91 / 317
幕間 ディートリッヒ・マクスウェルの冒険
9.獅子王船団
しおりを挟む
本日、2話目になります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・誰だ、お前は」
「すいやせん、申し遅れました。あっしは白鬼海賊団の副長をさせもらってやす、ゴードというもんです」
ぶ厚い筋肉に覆われたハゲ頭の男が名乗った。
見るからにガラの悪そうな男であるが、なぜか腰が低く強縮しきった表情をしている。
「なんで敬語なんだよ。俺はお前の船長の敵のつもりなんだけどな」
「婆様の首を斬れるような方に、対等な口なんて聞けやしませんよ。不快でしたらすいやせん」
「グランマ、ねえ」
俺は白髪の少女を見る。確かにババアのような髪をしているが、大男に婆様呼ばわりされる年齢には見えない。
「へえ、船長は俺達の婆様です。血の繋がりはありやせんが」
「余計なことを言うんじゃねえよお! 乙女の歳をバラすなあ!」
「うげっ!」
自称乙女の白髪女がゴードの尻を蹴りつけた。
軽く蹴っただけに見えたのだが、ゴードの巨体は大きく跳ねて海へと墜落した。
「副長が海に落ちたぞー」
「へいへい、さっさと引き上げやーす」
大男が空を舞うというなかなかの異常事態に見えたのだが、船員達は慣れた様子でゴードを海から引き上げる。
ゴードは濡れたシャツを脱いで絞りながら、何事もなかったかのようにマストの下まで戻ってくる。
「失礼しやした。えーと・・・姉御」
「わかったらいい。さっさとアレに説明してやれよお」
「へい」
グレイスに頭を下げて、ゴードは俺の方を見上げた。
「旦那、心配しなくても略奪の手伝いをしろなんて言いやせん。俺達がとある島の財宝を手に入れる手伝いをしてほしいんですよ」
「財宝? 海賊の宝ってやつか?」
「へえ、そんなところです」
ゴードは大きく頷いた。頷いた拍子に、ハゲ頭の上に溜まった海水がボタボタと落ちる。
「あっしらが財宝を手に入れるためには、二つの障害を排除しなければなりやせん。一つは財宝を守る守護者。もう一つは・・・」
「西の海に船を発見! 敵船だ!」
ゴードの説明を若い船乗りの言葉が遮った。
船乗りが見ている方角に目を向けると、赤い獅子の海賊旗を掲げた船が20隻以上こちらに向けて迫ってきていた。
「どうやら、もう一つの障害が来たようです。旦那、不本意かと思いますが一働きしてもらいやす」
ゴードが手斧を取り出して俺に向けて投げつけてくる。
寸分の狂いもなく放たれた手斧が、俺を拘束するロープだけを正確に切り裂いた。
俺はクルリと回転して、船のデッキに両足で着地する。
「よっと、敵の海賊か。どっかで見たことある旗だな」
「獅子王船団。あっしらの宿敵ですよ」
「がははははははははっ! ちょうどいいぞお、面倒ごとがまとめて片付く! 皆殺しだあ!」
高笑いするグレイスを見ていると、俺の表情は自然としかめっ面になってしまう。
「俺はまだ味方するなんて言ってないんだけどな!」
「敗者は勝者に従うもんだろお? 負けたんだから言う事をきけよ!」
「死んでないから負けじゃねえよ。それを言うなら、首を切られた時点でお前の方が負けてるだろ!」
俺が言い返すと、グレイスは獣のように牙を剥いた。
「ああっ! 生意気だなあ!? やっぱりお前を食ってやろうかあ!?」
「やってみるかよ、今度は五体をバラしてサメのエサにしてやる。復活できるものならしてみやがれ!」
「婆様、旦那! 仲間割れは後にしてください! 敵が・・・」
ゴードの言葉が終わる前に、敵の攻撃が飛んできた。
火花をまき散らしながら弓矢のような物が飛んできて、俺とグレイスの間に突き刺さった。たしか棒火矢とかいう武器だ。
「ああっ、クソ! 邪魔するなら死にやがれ!」
「がははははは! 喰い合いの邪魔だよなあ!」
俺は剣を取り、グレイスは拳を構えた。
一度は殺し合った俺達の眼には、今から殺すべき共通の獲物が映し出されている。
白鬼海賊団と獅子王船団。加えて俺が一人。
南海の覇権を決定づける海戦の火蓋が切って落とされた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・誰だ、お前は」
