俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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幕間 ディートリッヒ・マクスウェルの冒険

16.海賊の財宝

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 シーヒュドラを倒した俺とグレイスは洞窟をさらに奥へと進んで行った。ゴード達は別行動をとっており、今は二人きりになっている。

「よかったのか? ゴード達を置いてきて」

「シーヒュドラを早めに処理しないといけないからなあ。きちんと毒抜きをすれば鱗や皮は高値で売れるし、胆嚢にだって使い道があるんだぞお」

「ほお」

 何気なく会話をしているグレイスであったが、すでに骨となった両腕は元通りになっている。
    何事もなく再生しているにもかかわらず、腕に俺のシャツを巻きつけた彼女の姿には、もはや驚く気も失ってしまう。

 シーヒュドラと戦った広い空間は居住区だったらしい。進むにつれて建物は少なくなっており、道も細くなっていった。
 暗い洞窟をカンテラの明かりを頼りに半時ほど歩いていくと、やがて道の先に明るい光が見えてきた。

「ここは・・・」

「ついたなあ、ここが最奥だ!」

 そこは黄金に輝く部屋だった。
 広い部屋はありとあらゆる金銀財宝で満たされている。
    頭上には明り取りの窓が付けられていて、差し込んできた月明かりが山のように積まれた黄金を明るく彩っている。

 金貨や金塊だけでも数百トン、宝石や美術品もあって、金銭にすればどれだけの額になるのか想像もつかなかった。

「・・・すげえな。大国の国家予算に匹敵するぞ」

「百人の海賊が百回生まれ変わったってこれほどの財を使い尽くすことはできないだろうなあ! がははは、よくもまあ、こんなに集めたもんだよなあ!」

 グレイスはずんずんと財宝の部屋を奥へと歩いて行った。俺も財宝に目を奪われながらも後に続く。
 やがて、俺達は財宝の山にひっそりと隠れるようにした人影を発見した。

「骸骨だと・・・」

「ここにいたみたいだなあ」

 それは一人の男の亡骸であった。黒い服に身を包んでいて、頭にはドクロのワッペンがついた帽子をかぶっている。

「こいつがこの財宝の主、あの大蛇の飼い主でもある大海賊。キャプテン・ドレークだあ」

「キャプテン・ドレーク・・・」

 それは俺も耳にしたことがある名前だった。
 千年前の古代史に登場する大悪党。いくつもの町や国を襲い、古代魔法文明の崩壊の原因になったとされる人物である。

「伝説の大悪党がこんな所で死んでいやがったのか・・・これだけの金銀財宝と悪名を手にした男の最期がこの有様かよ・・・」

 財宝に囲まれて孤独に死んだ男の末路には、根無し草となった我が身を顧みて感じ入るものがあった。
    自分の最期もあるいはこの男と似たような物になるかもしれない。

「同情しているのなら、そりゃ余計だぞ。悪党には悪党にふさわしい末路があるってことだからなあ!」

 グレイスは大海賊の亡骸を探って、腰にさしていた剣を抜き取った。

「まあ、お情けで墓ぐらいは作ってやるぞお。駄賃にこいつはいただいておくけどなあ」

「そんな古い剣をどうするんだよ。値打ち物か?」

「こいつは『魔法殺し』と呼ばれる魔剣だ。ずーと、これが欲しかったんだよなあ」

「魔剣ねえ・・・」

 俺の【白銀閃剣】と同じようなものだろうか。
 さんざん拳やら蹴りやらで戦っておいて武器を求めるとは、いったいどういう心境の変化だろうか。

「これは私が使うためのものじゃあない。使うのは・・・お前だあ」

「ああ?」

 グレイスは骸から奪った剣を俺に押し付けてきた。埃っぽい匂いがする寂れた装飾の剣が手の中に納まる。

「俺が? 探してたんじゃなかったのか?」

「探してたのはお前もだ。この剣と、それを使いこなせそうな剣士。両方なきゃあ意味がないからなあ」

「・・・・・・」

 俺はしばしの間、古めかしい剣を眺めた。
 装飾こそ千年の時間の中で劣化してしまっているが、これがただならぬ力を持った魔具であることはそれとなく伝わってくる。

 失った愛剣の代わりとしては十分な代物だろう。

 しかし――

「・・・いや、これはいらん」

「んー? 何でだあ?」

「この剣は俺の求めるものじゃない気がする。ついでに言うと、こいつも俺を待っちゃあいない」

 剣と剣士は男女と一緒。相性というものがある。
 俺とこの剣の相性は残念ながら最悪。お互いの力を引き下げるだけにしかならない気がする。

「そういうものかあ・・・・・・がははっ、まーた死にぞこなったなあ!」

「ん? 何だって?」

「いやあ? 別にどうだっていいぞお! それじゃあ・・・」

 グレイスは足を振り上げて、キャプテン・ドレークの亡骸へと踵を叩きつけた。
 乾ききった骸骨は粉々に崩れて、白い砂となって財宝の部屋の床を汚す。

「・・・お別れだ。ゆっくり眠れよお? ドレーク」

「・・・・・・」

 グレイスの顔には、いつもの獣の笑みが貼りついている。

 しかし、俺の目には不思議と彼女が涙を堪えているように見えたのであった。
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