俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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幕間 ディートリッヒ・マクスウェルの冒険

13.鬼の霍乱

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 7つほど船を沈めたところで、獅子王船団は撤退を始めた。
 どうやら、親玉をグレイスが討ち取ったらしい。

「人を投げ飛ばしておいて良いトコ取りかよ。調子の良い女だ」

 俺はうんざりしたように言って、グレイスがいる敵の主船へと飛び移る。
 さんざん船を壊したおかげで、海には木片やら水死体やら山のように浮かんでいる。足場には困らなかった。

「おおっ、大活躍だったなあ! まるでカトンボのように空を飛んでたじゃないか!」

「ちっ、人を砲弾にしておいて最初に言うことが・・・ぶっ!」

 グレイスの姿を見て、俺は思わず吹き出した。
 鬼のごとく強さを持つ女海賊は布切れ一枚も身につけていなかった。
 南国の女性にしては白過ぎる肌を、日光の下で存分にさらしている。

「な・・・お、おま・・・それはっ!」

 俺だって女を知らぬ小僧ではない。
 商売女を買ったことはあるし、実家の辺境伯家で働いていたメイドに悪さをしたことだってある。
 今さら女の全裸ごときに動揺するほど初心ではない。

 しかし、目の前にいるのはあの化物女である。

 小柄な背丈のわりにたわわに実った胸とか。

 どこにあの怪力があるのかと思う、細い腰とか。

 血にまみれてなおも美しく見える真珠の肌とか。

 この化け物がれっきとした『女』であると感じさせる部位が、余すところなく見えてしまっている。

「何で裸なんだよ! さっきのドレスはどうした!」

「あんな服で泳げる訳ないだろう。脱いできたぞお?」

「だからって・・・」

 俺はグレイスの裸体から目を逸らしつつ、何か着る物がないか探す。
 船のデッキには海賊の死体が散乱している。海賊達の服はどれも血と肉片でグチャグチャになっており、再利用などとても出来そうになかった。

 仕方がなく、俺は自分の上着を脱いでグレイスの肩へとかけた。

「おお?」

「・・・何だよ」

「女扱いされたのは久しぶりだなあ! わりと本気でうれしいぞ?」

「・・・そうかい」

 上着の合わせ目を握って楽しそうに跳ねるグレイスを見ていると、投げ飛ばされた事への殺意が不思議と消えていく。
 自分でも処理しきれない感情を持て余していると、白鬼海賊団の船がこちらまで近づいてきた。
 船からゴードが顔を出して、労うようにニカッと笑いかけてくる。

「お疲れさまです! 二人とも、すばらしいご活躍でしたなあ!」

「うむ、お迎えご苦労だなあ!」

「そっちもお疲れさん。敵に追撃はするのか?」

 俺が訊ねると、ゴートは首を左右に振った。

「こちらは一隻ですからね。追撃は難しいそうでさあ」

「ま、そうだろうな」

 俺はうなずいて、味方の船へと乗り換える。
 グレイスはとっくに船に戻っていて、身体を洗うつもりなのか船室へと消えていく。
 貸した上着の裾からはみ出た足を意味もなく眺めながら、俺はゴードへと指示をする。

「邪魔者が居なくなったことだし、さっさと目的の島に連れてってくれよ。さっさと帰って酒が飲みたい」

「はあ?」

 ゴードが不思議そうに俺を見る。強面の船乗りの顔に珍獣を見るような表情が浮かんでいる。

「旦那。さっきから顔が赤いですぜ。まさか婆様の裸に興奮・・・」

「してねえよ!」

「ぐべっ!?」

 俺はゴードを蹴り飛ばして海へと落とす。
 船員達が慣れた様子で副長を引き上げるのを尻目に、船のマストの下にどっしりと腰掛けた。 
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