俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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幕間 ディートリッヒ・マクスウェルの冒険

9.獅子王船団

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 本日、2話目になります。
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「・・・誰だ、お前は」

「すいやせん、申し遅れました。あっしは白鬼海賊団の副長をさせもらってやす、ゴードというもんです」

 ぶ厚い筋肉に覆われたハゲ頭の男が名乗った。
 見るからにガラの悪そうな男であるが、なぜか腰が低く強縮しきった表情をしている。

「なんで敬語なんだよ。俺はお前の船長の敵のつもりなんだけどな」

婆様グランマの首を斬れるような方に、対等な口なんて聞けやしませんよ。不快でしたらすいやせん」

「グランマ、ねえ」

 俺は白髪の少女を見る。確かにババアのような髪をしているが、大男に婆様呼ばわりされる年齢には見えない。

「へえ、船長は俺達の婆様です。血の繋がりはありやせんが」

「余計なことを言うんじゃねえよお! 乙女の歳をバラすなあ!」

「うげっ!」

 自称乙女の白髪女がゴードの尻を蹴りつけた。
 軽く蹴っただけに見えたのだが、ゴードの巨体は大きく跳ねて海へと墜落した。

「副長が海に落ちたぞー」

「へいへい、さっさと引き上げやーす」

 大男が空を舞うというなかなかの異常事態に見えたのだが、船員達は慣れた様子でゴードを海から引き上げる。
 ゴードは濡れたシャツを脱いで絞りながら、何事もなかったかのようにマストの下まで戻ってくる。

「失礼しやした。えーと・・・姉御」

「わかったらいい。さっさとアレに説明してやれよお」

「へい」

 グレイスに頭を下げて、ゴードは俺の方を見上げた。

「旦那、心配しなくても略奪の手伝いをしろなんて言いやせん。俺達がとある島の財宝を手に入れる手伝いをしてほしいんですよ」

「財宝? 海賊の宝ってやつか?」

「へえ、そんなところです」

 ゴードは大きく頷いた。頷いた拍子に、ハゲ頭の上に溜まった海水がボタボタと落ちる。

「あっしらが財宝を手に入れるためには、二つの障害を排除しなければなりやせん。一つは財宝を守る守護者。もう一つは・・・」

「西の海に船を発見! 敵船だ!」

 ゴードの説明を若い船乗りの言葉が遮った。
 船乗りが見ている方角に目を向けると、赤い獅子の海賊旗を掲げた船が20隻以上こちらに向けて迫ってきていた。

「どうやら、もう一つの障害が来たようです。旦那、不本意かと思いますが一働きしてもらいやす」

 ゴードが手斧を取り出して俺に向けて投げつけてくる。
 寸分の狂いもなく放たれた手斧が、俺を拘束するロープだけを正確に切り裂いた。
    俺はクルリと回転して、船のデッキに両足で着地する。

「よっと、敵の海賊か。どっかで見たことある旗だな」

「獅子王船団。あっしらの宿敵ですよ」

「がははははははははっ! ちょうどいいぞお、面倒ごとがまとめて片付く! 皆殺しだあ!」

 高笑いするグレイスを見ていると、俺の表情は自然としかめっ面になってしまう。

「俺はまだ味方するなんて言ってないんだけどな!」

「敗者は勝者に従うもんだろお? 負けたんだから言う事をきけよ!」

「死んでないから負けじゃねえよ。それを言うなら、首を切られた時点でお前の方が負けてるだろ!」

 俺が言い返すと、グレイスは獣のように牙を剥いた。

「ああっ! 生意気だなあ!? やっぱりお前を食ってやろうかあ!?」

「やってみるかよ、今度は五体をバラしてサメのエサにしてやる。復活できるものならしてみやがれ!」

「婆様、旦那! 仲間割れは後にしてください! 敵が・・・」

 ゴードの言葉が終わる前に、敵の攻撃が飛んできた。
 火花をまき散らしながら弓矢のような物が飛んできて、俺とグレイスの間に突き刺さった。たしか棒火矢とかいう武器だ。

「ああっ、クソ! 邪魔するなら死にやがれ!」

「がははははは! 喰い合いの邪魔だよなあ!」

 俺は剣を取り、グレイスは拳を構えた。
 一度は殺し合った俺達の眼には、今から殺すべき共通の獲物が映し出されている。

 白鬼海賊団と獅子王船団。加えて俺が一人。
 南海の覇権を決定づける海戦の火蓋が切って落とされた。
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