俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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第2章 帝国騒乱 編

49.宮廷、お宅訪問

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「この中に隠し通路があるんですけど・・・」

 案内されたのは帝都の郊外にある古井戸だった。辺りには廃屋が並んでいて、帝都がゴーストタウン化する以前からほとんど人通りはなかっただろう。

「なるほど、ここなら隠し事をするにはもってこいだな」

 俺は感心して頷いて、一足先に井戸に降りる。それほど深くはない井戸はすでに水が枯れている。井戸の側面にある岩を動かすと横穴が現れた。
 四人の女性たちが順番に井戸の底へと降りてくるのを待って、俺は横穴へと足を踏み入れた。暗く狭い通路を30分ほど進んでいくと、やがて通路の行き止まりにたどり着いた。

「天井の辺りを探ってください。取っ手があるはずです」

「ここだな」

 ランプの明かりを頼りに天井を探ると、コの字型の取っ手を見つけた。取っ手を掴んで横にスライドさせると、暗い隠し通路へと明かりが差し込んできた。

「うっ、少し離れていろ。埃を払う」

 光と一緒に落ちてきた埃や煤、蜘蛛の巣を手で払って外に出ると、そこはどこかの部屋の暖炉の中だった。

「父が使っていた書斎です。父が亡くなってからはほとんど誰も足を踏み入れていないはずです」

「ああ、誰もいないみたいだ。みんな出てきていいぞ」

「はい、失礼します」

 ルクセリアの手を引いて隠し通路から引っ張り上げる。他の3人は冒険者と暗殺者、騎士という戦闘職だけあって自力で軽々と這い上がってくる。
 主を失っている部屋は閑散としていて、本棚に片付けられている本さえもどこか寂しげに見える。
 ルクセリアもしばし、部屋の中を懐かしそうに眺めてから口を開いた。

「【雷帝神槌】は王墓に封印されていたはずです。ここからすぐ傍ですから、皆さん行きましょうか」

「案内は任せたぞ、ルクセリア」

「はい!」

 ルクセリアが嬉しそうにうなずいて俺達を先導して歩き出した。その背中を追いかけながら周囲の気配を探る。

「・・・静かだな」

 これだけの規模の宮殿であれば、それなりに多くの使用人がいるはず。それなのに未だに誰とも行き交わなかった。

「先の見える者はすでに帝都から脱出してしまったようです。ここに残っているのはよほど皇族への忠誠心が高い者か、さもなければ他に行くあてのない者だけです」

 俺の疑問にサクヤが答えた。
 宮廷に仕えていた使用人でさえも帝都とグリードを捨てて逃げ出した。この宮廷の主となったあの男は、それに対して本当に何も感じていないのだろうか?

「はっ、いよいよこの国も死にかけてるな。近衛騎士団はどうした?」

「ラディン・サラザールはまだブリテン要塞から帰還していないようです。何かと理由を付けて帰還を先延ばしにしているようですね」

「ふむ、それは一安心だ。私も父と死合うのは心苦しかったからな」

 サクヤの補足にシャナが安堵の息をついた。どうやら、この戦闘狂の美女も父親と戦うのは気が引けるらしい。

「孫の顔を見せるという約束を守っていないからな。それまでは殺してやれないな」

「・・・約束を果たした後も殺さないでやれ。親殺しは大罪だぞ」

「ふむ、そうなのか? 子が親を超えていくというのは親としても本懐だと思うのだが・・・」

 納得がいかないと言わんばかりの表情をしているシャナに呆れながらも、俺達はそのまま廊下を進む。大理石の柱が並ぶ豪奢な廊下を進んでいくと、大きな扉が見えてきた。

「ここです。ここに王墓が・・・あったはずなんですけど」

「これは・・・なんと・・・」

 扉の外の変わり果てた光景を目にしてルクセリアが呆然となった。横にいるエスティアも息をのんで言葉を失う。
 歴代の皇帝が奉じられていた王墓は無残なガレキの山となっていた。そして、そのガレキに囲まれるようにして巨大な建築物ができている。

「ここがバベルの塔の入口か。まるで魔物のアギトだな」

 身長の2倍以上もある塔の門を見て俺は苦笑した。
 この門の先、巨大な塔の頂上に討つべき敵がいるはずだ。

「さあ、断罪の時間だ。せいぜい安い首を洗って待っていろよ、グリード・バアル」

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