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第2章 帝国騒乱 編
51.愚者は愛を叫び破滅と踊る
しおりを挟む『侵入者アリ! 侵入者アリ! 警戒セヨ! 警戒セヨ!』
「何ですか、どいつもこいつも邪魔ばかりして!」
バベルの塔の最上階に突然、鳴り響いた警戒音。グリード・バアルは顔をしかめて身体を起こした。
グリードの身体の下には金髪の少女がぐったりと横たわっている。先ほどまではできるだけ優しく可愛がっていたのだが、途中で飽きてきたので乱暴を始めたところだった。少女は顔に青アザをいくつも作り、口の端からは血の泡が流れている。
「侵入者? どうせ馬鹿な嘆願に来た役人でしょう。適当に追い払いなさい」
グリードが適当に命じると、メイド服を着た女性の姿をした【守護石兵】が頭を振った。
『排除ヲ試ミタ戦闘用ノ【守護石兵】スデニ5体、破壊サレテイマス。ゴ指示ヲオ願イシマス』
「何?」
【守護石兵】は1体が兵士10人分以上の戦闘力を持っている。その拠点防衛能力は絶大であり、無謀にもグリードの命を狙った刺客が何人も倒されていた。
「馬鹿な! 映像を出しなさい!」
『了解シマシタ』
グリードの前方に四角い窓のようなものが現れる。窓にはバベルの塔の1階で起こっている光景が映し出された。
「おお・・・!」
瞬間、グリードは歓喜の声を上げた。
「おおおおおおおおっ! ルクセリア! ああ、わが愛しい花嫁よ!」
そこに映し出されたのは5人の男女だった。
そのうち男と3人の女性が【守護石兵】と戦っている。いずれも人間離れした動きで石の巨人と戦っていたのだが、グリードの目についたのは残る最後の女性である。
グリードの最愛の女性。天使のごとき美貌を持った神の芸術品。ルクセリア・バアルの姿だった。
「わざわざ君の方から会いに来てくれたんだね! 嬉しいよ! やはり私たちは相思相愛、運命の神に祝福された魂の恋人だったんだ! ははは、ははははははっ!」
狂ったように笑い転げるグリードは、次の瞬間にはピタリと笑い声を止める。コインの裏表が入れ替わるように今度は怒りの表情に変わる。
「・・・お前もいるんだなあ! ディンギル・マクスウェル! よくも私の前に、私とルクセリアの愛の巣に足を踏み入れてくれたな!」
「うげっ・・・!」
グリードが力任せにこぶしを振り下ろす。八つ当たりの標的になったのはベッドに横たわっていた金髪の少女である。骨ばった拳が少女の白い腹にめり込んで、口から吐瀉物がまき散らされる。
「お前ごときがっ! 私の視界に! 何を、入っている! ルクセリアの、そばに! 近寄るなあああああ!」
ゴスッ。ゴスッ。ゴスッ。
ゴスッ。ゴスッ。ゴスッ。ゴスッ。ゴスッ。ゴスッ。
「がっ・・・ぎゃっ・・・やめ、おねがっ・・・ぎっ・・・」
立て続けに少女の腹にグリードの拳が撃ち込まれる。憐れな少女の口からは必死の懇願が漏れるが、グリードは構わず手を振り下ろし続けた。
見るに堪えない暴力はそれから5分以上も続けられ、ようやく気が済んだのかグリードの拳が止まる。
「はあっ、はあっ、はあっ・・・」
「っ・・・・・・・っ・・・・・・」
グリードの肩が疲労から激しく上下する。対照的に、殴られ続けた少女は短い呼吸を絶え絶えに虫の息となっている。
「・・・排除しなさい。塔のすべての【守護石兵】を動員して構いません。彼女、ルクセリア以外は全員バラバラにしてあげなさい」
『承知シマシタ。【守護石兵】、全テ動員シマス』
メイド型のゴーレムが恭しくお辞儀する。塔の各フロアを警護する【守護石兵】が一斉に動き出し、ガタガタと塔に揺れが生じる。
「・・・ああ、それとそこのゴミを処分しておきなさい。私はルクセリアを迎えますから」
『承知シマシタ』
「っ・・・・・・」
メイド型ゴーレムがベッドに横たわった少女の身体を抱き上げる。そのまま壁際へと歩み寄り、窓を開けて少女を放り投げる。
「あっ・・・・・・」
窓から落ちる瞬間、なかば気を失っていた少女のボコボコになった顔面――その腫れ切った瞼がわずかに開いて、栗色の瞳がメイド型ゴーレムを見る。
「・・・・・・」
『・・・・・・』
憎悪と絶望に彩られた瞳を、メイド型ゴーレムは無感情に見返した。
少女の身体は塔の下へと吸い込まれるように消えていき、地面に大きな赤いシミを作る。
『任務、達成イタシマシタ』
機械じみた声とともに、最上階の窓が閉じられた。
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