俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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幕間 ディートリッヒ・マクスウェルの冒険

2.海を裂く銀剣

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「ギイイイイイイイイイイイイ!?」

「うるせえんだよ! 頭に響く声で吠えてんじゃねえぞ!」

 俺、ディートリッヒは船の甲板を蹴って目の前の男に斬りかかった。
 浅黒い肌にヘンテコな赤い入れ墨をした男は、入れ墨以上に真っ赤な血を噴き出して海へと落ちる。

「うえ・・・頭ガンガンする・・・」

 どうやら昨晩は本当に飲みすぎたようだ。初めての船旅ではしゃぎ過ぎた。
 頭の中で、完全武装の重騎士が剣やら盾やら打ち合わせているような気分だ。

「こ、殺せええええエエエエエ! その男、ぶち殺して海神様に捧げろおおおおおオオオオオオオ!」

「うるせえ、うるせえ、うるせえ! ゲロ吐きかけるぞクズどもが!」

「ぐげええええええええエエエエエ!」

 イレズミ男どもが槍やら斧やらで襲いかかってくるのを、斬っては捨て、斬っては捨てを繰り返す。
 迫りくる刃を躱して、弾いて、すれ違いざまにイレズミ男どもの身体を解体していく。

「ギイイイイイイイ!?」

「うるせえよ、お疲れさん、そして死ね」

 腕を切り落とされて騒ぐイレズミ男を蹴り飛ばして船から落とす。
 イレズミ男が落とした銛を拾って、傭兵と斬り合っている男の胸へと投げつける。

「ギヒッ!?」

「た、助かった!」

「感謝しろよ。そして酒をおごれ」

「まだ飲むのかよ! 二日酔いじゃなねえのか!?」

「おごらねえなら手前も殺す。死ねや」

「お、おごります! 樽ごとおごってやるから!」

 おお。冗談のつもりだったんだけど、言ってみるもんだ。

「ひゅー、今日はたくさん飲めるぜ」

「きひイイイイイ、死ねエエエエエエ!」

「お前が死ねや。酒の肴になれ」

 槍を突き込んできたイレズミ男の首を斬り飛ばす。
 真っ赤な血が飛び散って、俺の頬を赤く濡らしていく。

「悪くないねえ。やはり修羅場は良い」

 人を斬った後の酒は、格別にうまい。それは20年の人生で俺が学んだ、数少ないことである。
 ましてや、相手が弱い奴を殺して楽しむクズとなればなおさらだ。

「な、なんだこいつはアアアアアアア!」

 二日酔いでふらついてたせいで、何人斬ったか数え損ねた。
 まあ、イレズミ男は半分以下になってるみたいだし10人以上は斬っただろう。

「撤退! 撤退するぞおおおおオオオオオ!」

 イレズミ男が船に逃げ帰っていく。
 貿易船と連結したロープを切り落とし、2隻の海賊船が離れていく。

「た、助かった・・・!」

「勝った! 生き残ったぞ!」

 船乗りと傭兵達が喝采の声を上げる。
 絶体絶命の危機を乗り切った船が喜びに包まれた。

「・・・いや、ダメだろ」

「へ?」

「敵を逃がしておいて、なーにを喜んでるんだよ。敵は一人残らず殺し尽くさなきゃ負けと同じだろうが」

 俺は船の縁へと立って剣を構える。切っ先を真っすぐ、海賊船に向ける。
 すでに海賊船は20メートルは離れていて、海流に乗ったのか距離はどんどん開いていく。

「あ、アンタなにをやって・・・」

 船乗りが声をかけてくるが、俺は構わず標的を見据えた。

 そして――

「ぶった斬る、【白銀閃剣ランスロット】!」

「なっ・・・!」

 俺は剣を振り抜いた。
 銀色の閃光が海を切り裂くように走り、逃げる海賊船の1隻を真っ二つに両断する。

「なあっ! この距離から斬りやがった!?」

「はははっ、まずは1隻。さて、それじゃあもう1隻・・・・・・・・・・・・・・うげえっ!」

「うおおおおおおおおおっ! は、吐きやがった!」

 久しぶりに本気で剣を振ったせいか頭が360度回転したような立ち眩みに襲われる。胃袋が激しくシェイクされて、青い海めがけて胃の中身を全て吐きつくす。
 近くにいた船乗りが俺の吐瀉物をもろに喰らって悲鳴を上げる。

「き、気持ち悪い・・・殺す、いや、死ぬわ・・・」

 逃げ去っていく海賊船を見送って、俺は船の甲板へと突っ伏した。

「は、ははははは・・・海賊殺しの英雄も酒の力にゃかなわないってか? 本当に、何なんだよコイツ・・・」

 やけっぱちのように船乗りが口にしているのを聞きながら、俺は意識を闇の中へと手放すのであった。
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