俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

文字の大きさ
上 下
62 / 317
第2章 帝国騒乱 編

46.いざ帝国へ!

しおりを挟む

 魔具【天翔翼靴】によって帝国に乗り込むことが決まり、俺は一人の少女を別荘へと呼び寄せていた。
 俺のかつての婚約者であるセレナ・ノムスのなれの果て――『鋼牙』所属の巫女カンナである。

「その方はどなたでしょうか?」

 初顔合わせとなるルクセリアが首を傾げて訊ねてくる。白い髪に着物という見慣れない衣装を着たカンナの姿にやや面食らっている。

「ああ、この子は俺のなじみの占い師だ。俺にとっては生まれて初めての遠征だからな。武運を占ってもらおうと思ってな」

「カンナ、です。占い師、やってます・・・・・・にゃー」

「にゃ、にゃあ?」

「ああ・・・気にしなくていい。この子は先祖が猫なんだよ」

 不慮の事故というか完全に俺のせいなのだが、カンナは時折おかしな鳴き声を上げるときがある。

「そ、そうなんですか。異国には猫の血を引いている方がいるんですね。勉強になります」

 俺が五秒で考えた嘘を真に受けて、ルクセリアは感心したように頷いている。
 今更ではあるが、この娘は頭が良いわりに世間知らずがひどい。いつか悪い男に騙されてとんでもない目に遭わされそうだ。

(その悪い男が俺であることを祈ろう)

「さて・・・それはさておき、カンナ。この魔具を見て欲しいんだが」

「・・・わかり、ました」

 俺は布に包まれた【天翔翼靴】をカンナに手渡した。カンナは透明な水晶を布越しに持って、じいっ、と穴が開くほど真剣に見つめる。

「・・・翼を持つ、神・・・ヘルメス・・・転移能力、5人、飛べる・・・帝国・・・行ける・・・でも、案内人が、必要・・・あと1回・・・それで、砕ける・・・」

「一度に転移できる定員は5人まで。使えるのはあと1回・・・ということでしょうか」

「そうみたいだな」

 サクヤの確認の言葉に俺は頷いた。
 最近になって気づいたことなのだが、巫女としての素養に目覚めたカンナには未知の魔具を鑑定する能力があった。
 魔具というのは古代魔法文明の遺産であり、多くの場合、使用方法がわからない物ばかりである。そのため、使い方がわからずに死蔵されている魔具が山ほどあり、それらの詳細を鑑定する能力は非常に貴重であった。

「これだけ盛大に割れちまってるから使えるか不安だったが、どうやら問題なさそうだな」

「しかし、使えるのはあと1回です。一度、行ったら帰ってくることができませんよ?」

「帰りは徒歩か船になるな。せっかくだからゆっくり観光させてもらおうか」

 帝国相手に初陣をしてから5年になるが、俺は一度として帝国に足を踏み入れたことはなかった。敵の居城を物見遊山というのも悪くはないだろう。

「問題は案内人だな。帝国に行ったことがある奴に同行してもらわないとな。まあ、シャナ辺りを連れてけば・・・」

「私が行きます!」

 俺の言葉を遮り、ルクセリアがぴしゃりと言う。
 驚いて彼女の顔を見ると、天使の美貌が真剣な表情でこちらを見つめてくる。

「この騒動は全てバアル皇家が引き起こしたもの。ならば、バアル皇家の人間である私が収めなければいけません! 私はこれまで、宮廷の奥で育って国のために貢献する機会を得られませんでした。最後に帝国のために働く機会をください!」

「それは・・・」

 俺はやや言葉を濁す。ルクセリアの瞳には悲痛な決意の色が浮かんでいる。
 こういう目をした奴は過去に何度か見てきた。自分の命を投げ出してでも何かを成し遂げようとする人間の目だ。

「・・・ルクセリア。君に全く責任がないとは言わない。人間は誰しも生まれに見合った責任というものがあるからな。しかし、君がつまらない責任感で自分を犠牲にするつもりだったら、連れていくことは出来ないぜ?」

「でも・・・」

「どうしても連れて行って欲しいのなら、これは貸しだ。君の命を救ったことも含めて、まとめて返してもらう。手前勝手に死んで終わりなんて思うなよ?」

「・・・そうですね。命を救ってもらっておいて、恩も返さずに死ぬのは不義理ですよね」

 ルクセリアは花がほころぶように笑う。透き通った、綺麗な笑顔である。

「わかりました。必ずやご恩はお返しします。今の私が持っているもの、未来に手にいれるもの、すべてを貴方に捧げます」

「結構、実に結構。たっぷりじっくり取り立ててやるから覚悟しておけ」

「ふふ、わかりました」

 なぜか嬉しそうに笑っているルクセリアは、自分がとんでもない契約を結んでしまったことに気がついていないのだろう。
 言質を取ったことだし、この騒動が片付いたら骨の髄までしゃぶりつくしてやろう。

「それでは帝国への決死隊はディンギル様とルクセリア様。私――サクヤと・・・」

「無論、私も征こう」

「姫様が行くなら護衛の私も行くぞ!」

 バン、と扉が勢いよく開いて、シャナとルクセリアの付き人、エスティア・サブナクが飛び込んできた。

「私も行きたいところですが・・・足手まといなので皆さんの無事をお祈りしています」

 廊下には悔しそうな表情を浮かべているもう一人の付き人、ルーナの姿もあった。どうやらこの帝国三人娘はそろって盗み聞きをしていたらしい。

「・・・おどらされた、人の群れ・・・古代兵器、ゴーレム・・・雷・・・落ちる・・・きれる・・・気をつけて、ね?」

 カンナが俺の傍にトコトコ歩いてきて、上目遣いで言ってくる。どうやら心配をしてくれているようだ。

「ああ、ありがとうよ。カンナ」

「にゃあ、にゃあ」

 俺が頭を撫でてやると嬉しそうにカンナが鳴いた。表情はあまり変化がないが、いい具合にこの娘も仕上がってきている。

「むう・・・ずるいです」

「ディンギル様、私の頭も撫でるべきかと」

 ルクセリアとサクヤが揃って不満げな表情で詰め寄ってくる。サクヤはともかくとして、なぜルクセリアまで?

「さて、それじゃあ帝国に旅行といこうか! お土産はグリード・バアルの首で決まりだ!」

 かくして、俺達5人の帝国行きが決まった。
 150年におよぶランペルージ王国とバアル帝国の戦争。その最後の戦いが始まるのであった。
しおりを挟む
感想 1,043

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。