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第3章 南海冒険編
6.悪役令嬢の思惑
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side マリアンヌ・ロサイス
「まったく、お父様にも困りましたわ!」
父に叱られて自室へと逃げてきた私は、そのままの格好でベッドへと飛び込んだ。
ドレスにシワが付いてしまうのも構わず、ゴロゴロと転がって鬱憤を晴らす。
「私が好きであんなことしてると思ってるのかしら! 男に媚を売るなんてはしたない!」
苛立ちとともに吐き捨てて枕に顔を埋めた。それでも気分は収まらず、そのまま寝返りを打ちながら枕を投げ飛ばして壁にぶつける。
あの男達といい、父といい、どうして男性というのは自分中心でしか物事を見れないのだろうか?
話していてストレスが溜まってしまう一方だ。
「父は貴族としては少し潔白すぎますわ。あれでは、これからの時代を支えることはできません!」
私は父を心から尊敬している。
王の後見人としてふさわしい、清廉で優秀な人物だと。
しかし、そんな父のやり方はこれからの時代に通用しないだろう。
私の婚約者であったサリヴァンが廃嫡されて国王となったスレイ陛下であったが、幼い国王の治世は破滅と隣り合わせになっている。
そもそも、新王スレイ・ランペルージは王位に就く上での正当性が薄い。
前王が病で倒れる寸前に残したスレイ陛下が実の子ではないという発言。それは血統を重んじる中央貴族にとって許しがたいことであった。
中央貴族の多くがスレイ陛下を侮っており、心からの忠義を誓っている者など片手の指の数ほどしかいないだろう。
ランペルージ王家と血縁関係のある貴族の中には、我こそが正当な血筋だと王位簒奪のを狙っている者さえいるぐらいだ。
また、王家所有の国宝であった【豪腕英傑】が行方知れずとなったことも大きい。
かの魔具は王家の権威を象徴するものであり、同時に王家が他の貴族に対抗する武力であった。
それを失くしたランペルージ王家への求心力は大きく落ちており、その権威は実のない空虚なものと成り果てていた。
そして・・・
「トドメの一撃。帝国との和平ですか・・・」
私はゴロリと寝返りを打って、ベッドの天蓋へと視線を向けた。
頭の中に王国周辺の地図を思い浮かべる。
これで王国の北方と東方、二つの国境を脅かす敵がいなくなったことになる。
もちろん、完全に帝国を信用したわけではないが、先の戦いで消耗した国力の回復にも時間がかかるだろうし、この先10年は戦端が開くことはないだろう。
「これで北方のウトガルド家、東方のマクスウェル家が自由に動けるようになったわけですね・・・いつだって、王都を攻めることができる」
ランペルージ王家と四方四家との関係は残念ながら良好とはいえない。
辺境貴族は中央貴族を頭でっかちな弱虫と侮っている。
中央貴族は辺境貴族を下賤な野蛮人と蔑んでいる。
王家は中央貴族を擁護する立場にあったため、自然と辺境貴族との溝は深まるばかりであった。
「特にマクスウェル家はいけませんね。馬鹿な婚約者のせいで、彼らとの対立は決定的になってしまいましたから」
あのバカ婚約者。アホのサリヴァンがマクスウェル家の次期当主を暗殺しようとしたせいで、王家はマクスウェル家から相当に敵視されているだろう。
もはや、この国に一刻の猶予もない。
父はスレイ陛下が成人するのを待って改革を進めるつもりのようだが、そんな悠長なことを言っている時間はない。
手段を択ばず、早急に立て直しを図らなければ。
「そのために私は悪役令嬢になったわけですが・・・理由を説明しても、父には理解してもらえないでしょうね」
権力者は時に清濁を併せて吞むことが必要になるが、父は少々、「清」の側に偏りすぎている。
もはや父の「清」のやり方ではこの国を支えることはできない。
これからこの国に必要な舵取りは、汚泥に身を沈めるように卑劣なやり方をする「濁」の権力者だ。
「女の武器を使って中央貴族をまとめ上げて、全力でこの国を掌握する。大丈夫、私にはその才能がある」
サリヴァンという愚かで自尊心の高い婚約者と付き合ってきたせいで、私は男を立てて自分の望む方向へと誘導する手練手管を身に着けてしまっている。
望んで得た才覚ではないが、この際だから全力で利用させてもらおう。
中央貴族にはいくつかの派閥があるが、私はそれらの派閥を越えた独自のグループを作っている。
既にそのグループを利用した情報交換は始められている。
今後は各派閥のパワーバランスを調整しつつ、王国の政治を裏からコントロールする方向へと持っていくつもりだ。
「出来るのならもう一手、彼を味方にすることができれば盤石なのですが・・・」
中央貴族を掌握することで政治力は得つつある。次に必要なのは軍事力。
そう、例えばどこかの女好きの英雄でも誑かすことができれば・・・
「この国を貴方達の隙にはさせませんよ。女の敵である貴方の最大の敵は、私という女だと知りなさい!」
私は決意を固めて、顔の前で握りこぶしを作った。
ディンギル・マクスウェル不在のランペルージ王国では、様々な思惑が生まれ、歪で邪悪な魔物のようにうごめている。
それをディンギルが知るのは、まだしばらく先のことであった。
「まったく、お父様にも困りましたわ!」
父に叱られて自室へと逃げてきた私は、そのままの格好でベッドへと飛び込んだ。
ドレスにシワが付いてしまうのも構わず、ゴロゴロと転がって鬱憤を晴らす。
「私が好きであんなことしてると思ってるのかしら! 男に媚を売るなんてはしたない!」
苛立ちとともに吐き捨てて枕に顔を埋めた。それでも気分は収まらず、そのまま寝返りを打ちながら枕を投げ飛ばして壁にぶつける。
あの男達といい、父といい、どうして男性というのは自分中心でしか物事を見れないのだろうか?
