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幕間 ディートリッヒ・マクスウェルの冒険
7.海賊国家の王
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無数の島々からなる南洋諸島のうち、西方の海域にその島国はあった。
海賊国家『獅子王国』。
アメジスト島に首都を構えるその国は、他国に対する海賊行為によって勢力を広げた国家である。
その島は半分が火山からできており、平野部分が少ないために漁業以外の産業に乏しく、貧しい国であった。
そんなアメジスト島であったが、漂流してきた一人の錬金術師が火薬の製法を伝えたことで大きく情勢が変わることになる。
いち早く火薬を取り入れた島には海賊国家『獅子王国』が建国することになり、大陸南方の海を脅かすようになったのだ。
「なんだと! また、船が沈められただと!?」
島の中央にある宮殿にて。男の野太い怒声が轟いた。
その男の名前はガラハト・ブラッドペイン。獅子王国の現・国王であり、獅子王海賊団の総督をしている大海賊である。
いかつい顔に大きな刀傷をつくったガラハトは、怒りに任せて目の前の部下へと杯を叩きつける。
海賊国家である獅子王国にとって、略奪に使用する船は最大の財産である。それを沈められるというのは手足を切り落とされるにも等しい損失であった。
「ぐっ・・・」
「いったいどこのどいつだ! またドラコ・オマリの奴か!」
銀の盃が額にあたって部下の頭から血が流れる。それに構うことなく、ガラハトは感情のままに怒鳴り続ける。
船を沈めた下手人としてガラハトの頭に真っ先に浮かんだのは、獅子王海賊団の最大の商売敵であるドラコ・オマリという女海賊である。
彼女が率いる『白鬼海賊団』の船数はわずかに5隻。規模こそ50隻の略奪船を持つ獅子王海賊団の足元にも及ばないが、その強さは南洋諸島でも屈指であった。
船員一人一人が凄まじい強さを持った古強者であり、なかでも船長のドラコ・オマリに至っては本物の怪物である。
若き日に一度だけ彼女の暴虐を目にしたことがあるガラハトにとっても、ドラコ・オマリの存在は悪夢にも見るトラウマであった。
「い、いえ、どうやら商船の略奪に失敗して沈められたようです」
「なに? いったいどこの国の船だ?」
最近の商船は護衛を大勢乗せているため、略奪に失敗すること自体は珍しくない。しかし、返り討ちに遭って船まで失うことは稀である。
「ランペルージ王国の商船のようです。恐ろしく強い剣士が乗っていたそうで・・・その、船を剣で斬ったとか・・・」
「クソかお前はっ! そんなこと出来るわけねえだろうが!」
ガラハトは顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
火薬でも使われたのならまだしも、剣で船を斬るなんてできるわけがない。明らかに部下の報告は支離滅裂だった。
「てめえは・・・ふざけてるようならここで指詰めてくか!?」
「ひっ・・・そんなっ!」
「親分! 大変です!」
いよいよガラハトの堪忍袋に限界が来たところで、別の部下が宮殿へと飛び込んできた。慌てた様子の部下にガラハトは眉をしかめる。
「誰が親分だ! 陛下と呼べと言っただろうが!」
「す、すいやせん、陛下!」
「ちっ・・・それで、どうした!?」
「その・・・白鬼に動きが・・・」
「なんだと!?」
どうやら今度こそドラコ・オマリに動きがあったようだ。ガラハトの頭から沈んだ船のことが吹き飛んだ。
「サファイア王国に停船していた白鬼の船が、南に進路をとって進んでいったようです。あの方角には・・・」
「アレキサンドライト島・・・いよいよ動きやがったか!」
アレキサンドライト島は南洋諸島の最南端にある無人島である。
かつてとある古代文明が栄えた島には、目もくらむような財宝と魔具が眠っていると伝えられている。
島には無数の魔物が生息しているため、ガラハトもドラコ・オマリも取るに取れずに放置していた宝の山である。
「なんで今さらあの島に・・・まさか、島を攻略する糸口でも掴んだか?」
「どうしやすか、親ぶ・・・じゃなくて、陛下」
「ちっ、船の用意をしろ! 出せる船は全て出すぞ!」
ガラハトはすぐさま決断を下した。
ただでさえ白鬼海賊団には手を焼いているのだ。もしも彼らがアレキサンドライト島の財宝を手にしてしまったら、それこそ手に負えなくなってしまうだろう。
「わ、わかりやした! すぐに準備をしやす!」
「急ぎやがれ! あの化け物女め。この傷の恨み、ここで晴らしてやる!」
