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幕間 ディートリッヒ・マクスウェルの冒険
17.故郷からの手紙
しおりを挟む無事に海賊の財宝を手に入れた俺達は、船に積めるだけの財宝を積んでアレキサンドライト島を後にした。
船いっぱいに金塊を積んでもまだ、あの財宝の部屋にあった金品の1%にもとどいていない。
あの島はこれから白鬼海賊団が占領して、拠点として利用していくとのことである。
「なあ、ディートリッヒ。お前も白鬼海賊団に入らないかあ?」
サファイア王国の港にて。
分け前の財宝を受け取った俺に、グレイスはそんな提案をしてきた。
「お前がいたらもっと楽しそうだからなあ! それに、いつか気も変わるかもしれないしなあ」
「あー・・・そうだなあ」
今の俺は寄る辺のない根無し草だ。傭兵や冒険者になるのも、海賊になるのもどっちも変わらない気がする。
そういう意味では、グレイスの提案は渡りに船であった。
「まあ、すぐに答えろとは言わないぞ。私達はしばらく、この港に逗留する予定だから、気が向いたら船に来てくれよお?」
「・・・考えておく」
俺はモヤモヤと胸に籠った感情を持て余したまま、サファイア王国の港町を歩いて行った。
初めて来たときには何もかもが物珍しかったこの町も、あの大冒険を経験した後では全てが霞んで見える。
グレイスと白鬼海賊団と旅をした数日はあまりにも過酷であったが、退屈する暇のない、手にした黄金と遜色なく輝いていたような気がする。
(このまま海賊になってグレイスについていったら、こんな黄金の日々が続くのだろうか?)
それは何とも魅力的な話に聞こえる。目的も何もないまま、フラフラと日銭を稼ぐために傭兵をしているよりも遥かにマシだ。
「海賊ディートリッヒ。はっ、悪くないかもな」
辺境伯である父親や、その後継者である兄が聞いたらどんな顔をするだろうか?
それを思い浮かべるだけでも、なんとも愉快な気持ちになってくる。
心の天秤を「海賊になる」方へと傾けたまま、俺は友人であるジャンゴ・サンダーバードの店へと訪れた。
「よお、ディートリッヒ。しばらくぶりだな。えらく楽しそうな顔してどうした?」
「まあ、色々とな」
語り切れない冒険の日々をその言葉で片付けて、俺は店のテーブルへと皮のカバンを置いた。
「ん、何だ?」
「そいつを換金してくれよ。払えるだけの金額でいいからよ」
「これは・・・!」
鞄を開けたジャンゴが目の色を変える。
大きめの旅行鞄に入るだけ詰められた財宝は、それだけでも莫大な金額になるから当然だ。
「・・・しばらく、時間をもらうぞ。こいつは純金、歴史的な価値だってあるかもしれない。下手をしたら金貨100万枚以上の価値があるぞ!」
「任せた。いい値になったのならお前にも分け前をくれてやるよ。なに、どうせあぶく銭だから気にするな」
「・・・感謝するぜ」
店の奥へと消えていこうとするジャンゴだったが、ふと思い出したように立ち止まり、引き出しから便箋を取り出してテーブルに置いた。
「そうだ、お前の親父さんから手紙が届いてるぞ。何やら急用っぽいけど・・・」
「ん? ああ、悪いな」
俺は手紙を受け取り、ひっくり返して裏側を見る。マクスウェル家の封蝋が押された手紙の差出人は間違いなく父親のものである。
家で同然に飛び出してきた息子に、いったい何の用事だろうか?
俺は手で便箋を破り、折りたたまれた手紙を取り出す。
羊皮紙に丁寧に書かれた文字を読み込んで、目を見開いた。
「ディラン・マクスウェルが・・・兄貴が死んだって・・・?」
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