俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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第2章 帝国騒乱 編

52.偶像破壊

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 立て続けに剣戟の音が鳴り響く。
 サイム・フルカスによって呼び出された【守護石兵ゴーレム】は、次々と石の体を打ち砕かれて床に倒れていった。

「馬鹿な! いったい何なのだっ、お前たちは!」

 目の前で起こっている現実を受け入れることができなかったのか、フルカスが驚愕と絶望の叫びを上げる。

「【無敵鋼鉄ジークフリート】!」

 俺が振るった剣が【守護石兵】を切りつけた。
 頑強なゴーレムは剣で斬りつけたくらいでは両断には至らない。しかし、斬りつけたのは魔法の力を断ち切る【無敵鋼鉄】の剣である。剣の能力によって石の巨人はたちまち木偶人形へと成り下がり、その場に崩れ落ちて沈黙する。

「【海魔竜神レヴィアタン】! 『海蛇シースネーク』!」

 シャナがくるくると槍を回転させる。
 宙を切る槍の動きに合わせて、穂先から水の蛇が勢いよく放たれる。石の胴体が圧縮された水蛇に撃ち抜かれて、食いちぎられたようにえぐられる。胴体部分の装甲を砕くと【守護石兵】の内から赤い宝石のようなものが露わになった。
 どうやらそれは石の巨人にとって重要な急所であったらしく、水蛇が宝石を砕いた途端に【守護石兵】が倒れ込んだ。

「どうやらこれが弱点のようだけど・・・エスティア、君にこれが砕けるかい?」

「必要ない! 私は私のやり方で戦う!」

 揶揄からかうようなシャナの言葉に叩きつけるように言い返して、エスティアが剣を振りかぶる。エスティアの剣は俺やシャナの武器とは違って魔具ではない。

「ふっ、はっ、やあっ!」

 エスティアの剣が一撃、二撃と【守護石兵】に叩きつけられる。的確に足の関節部分だけを狙った斬撃は、雨粒が石に穴を開けるように石の身体を少しずつ削っていく。やがて関節部分を破壊されたゴーレムは床に倒れ込んで立ち上がれなくなってしまった。

「どうだ!」

「ふふ、相変わらずお綺麗で正直そうな剣だな」

 胸を張って手柄を誇るエスティアに、シャナは苦笑で答えた。
 寸分たがわぬ箇所に正確に剣をぶつけるエスティアの剣技は恐ろしく精密で、まっすぐである。
 冒険者になる以前、騎士であった自分を負かした剣は今も変わらず美しい。それを改めて確認したことでシャナの口元がほころんだ。

「言っていろ! 次に戦うときには私が勝つからな!」

「そうか、それは楽しみだ」

 シャナとエスティアは背中を合わせてゴーレムへと立ち向かった。

「お二人とも楽しそうですね。状況を分かっているのでしょうか?」

 呆れたように言ったのは、俺の専属メイドであるサクヤだった。
 針と毒を武器として使用する彼女の戦い方では、人工物であるゴーレムに対して有効打とはなりえない。
 しかし、サクヤは暗殺者としてのスピードを最大限に生かしてゴーレムの間をすり抜けて翻弄していく。
 サクヤめがけて拳を振り下ろしたゴーレムであったが、目にも止まらぬ速さで駆け抜けるサクヤを捉えることができず、同士討ちをしてしまう。

「ディンギル様、そろそろよろしいのではないでしょうか?」

「ああ、頃合だな」

 すでに出現した【守護石兵】のほとんどが俺達の手によって倒されていた。まだ動いている物もいるようだが、すぐにシャナとエスティアに倒されるだろう。
 残りのゴーレムは二人に任せて、呆然と立ちすくんでいるフルカスへと目を向ける。

「そんあ・・・あれは神の塔の守護者だぞ? それがこんなに簡単に・・・」

「古代兵器とはいっても、しょせんは大量生産の人形だろうが。こんな物で俺達を止められると思ったら大間違いだぜ」

「ひっ!」

 抜き身の剣を持って近づいてくる俺に、フルカスは尻もちをついて後ずさる。

「ま、待ってくれ! 私は陛下の命令通りに動いただけなんじゃ! 帝都をこんなふうにしたり、雷を落としたりなんて望んでない!」

「はっ、お前ごときにこの国で起こっている事態の責任を取らせるつもりはない。そんなことより、俺の質問に答えてもらおうか」

「ひいいいいいいいいいいっ!?」

 首元に剣を突き付けてやると、髭面の老人はいっそ憐れになるほどの悲鳴を上げた。その惨めさときたら、相手がグリードの腹心でなかったのなら同情して剣を引いてしまったぐらいだ。

「グリード・バアルはこの塔の頂上にいるんだよな? どうやって頂上まで行けばいい?」

 さきほど、この老人が何もない空間へと転移してきたのを俺達は目にしていた。おそらく、【天翔翼靴】と似た力の装置がこの塔に組み込まれているのだろう。
 どんな罠が仕掛けられているかもわからない塔を、1階1階登っていくのはさすがに面倒である。転移装置があるのならば、ぜひとも利用したかった。

「ぐ、グリード陛下から貸し与えられた管理者権限を使ったんじゃ! これを使えば、1階から最上階まで一瞬で行くことができる!」

「へえ、それじゃあその管理者権限とやらで、俺達のことも送って行ってくれるよな?」

「ひいいいっ!」

 ポンポンと剣の腹で皺くちゃの頬を叩いてやると、フルカスは盛大に顔を引き攣らせた。

「それがダメなんじゃ! さっきから最上階に行こうとしてるのに、転移がまったく発動しない。おそらく、陛下から管理者権限を取り上げたみたいで・・・」

「あ?」

 フルカスの言葉を遮るように、塔の1階に突然の光が生じた。その光は床に現れた魔方陣から放たれていた。

「え?」

「姫様!?」

 魔方陣が発生したのは、塔の入口で俺達の戦いを見守っていたルクセリアの足元だった。
 異変に気がついたエスティアが駆けつけるよりも一瞬早く、ルクセリアの身体を紫色の光が包み込む。

「くっ・・・しまった!」

 俺も遅れて叫ぶが、時すでに遅し。
 光が止んだときには、美貌の皇女の姿は完全に消え失せていたのであった。
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