ガラハトは顔についた大きな刀傷を手の平で撫でて、憤怒の表情に顔面を歪めたのであった。
海賊国家『獅子王国』。
アメジスト島に首都を構えるその国は、他国に対する海賊行為によって勢力を広げた国家である。
その島は半分が火山からできており、平野部分が少ないために漁業以外の産業に乏しく、貧しい国であった。
そんなアメジスト島であったが、漂流してきた一人の錬金術師が火薬の製法を伝えたことで大きく情勢が変わることになる。
いち早く火薬を取り入れた島には海賊国家『獅子王国』が建国することになり、大陸南方の海を脅かすようになったのだ。
「なんだと! また、船が沈められただと!?」
島の中央にある宮殿にて。男の野太い怒声が轟いた。
その男の名前はガラハト・ブラッドペイン。獅子王国の現・国王であり、獅子王海賊団の総督をしている大海賊である。
いかつい顔に大きな刀傷をつくったガラハトは、怒りに任せて目の前の部下へと杯を叩きつける。
海賊国家である獅子王国にとって、略奪に使用する船は最大の財産である。それを沈められるというのは手足を切り落とされるにも等しい損失であった。
「ぐっ・・・」
「いったいどこのどいつだ! またドラコ・オマリの奴か!」
銀の盃が額にあたって部下の頭から血が流れる。それに構うことなく、ガラハトは感情のままに怒鳴り続ける。
船を沈めた下手人としてガラハトの頭に真っ先に浮かんだのは、獅子王海賊団の最大の商売敵であるドラコ・オマリという女海賊である。
彼女が率いる『白鬼海賊団』の船数はわずかに5隻。規模こそ50隻の略奪船を持つ獅子王海賊団の足元にも及ばないが、その強さは南洋諸島でも屈指であった。
船員一人一人が凄まじい強さを持った古強者であり、なかでも船長のドラコ・オマリに至っては本物の怪物である。
若き日に一度だけ彼女の暴虐を目にしたことがあるガラハトにとっても、ドラコ・オマリの存在は悪夢にも見るトラウマであった。
「い、いえ、どうやら商船の略奪に失敗して沈められたようです」
「なに? いったいどこの国の船だ?」
最近の商船は護衛を大勢乗せているため、略奪に失敗すること自体は珍しくない。しかし、返り討ちに遭って船まで失うことは稀である。
「ランペルージ王国の商船のようです。恐ろしく強い剣士が乗っていたそうで・・・その、船を剣で斬ったとか・・・」
「クソかお前はっ! そんなこと出来るわけねえだろうが!」
ガラハトは顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
火薬でも使われたのならまだしも、剣で船を斬るなんてできるわけがない。明らかに部下の報告は支離滅裂だった。
「てめえは・・・ふざけてるようならここで指詰めてくか!?」
「ひっ・・・そんなっ!」
「親分! 大変です!」
いよいよガラハトの堪忍袋に限界が来たところで、別の部下が宮殿へと飛び込んできた。慌てた様子の部下にガラハトは眉をしかめる。
「誰が親分だ! 陛下と呼べと言っただろうが!」
「す、すいやせん、陛下!」
「ちっ・・・それで、どうした!?」
「その・・・白鬼に動きが・・・」
「なんだと!?」
どうやら今度こそドラコ・オマリに動きがあったようだ。ガラハトの頭から沈んだ船のことが吹き飛んだ。
「サファイア王国に停船していた白鬼の船が、南に進路をとって進んでいったようです。あの方角には・・・」
「アレキサンドライト島・・・いよいよ動きやがったか!」
アレキサンドライト島は南洋諸島の最南端にある無人島である。
かつてとある古代文明が栄えた島には、目もくらむような財宝と魔具が眠っていると伝えられている。
島には無数の魔物が生息しているため、ガラハトもドラコ・オマリも取るに取れずに放置していた宝の山である。
「なんで今さらあの島に・・・まさか、島を攻略する糸口でも掴んだか?」
「どうしやすか、親ぶ・・・じゃなくて、陛下」
「ちっ、船の用意をしろ! 出せる船は全て出すぞ!」
ガラハトはすぐさま決断を下した。
ただでさえ白鬼海賊団には手を焼いているのだ。もしも彼らがアレキサンドライト島の財宝を手にしてしまったら、それこそ手に負えなくなってしまうだろう。
「わ、わかりやした! すぐに準備をしやす!」
「急ぎやがれ! あの化け物女め。この傷の恨み、ここで晴らしてやる!」
ガラハトは顔についた大きな刀傷を手の平で撫でて、憤怒の表情に顔面を歪めたのであった。
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