話していてストレスが溜まってしまう一方だ。
「父は貴族としては少し潔白すぎますわ。あれでは、これからの時代を支えることはできません!」
私は父を心から尊敬している。
王の後見人としてふさわしい、清廉で優秀な人物だと。
しかし、そんな父のやり方はこれからの時代に通用しないだろう。
私の婚約者であったサリヴァンが廃嫡されて国王となったスレイ陛下であったが、幼い国王の治世は破滅と隣り合わせになっている。
そもそも、新王スレイ・ランペルージは王位に就く上での正当性が薄い。
前王が病で倒れる寸前に残したスレイ陛下が実の子ではないという発言。それは血統を重んじる中央貴族にとって許しがたいことであった。
中央貴族の多くがスレイ陛下を侮っており、心からの忠義を誓っている者など片手の指の数ほどしかいないだろう。
ランペルージ王家と血縁関係のある貴族の中には、我こそが正当な血筋だと王位簒奪のを狙っている者さえいるぐらいだ。
また、王家所有の国宝であった【豪腕英傑】が行方知れずとなったことも大きい。
かの魔具は王家の権威を象徴するものであり、同時に王家が他の貴族に対抗する武力であった。
それを失くしたランペルージ王家への求心力は大きく落ちており、その権威は実のない空虚なものと成り果てていた。
そして・・・
「トドメの一撃。帝国との和平ですか・・・」
私はゴロリと寝返りを打って、ベッドの天蓋へと視線を向けた。
頭の中に王国周辺の地図を思い浮かべる。
これで王国の北方と東方、二つの国境を脅かす敵がいなくなったことになる。
もちろん、完全に帝国を信用したわけではないが、先の戦いで消耗した国力の回復にも時間がかかるだろうし、この先10年は戦端が開くことはないだろう。
「これで北方のウトガルド家、東方のマクスウェル家が自由に動けるようになったわけですね・・・いつだって、王都を攻めることができる」
ランペルージ王家と四方四家との関係は残念ながら良好とはいえない。
辺境貴族は中央貴族を頭でっかちな弱虫と侮っている。
中央貴族は辺境貴族を下賤な野蛮人と蔑んでいる。
王家は中央貴族を擁護する立場にあったため、自然と辺境貴族との溝は深まるばかりであった。
「特にマクスウェル家はいけませんね。馬鹿な婚約者のせいで、彼らとの対立は決定的になってしまいましたから」
あのバカ婚約者。アホのサリヴァンがマクスウェル家の次期当主を暗殺しようとしたせいで、王家はマクスウェル家から相当に敵視されているだろう。
もはや、この国に一刻の猶予もない。
父はスレイ陛下が成人するのを待って改革を進めるつもりのようだが、そんな悠長なことを言っている時間はない。
手段を択ばず、早急に立て直しを図らなければ。
「そのために私は悪役令嬢になったわけですが・・・理由を説明しても、父には理解してもらえないでしょうね」
権力者は時に清濁を併せて吞むことが必要になるが、父は少々、「清」の側に偏りすぎている。
もはや父の「清」のやり方ではこの国を支えることはできない。
これからこの国に必要な舵取りは、汚泥に身を沈めるように卑劣なやり方をする「濁」の権力者だ。
「女の武器を使って中央貴族をまとめ上げて、全力でこの国を掌握する。大丈夫、私にはその才能がある」
サリヴァンという愚かで自尊心の高い婚約者と付き合ってきたせいで、私は男を立てて自分の望む方向へと誘導する手練手管を身に着けてしまっている。
望んで得た才覚ではないが、この際だから全力で利用させてもらおう。
中央貴族にはいくつかの派閥があるが、私はそれらの派閥を越えた独自のグループを作っている。
既にそのグループを利用した情報交換は始められている。
今後は各派閥のパワーバランスを調整しつつ、王国の政治を裏からコントロールする方向へと持っていくつもりだ。
「出来るのならもう一手、彼を味方にすることができれば盤石なのですが・・・」
中央貴族を掌握することで政治力は得つつある。次に必要なのは軍事力。
そう、例えばどこかの女好きの英雄でも誑かすことができれば・・・
「この国を貴方達の隙にはさせませんよ。女の敵である貴方の最大の敵は、私という女だと知りなさい!」
私は決意を固めて、顔の前で握りこぶしを作った。
ディンギル・マクスウェル不在のランペルージ王国では、様々な思惑が生まれ、歪で邪悪な魔物のようにうごめている。
それをディンギルが知るのは、まだしばらく先のことであった。
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