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幕間 ディートリッヒ・マクスウェルの冒険
10.反撃の砲弾
しおりを挟むその頃、獅子王船団の船では。
「見つけたぞ! 白鬼海賊団の船だ!」
「よし! 手筈通りに片付けるぞ!」
宿敵とも呼べる海賊船を目の当たりにして、獅子王船団の船は騒ぎ立っていた。
浮き足立っている部下達に指示を出しながら、獅子王船団総督ガラハト・ブラッドペインは前方の船を睨みつけた。
「敵の船はわずかに1隻、ドラコ・オマリも乗ってやがるな・・・ははっ、千載一遇のチャンスってやつだな!」
望遠鏡をのぞくと、船のデッキに白髪の女の姿が見えた。
レンズ越しにもわかる愉快そうな笑みを浮かべた女がガラハトの方を向く。
「っ・・・!」
ぞわりと、かつてのトラウマが蘇る。
炎を上げて沈みゆく船。真っ赤に染まった海には仲間の骸が漂っている。
ガラハトは木片にしがみついて死んだふりをして、大口を上げて笑う女の声を震えながら聞いている。
「もう二度とあんな思いはしねえ、ここでテメエと決着つけてやる・・・!」
ガラハトは奥歯をギリギリと噛みながら、前方の船を睨みつける。
「全員、持ち場につけ! いいか、絶対に白鬼の船に近づくんじゃねえぞ! 離れた距離から沈めてやれ!」
『はっ!』
統制の取れた返事をして、船乗り達は指示通りに動いていく。
「おいおい、これってヤバいんじゃないか?」
「うっ、不味いですね・・・」
俺の言葉にゴードが表情を歪める。
獅子王船団は白鬼海賊団の船を扇状に取り囲み、ひたすらに棒火矢を撃ち込んできている。
常に一定以上の距離を保ち続けており、どうやら直接剣を交えるつもりはないようだ。
「そうとう怖がられてるみたいだな。よほどグレイスと戦いたくないみたいだ」
言いながら、俺は【白銀閃剣】を振るった。伸びた銀剣によって、打ち込まれようとしていた棒火矢が数本、空中で切り裂かれて海に落ちる。
どうやら獅子王船団と呼ばれる海賊達は、グレイス・ドラコ・オマリという女の強さを熟知しているらしい。
グレイスを船に閉じ込めたまま、離れた場所から攻撃して船を沈める算段のようだ。
「棒火矢・・・火薬か。噂には聞いていたが、えらく便利な品物だな」
火薬の存在については知識として知っていたが、それを目の当たりにするのは初めてだった。
銛のような鉄製の矢には筒のような物が付けられていて、そこに火薬が詰められているようだ。火のついた火薬の推進力によって放たれた矢が、こうして遠く離れた敵船を一方的に攻撃している。
まさに海上戦にもってこいの武器である。
「こっちの船には火薬はないのか? このままじゃ抵抗できずに沈められるぞ?」
「・・・残念ながら。この間のシケで全部ダメになっちまいやした」
ゴードは無念そうに言いながら、棒火矢が被弾した部分に手桶の水をかける。
必死に防いではいるものの、すでに船には何本か棒火矢が撃ち込まれている。船体に穴が開いてしまった箇所もあり、長くは持ちそうになかった。
「心配するなあ! ここから反撃するぞお!」
頭によぎった敗北を吹き飛ばしたのは、馬鹿みたいに明るいグレイスの声だった。
「お前、これまで何処に行って・・・なんだそれ?」
グレイスは両手に大きな木箱を抱えている。木箱の中には手の平に乗るくらいの大きさの黒いボールが詰められている。
「ただの鉄の玉だあ、文句あるかあ!?」
「・・・別にないけど、それをどうするつもりだ?」
「がはははっ! こうするんだあっ!」
グレイスは鉄の玉を一つ掴んで、思い切り振りかぶる。
「まさか・・・」
「ガアアアアアアアアッ!」
ミシリと筋肉がしなる音がした。グレイスの肩がうねりを上げるように回転する。
回転と共に鉄の玉が射出される。大きく弧を描いて飛んでいった玉はそのままの勢いで敵船の一つへと着弾する。
「・・・嘘だろ」
「がははははははははっ! 命中だあ!」
「嘘・・・っていうか、馬鹿だろ。お前」
鉄の玉はどう考えても5㎏以上の重さがある。それを手毬のように投げるとはどんな肩をしているのだ。
「俺はこんな化物と斬り合ったのかよ・・・おっかねえなあ」
若干、自分のことを棚に上げているような気がしないでもないが、何はともあれこれで反撃できる。
俺は剣を振りながら、グレイスへと叫ぶ。
「船は俺が守る。お前は攻撃に専念しやがれ!」
「がはははっ! 指図をするなよ、尻の青いガキが! だけど承知したぞお!」
俺は剣で飛んでくる棒火矢を切り落とした。
孤軍奮闘を続ける船から、再び黒い玉が射出された。
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