「すいやせん、申し遅れました。あっしは白鬼海賊団の副長をさせもらってやす、ゴードというもんです」
ぶ厚い筋肉に覆われたハゲ頭の男が名乗った。
見るからにガラの悪そうな男であるが、なぜか腰が低く強縮しきった表情をしている。
「なんで敬語なんだよ。俺はお前の船長の敵のつもりなんだけどな」
「婆様の首を斬れるような方に、対等な口なんて聞けやしませんよ。不快でしたらすいやせん」
「グランマ、ねえ」
俺は白髪の少女を見る。確かにババアのような髪をしているが、大男に婆様呼ばわりされる年齢には見えない。
「へえ、船長は俺達の婆様です。血の繋がりはありやせんが」
「余計なことを言うんじゃねえよお! 乙女の歳をバラすなあ!」
「うげっ!」
自称乙女の白髪女がゴードの尻を蹴りつけた。
軽く蹴っただけに見えたのだが、ゴードの巨体は大きく跳ねて海へと墜落した。
「副長が海に落ちたぞー」
「へいへい、さっさと引き上げやーす」
大男が空を舞うというなかなかの異常事態に見えたのだが、船員達は慣れた様子でゴードを海から引き上げる。
ゴードは濡れたシャツを脱いで絞りながら、何事もなかったかのようにマストの下まで戻ってくる。
「失礼しやした。えーと・・・姉御」
「わかったらいい。さっさとアレに説明してやれよお」
「へい」
グレイスに頭を下げて、ゴードは俺の方を見上げた。
「旦那、心配しなくても略奪の手伝いをしろなんて言いやせん。俺達がとある島の財宝を手に入れる手伝いをしてほしいんですよ」
「財宝? 海賊の宝ってやつか?」
「へえ、そんなところです」
ゴードは大きく頷いた。頷いた拍子に、ハゲ頭の上に溜まった海水がボタボタと落ちる。
「あっしらが財宝を手に入れるためには、二つの障害を排除しなければなりやせん。一つは財宝を守る守護者。もう一つは・・・」
「西の海に船を発見! 敵船だ!」
ゴードの説明を若い船乗りの言葉が遮った。
船乗りが見ている方角に目を向けると、赤い獅子の海賊旗を掲げた船が20隻以上こちらに向けて迫ってきていた。
「どうやら、もう一つの障害が来たようです。旦那、不本意かと思いますが一働きしてもらいやす」
ゴードが手斧を取り出して俺に向けて投げつけてくる。
寸分の狂いもなく放たれた手斧が、俺を拘束するロープだけを正確に切り裂いた。
俺はクルリと回転して、船のデッキに両足で着地する。
「よっと、敵の海賊か。どっかで見たことある旗だな」
「獅子王船団。あっしらの宿敵ですよ」
「がははははははははっ! ちょうどいいぞお、面倒ごとがまとめて片付く! 皆殺しだあ!」
高笑いするグレイスを見ていると、俺の表情は自然としかめっ面になってしまう。
「俺はまだ味方するなんて言ってないんだけどな!」
「敗者は勝者に従うもんだろお? 負けたんだから言う事をきけよ!」
「死んでないから負けじゃねえよ。それを言うなら、首を切られた時点でお前の方が負けてるだろ!」
俺が言い返すと、グレイスは獣のように牙を剥いた。
「ああっ! 生意気だなあ!? やっぱりお前を食ってやろうかあ!?」
「やってみるかよ、今度は五体をバラしてサメのエサにしてやる。復活できるものならしてみやがれ!」
「婆様、旦那! 仲間割れは後にしてください! 敵が・・・」
ゴードの言葉が終わる前に、敵の攻撃が飛んできた。
火花をまき散らしながら弓矢のような物が飛んできて、俺とグレイスの間に突き刺さった。たしか棒火矢とかいう武器だ。
「ああっ、クソ! 邪魔するなら死にやがれ!」
「がははははは! 喰い合いの邪魔だよなあ!」
俺は剣を取り、グレイスは拳を構えた。
一度は殺し合った俺達の眼には、今から殺すべき共通の獲物が映し出されている。
白鬼海賊団と獅子王船団。加えて俺が一人。
南海の覇権を決定づける海戦の火蓋が切って落とされた。
4
お気に入りに追加
6,111
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています
もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。
使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。