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幕間 ディートリッヒ・マクスウェルの冒険
14.遺跡の守護者
しおりを挟むこうして、獅子王船団を打ち破った俺達はアレキサンドライト島に到達した。
時間はすでに夕暮れになっており、西の空には沈みゆく太陽がオレンジ色に輝いている。
古代魔法文明の一つが栄えていたというその島は、特に遺跡や何かがあるわけでもない、どこにでもあるような無人島であった。
「本当にこの島に海賊の財宝とやらがあるのかよ」
「へえ、それは間違いありやせん。こっちの入り江ですよ」
俺の疑問にゴードが答えた。
白鬼海賊団の船は島に上陸することはなく、島をぐるっと迂回して反対側の入り江まで回り込んでいった。
島の反対側には大小無数の岩礁が行く手を阻んでいる。
俺とグレイス、ゴードと数人の海賊は小舟に乗り換えて、入り江の奥にある洞窟へと進んでいった。
「この洞窟は引き潮の時間だけ現れるもので、普段は海面よりも下にあるんですよ」
「へえ、夜の間だけ現れる洞窟か。なかなか神秘的じゃないか」
「この島に栄えていた文明は、何かの政治的な原因で大陸から逃げ出してきた連中が作ったそうです。だから人目を阻むような場所に作られてるんでしょうね」
古代文明の遺産--いわゆる『ダンジョン』と呼ばれる場所はランペルージ王国にもいくつかある。
俺も何度か訪れたことがあるが、その中は別世界のような光景が広がっていることが多い。
しばらく暗い洞窟を進んでいった小舟は、やがて明るい場所へとたどり着いた。
「これは・・・」
「なかなか見物でしょう? これがこの島のもう一つの顔でさあ」
洞窟を進んだ先には驚くほど広い空間が存在した。
要塞が一つ丸ごと入るような広々とした空間には、大きな四角い建物が並んでいる。
建物の壁一面には青白い光が点々と灯っていて、まるで呼吸をするかのようなリズムで明滅を繰り返している。
「すげえな、この光景だけで十分なお宝だぜ」
「あの建物には特殊な塗料が塗られていて、空気に触れることで光を放つそうですよ。たしか『ケーコートリョ』とか何とか言いましたかね?」
隣にいるゴードが聞いてもいないのに解説をしてくる。
いかつい顔に似合わない博学さを発揮する海の男に、俺は意外に思って目を細めた。
「・・・顔に似合わず博識だな」
「へへっ、こういう遺跡とか大好きなんですよ。こう見えてもガキの頃にゃあ考古学者になりたかったんでさあ」
「本当に意外だな」
学者なんて目指すのは金に余裕のある奴だけだ。ひょっとしたら目の前の大男は良い所の坊ちゃんなのかもしれない。
「お喋りはそれまでだあ! そろそろ出てきやがるぞお!」
「あ? 何がだよ」
それまで黙っていたグレイスが会話に割って入ってきた。
赤いドレスに着替えた彼女は鋭い視線で遺跡の奥を睨みつけている。
ただならぬ雰囲気の船長の様子に、他の海賊達の間にも緊張が走る。
「・・・ここまでは俺達も来たことがあるんですよ。ただ、ここからは奴がいて通れない」
「奴・・・そういや、守護者がいるって話してたな」
「へえ、旦那。アンタをここに連れてきたのは、奴を倒す助っ人になってもらうためでさあ」
ゴードの言葉に俺は唇を歪めた。
怪物のごとき女海賊グレイス・ドラコ・オマリという戦力がありながら、それでも倒せないほどの存在がこの奥にいるのか。
「来ましたぜ! 旦那!」
ズリ、ズリ、と何かが這うような音が遺跡の奥から轟いてくる。音は段々と大きくなってきて、やがて光壁のつくる青白い光の中に『それ』が姿を現した。
「これは・・・!」
それは蛇のようなフォルムをしていた。
真っ赤な鱗で覆われていて、大きく開いたアギトからはチロチロと舌が出入りしている。
しかし、その大きさは船を飲み込まんばかりに巨大であり、さらに首から先が二又に分かれて二つの頭部を持っていた。
「『シーヒュドラ』・・・鉄を溶かす猛毒の大蛇だあ!」
グレイスが口元に笑みを浮かべながら魔物の名前を口にする。
その声が聞こえたわけではないだろうが、大蛇の二つの頭部が鎌首をもたげて真っ赤な瞳がこちらに向けた。
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