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第3章 南海冒険編

26.不運な海賊

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 時間は少しさかのぼる。
 ブルートスの町へと侵入した海賊であったが、全員がまっすぐ総督府へと向かったわけではない。
 どんな集団にでも和を乱す人間は必ずいるもので、それがならず者の海賊となれば尚更である。

 総督府に向かう一団から3人の海賊がこっそりと抜け出し、近くの民家へと侵入した。
 無人の民家は玄関が開け放たれており、鍵開けなどの技能がなくとも侵入は容易であった。

 海賊達はしばらくタンスの中などを物色していたが、やがて怒鳴り声とともに家具を蹴り飛ばした。

「ちくしょうっ! 何も残ってねえ!」

「ちっ・・・やっぱり、無駄足だったか」

 海賊の一人が床にツバを吐き捨てて、ガリガリと頭を掻く。

「なあ、おい。こんな事してていいのか? 見つかったらどやされるぜ?」

「いいんだよ。俺達みたいな下っぱ、どうせ手柄を立てたってたいした褒美はもらえないんだ。だったら、こっちで良い思いをさせてもらおうぜ」

「良い思いって・・・」

 仲間の言葉に、男は部屋の中を見回した。
 民家の床には衣類や食器などが散乱している。これは海賊達がやったわけではなく、彼らが侵入したときからこの有り様だった。
 この民家の住人はよほど慌てて逃げたのだろうが、それでも貴重品はしっかり持ちだしたようだ。民家の中には銅貨の一枚も残されてはいなかった。

「こんなことなら、昨日のうちに略奪しときゃ良かったんだ! わざわざ逃げる時間をやるなんて、あのオカマ野郎は何を考えてやがる!」

「おいおい・・・誰かに聞かれたらサメのエサにされるぞ」

 ガンガンと床に落ちた食器を踏みつける仲間を窘めながら、男は窓から外を見る。
 民家の外からは人が争う声と音が響き続けている。
 今頃、総督府では血の雨が降るような戦いが繰り広げているのだろう。

「・・・ま、命がけの戦いなんてやってられないからな。危険な大金より安全な小銭だ」

 男はぼやいて、扉に向かって一歩踏み出した。

ギシッ。

「・・・・・・ん?」

 たまたま足を踏み込んだその部分。そこだけ足音の具合が違うことに気が付いた。

「ここは・・・床下か?」

 散乱した衣類を足でどかすと、床板を外せそうな部分が現れた。

「・・・ダメもとで調べてみるか」

 男は床板を外して、中を覗き込んだ。

 ――その瞬間

「ぎっ・・・!?」

 床下から伸びてきた手が男の首をがっしりと掴み、暗い穴底へと引きずり込んだ。
 上半身が床下へと飲み込まれ、残された足がバタバタと宙を蹴る。

「お、おいっ! どうした!?」

 仲間の異変に気が付いた他の海賊が慌てて駆け寄るが、すぐに男の足は動かなくなってしまう。
 2人がかりで床下から引っ張り上げられた男の首にはくっきりと人の指の痕がついており、首の骨が折られていた。

「ひっ・・・し、しんで・・・!」

「ちっ、バレちまったみたいだな」

「なっ、誰だテメエは!」

 床の穴からのっそりと現れた大男に、海賊は泡を食ったように叫ぶ。

「ったく、俺は今年で60だぞ? 老人を狭い場所に押し込みやがって」

「よ、よくもなかまばっ・・・」

「うるせえよ、他の奴らに気づかれるだろうが!」

 大男が目にも止まらぬ速さで右手を振り、そこに握られた戦斧が海賊の首を切り落とした。

「ひっ・・・」

 二人の仲間の死にざまを見て、最後の一人になった海賊が尻もちをつく。その足元にじんわりと水たまりが広がっていく。

「この程度で漏らすような覚悟で戦場に出てくるんじゃねえよ。目障りだ!」

「ひぷっ!?」

 大男は残された海賊の脳天へと戦斧を振り下ろして、頭蓋骨を左右に両断する。
 民家の壁に血しぶきが飛び散り、部屋には大男が残された。

「ちょっとちょっと! 勘弁してくださいよ、ボイルさん!」

「今のは不可抗力だろ! ったく、運の悪りい奴らだ」

 床下から声が上がり、穴から若い男が現れた。
 3人の海賊を始末した大男。その正体は傭兵ギルドのギルドマスターのグレン・ボイルである。
 床下に部下とともに潜んでいたボイルは、海賊の死体を蹴って場所を空けると、倒れていた椅子を起こして腰を下ろした。

「いてて・・・狭い場所に入ってたおかげで腰にきちまった。年は取りたくねえなあ」

「マスターは一生現役ですから心配いりませんよ・・・どうやら、他に海賊はいないようですね」

「ああ、騒ぎにならなくて何よりだ。これで作戦を続行でき・・・」

プオーーーーーー

 総督府の方角からラッパの音が聞こえた。
 ボイルは鋭く窓の外へと視線を走らせて、座ったばかりの重い腰を上げる。

「・・・予定よりも少し早いようだが、ゴーサインが出たみたいだな」

「そうですね。行きましょう!」

「おうよ! 海賊共に目にもの見せてやるぜ!」

 部下が剣を抜いて、民家の扉を開け放った。
 ボイルは自慢の戦斧を片手に、戦場となった町へと躍り出た。
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