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幕間 ディートリッヒ・マクスウェルの冒険
8.白鬼海賊団
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大海原を船が進んでいく。
船が波を切って水しぶきが舞う。潮騒と海鳥の鳴き声が混じりあって独特の音色を奏でている。
「・・・それで、俺はここで何やってんだ?」
そんな海を高い位置から見下ろして、俺はぼんやりとつぶやいた。
あの裏通りでの殺し合いで気を失い、気がついたら海の真ん中に立っていた。
いや、立たされているというのが正確か。
胴体に太いロープが巻きつけられていて、船のマストの上方に縛り付けられている。
辛うじて動かすことができる首を巡らして、視線を下へと向ける。
「おお、目を覚ましたなあ?」
「てめえか、俺をここに縛り付けたのは」
そこには見慣れた白髪の女がいた。さきほど殺し合ったばかりの化物女である。
化物女――グレイス・ドラコ・オマリと名乗っていたか。
彼女は血まみれになった白いドレスから着替えていて、今は踊り子が着るような赤いドレスを身に着けている。
大胆に背中と胸元が開いたドレスの隙間からは白い肌が日光にさらされている。
上から見下ろす形になっているため、俺の眼に背丈のわりに大き目な胸の谷間がくっきりと見えていた。
「・・・ちっ」
俺は思わず舌打ちをする。
一瞬、目の前の怪物のことを綺麗だと思ってしまった。何故だかわからないが、負けたような気分になる。
「それで? てっきり俺は喰い殺されるものだと思ってたんだが、なんで生かされてるんだよ、化物女」
「がはははっ、生きてることが不満かあ? 贅沢だなあ!」
グレイスは愉快そうに笑った後で、「しかし」と鋭く目を細める。
「私のことを化物女なんて他人行儀に呼ぶなよ。喰い合った仲じゃあないか。グレイスと呼びやがれよお」
「・・・そうか、グレイス。改めて聞くが、何で俺を生かしている?」
俺は睨みつけながら訊ねた。もちろん、少女の姿をした怪物は睨んだくらいで怯むわけもなく、嬉しそうに唇を釣り上げた。
「あのまま殺すには惜しいと思ったからなあ。強い男は好きだぞ? 私の役に立ってくれるのなら、なおも好きだなあ!」
「役に立つ・・・?」
「そうだなあ、これからせいぜい働いてもらうぞお?」
どうやら、俺は何らかの企みに利用されるために生かされているらしい。
「ドラコ・オマリ・・・知った名だよな。俺に海賊の仲間になれってか?」
改めて記憶を探ってみると、「ドラコ・オマリ」という名前はすぐに出てきた。ランペルージ王国でも最悪とされる賞金首の一人だ。
100年以上も前から大陸の南方を荒らしまわっている大海賊ドラコ・オマリ。
その正体を見て生きている者はいないとされているが、まさかこんな小柄の少女だなんて誰も思うまい。
(名前を世襲したのか・・・いや)
首を切り落とされてなお動き回っていたグレイスの姿を思い出して、俺は首を振る。
不死の怪物ならば、100年くらい生きていてもおかしくはない。
「別に海賊の手伝いをしろなんて言っちゃあいませんよ。旦那」
言い合いをしている俺とグレイスを見かねたのか、大柄な男が間に入ってきた。
ぶ厚い筋肉で全身を武装した大男。日焼けした坊主頭が日光を反射して黒光りを放っている。
いかにもな海賊の登場に、俺は「うわ・・・」と嫌そうな声を上げた。
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本日18時にもう1話更新します。
船が波を切って水しぶきが舞う。潮騒と海鳥の鳴き声が混じりあって独特の音色を奏でている。
「・・・それで、俺はここで何やってんだ?」
そんな海を高い位置から見下ろして、俺はぼんやりとつぶやいた。
あの裏通りでの殺し合いで気を失い、気がついたら海の真ん中に立っていた。
いや、立たされているというのが正確か。
胴体に太いロープが巻きつけられていて、船のマストの上方に縛り付けられている。
辛うじて動かすことができる首を巡らして、視線を下へと向ける。
「おお、目を覚ましたなあ?」
「てめえか、俺をここに縛り付けたのは」
そこには見慣れた白髪の女がいた。さきほど殺し合ったばかりの化物女である。
化物女――グレイス・ドラコ・オマリと名乗っていたか。
彼女は血まみれになった白いドレスから着替えていて、今は踊り子が着るような赤いドレスを身に着けている。
大胆に背中と胸元が開いたドレスの隙間からは白い肌が日光にさらされている。
上から見下ろす形になっているため、俺の眼に背丈のわりに大き目な胸の谷間がくっきりと見えていた。
「・・・ちっ」
俺は思わず舌打ちをする。
一瞬、目の前の怪物のことを綺麗だと思ってしまった。何故だかわからないが、負けたような気分になる。
「それで? てっきり俺は喰い殺されるものだと思ってたんだが、なんで生かされてるんだよ、化物女」
「がはははっ、生きてることが不満かあ? 贅沢だなあ!」
グレイスは愉快そうに笑った後で、「しかし」と鋭く目を細める。
「私のことを化物女なんて他人行儀に呼ぶなよ。喰い合った仲じゃあないか。グレイスと呼びやがれよお」
「・・・そうか、グレイス。改めて聞くが、何で俺を生かしている?」
俺は睨みつけながら訊ねた。もちろん、少女の姿をした怪物は睨んだくらいで怯むわけもなく、嬉しそうに唇を釣り上げた。
「あのまま殺すには惜しいと思ったからなあ。強い男は好きだぞ? 私の役に立ってくれるのなら、なおも好きだなあ!」
「役に立つ・・・?」
「そうだなあ、これからせいぜい働いてもらうぞお?」
どうやら、俺は何らかの企みに利用されるために生かされているらしい。
「ドラコ・オマリ・・・知った名だよな。俺に海賊の仲間になれってか?」
改めて記憶を探ってみると、「ドラコ・オマリ」という名前はすぐに出てきた。ランペルージ王国でも最悪とされる賞金首の一人だ。
100年以上も前から大陸の南方を荒らしまわっている大海賊ドラコ・オマリ。
その正体を見て生きている者はいないとされているが、まさかこんな小柄の少女だなんて誰も思うまい。
(名前を世襲したのか・・・いや)
首を切り落とされてなお動き回っていたグレイスの姿を思い出して、俺は首を振る。
不死の怪物ならば、100年くらい生きていてもおかしくはない。
「別に海賊の手伝いをしろなんて言っちゃあいませんよ。旦那」
言い合いをしている俺とグレイスを見かねたのか、大柄な男が間に入ってきた。
ぶ厚い筋肉で全身を武装した大男。日焼けした坊主頭が日光を反射して黒光りを放っている。
いかにもな海賊の登場に、俺は「うわ・・・」と嫌そうな声を上げた。
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