の前にいる女の力を知るガイオンにとって、この化け物の血を引く子供がいるというのは悪夢のようなことである。

「この人妖めが・・・、呪われるがいい・・・!」

「がははは、それがお前の最後の言葉でいいのかあ!? つまらん人生だったなあ!」

「ぐうっ・・・!」

 グレイスがガイオンの胸部を蹴り飛ばし、仰向けに転がした。

「だけど、殺す前に聞くことがあるんだなあ! なあ、おいっ! 私の質問に答えろよお!」

「誰が・・・貴様の言うことなど・・・!」

「いいのかあ!? すでに私の部下が、お前の女と子供を捕らえているぞお? なあ、おい、お前の態度しだいで、あいつらの運命が決まるぞお?」

「ぐっ・・・」

 ガイオンはくぐもったうめき声を漏らした。
 王である彼には大勢の妾がいて、子供は20人以上いた。
 その中には生まれて間もないような幼子までいる。
 いかに残虐非道で知られる海賊であっても、情の欠片もないわけではない。
 無垢で幼い子供達が無惨な最期を遂げるのは、ガイオンに残るわずかな親心が痛む思いだった。

「どうする? 鮫のエサにしてみるか。薪代わりに暖炉にくべてみるか。それとも、包丁の試し斬りに使って、手足の先から少しずつ刻んでやろうか?」

「・・・・・・何が聞きたい?」

 ガイオンは目をそらして、ボソリとつぶやいた。
 屈服した男の姿を目にして、グレイスはにんまりと笑顔になった。

「最初からそう言えばいいんだよお。なーにを気取っているんだか」

「・・・・・・」

「まあいいさ・・・私が聞きたいことは一つだなあ」

 グレイスは急にまじめな表情になり、鋭い視線をガイオンに向けた。

「国滅ぼし・・・大砲の作り方をお前等に教えたのは誰だ?」
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