俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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第3章 南海冒険編

11.奴隷の気持ち

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side スー

 私の名前はスーといいます。
 ディンギル様というお方の奴隷をしています。

 私がどうしてご主人様の奴隷になったのか。実のところ、私にはそうなった経緯がよくわかっていません。

 私はとある裕福な家に生まれました。
 その家がどのような家であったのか、どんな家業をしていたのか、家名すらも今の私の記憶には残っていません。

 私はなぜか幼い頃から動物や鳥と話をすることができました。
 それが当たり前のことではないと気がついたのは、生まれた家から出ることになった後のことです。

 ある日のこと、父が愛用していた時計を失くしてしまったと騒いでいました。結婚前に母からもらったという宝物の時計です。

 父のことが大好きだった私は、どうにかして時計を見つけてあげようと友達のネズミに相談しました。

『ああ、それだったら庭木に巣をつくっているカラスが盗っていったぞ』

 その言葉を聞いた私は庭の高い木のところまで行って、カラスに時計を返してくれるようにお願いしました。
 カラスはしばらく不機嫌そうにカーカーと鳴いていました。しかし、徐々に私の瞳に涙が溜まってくるのを見て、しぶしぶながら時計を返してくれました。

 時計を取り戻した私は、ウキウキと軽い足取りで父の下へと行きました。
 銀の時計を手にした父は驚いて、少しきつい口調でどこにあったのかと問い詰めてきました。
 どうやら、私がイタズラで隠したと思われたようです。私はあわてて事情を説明しました。

「そうか・・・ネズミと、カラスか」

 私の話を聞き終えた父は苦い薬を飲んだような顔で黙り込んでしまいました。
 怒られるようなことをしてしまったのかとビクビクしていた私ですが、結局、父は何も言いませんでした。

 そして・・・次の日には私は家から出て、修道院に入ることになりました。
 訳のわからないまま家族と離れ離れになってしまった私は、しばらく泣いて過ごしました。
 それでも、優しいマザーやシスター達のおかげで幼い私はすぐに立ち直り、修道女としての新しい道を歩み始めたのです。

 そして、数年後。
 16歳になった私は修道院の経営者であるマザーに呼び出されました。

「スー、貴方の奉公先が決まりましたよ」

「奉公先ですか? どうして?」

 修道女の中には、修道院から出てどこかの貴族や商人の下へと奉公に出るものがいます。
 多くの場合そのまま帰ってくることはなく、奉公先で良い相手を見つけてお嫁に行ってしまいます。

 生まれた家の名前さえ思い出せない私にとって、修道院は実の故郷のようなものです。
 また故郷を追い出されるなど堪えられません。

「これは貴女にとって必要なことなのです。どうかわかってください・・・」

 しばらく抵抗した私でしたが、最終的にはマザーの悲しそうな表情を見て修道院から出る覚悟を決めました。

「ごめんなさい。私は貴女の幸福を心から祈っています」

「マザー・・・こちらこそ、お世話になりました」

 私は涙を流してマザーやシスターと分かれて、とある商人の下へと連れていかれました。

 そして・・・

「え・・・?」

「ほらよ、ここに入ってろ!」

 なぜか私は船に乗せられて、檻の中へと放り込まれました。
 檻の中には大勢の子供達がいます。子供達はみんな膝を抱えてうずくまっていて、泣いている子供もいます。

「大丈夫、大丈夫ですよ」

 現実を受け入れられないのは私も一緒でしたが、ここでは私が一番の年長です。
 幸いにして修道院では子供を預かることもあって子守りには慣れています。私は必死に泣いている子供達を慰め続けました。

 牢屋で食べる食事は非常に質素なものでした。
 修道院での食事もほとんどがパンとスープという貧しいものでしたが、ここでの食事はさらに下回っています。
 石のように固いパンを水に浸して口に運びつつ、私は考えました。

(どうして、何のために私は生まれてきたのでしょうか?)

 修道院で習った神様の教えでは、嬉しいことも辛いことも全てに意味があり、人間は運命という名前の風車によって回されているそうです。

 私が動物と話ができるのも。

 家から追い出されたのも。

 修道院に入ったのも。

 こうして牢屋に閉じ込められているのも。

 全てに何かの意味があって、神様と運命のお導きということになります。

 そんな事を考える航海が数日続いたとき、その人は私の前に現れました。

「あー、なんだ・・・お前らを攫ってきた海賊共は俺が皆殺しにした」

 牢屋の前へと現れた男性。それが私のご主人様となるディンギル様です。
 ご主人様の言葉を聞いて、私は今さらながら自分を閉じ込めた男達が海賊であると気がつきました。

 女性しかいない修道院で生活していた私にとっては、初めてまともに話すかもしれない同世代の男性です。
 少し緊張しながらご主人様と話した私は、あれよあれよという間にご主人様の奴隷となり、一緒にベッドで眠ることになりました。

 その夜の体験は、私の人生で初めてのものです。
 痛かったり、辛かったり、何か大切なものを失くしてしまったような気持ちがあったり。
 だけどフワフワと浮いているような楽しい心地があって、顔を隠して走り回りたくなるほど恥ずかしい。
 ご主人様と過ごした夜は、そんな一晩でした。

 翌朝は生まれてから一度も経験したことがないくらい清々しい朝でした。
 驚くほど体が軽くて、スッキリしています。

 そして、その日のうちにご主人様の故郷へと訪れた私は、光り輝く無数の塔という、海よりも星空よりも美しい光景を目にしました。
 こんな美しいものを見たのも、生まれて初めてです。

「ご主人様はたくさんの初めてをくれるのですね」

 二人で輝く塔の間を歩いているとき、私はふと気が付きました。

 これが私の運命なのだ。
 私はご主人様の奴隷となるために生まれてきたのだと。

(次に行くのはサファイア王国・・・ご主人様は、今度はどんな初めてをくれるのでしょうか?)

 ウキウキと、ハラハラと、ワクワクと。
 心臓が破れそうになるようなドキドキを胸にして。
 私はサファイア王国を目指して、ご主人様と船に乗り込むのでした。
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