俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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第2章 帝国騒乱 編

45.無茶で杜撰な暗殺計画

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「・・・と、いうことです。帝国はなかなかの混乱のようですね」

「20万って・・・想像するのも馬鹿げてる数字だな」

 サクヤからの報告を受けて、俺は頭痛を堪えるようにこめかみを指で押さえた。
 帝国ではグリード・バアルが強引に皇帝となり、【雷帝神槌ゼウス】の力を使って独裁政治を行っていた。帝都周辺の土地の枯渇も進行しているようで、農作物にも影響が出始めていた。

 おまけに帝国では大規模な徴兵が行われているらしく、15歳以上の男性はこぞって兵士として集められている。すでに5万の兵が帝都に集結しており、最終的には20万近い兵が集まる予定らしい。

「それだけの兵士の装備をどうやって整えるつもりなんだよ? それに兵糧だって・・・いや、答えなくていい。わかった」

 サクヤに訊くまでもなく答えにたどり着いてしまった。
 現在の帝国では20万の兵士を養うほどの兵糧を集められるわけがない。帝国内部で用意できないのならば、現地調達するしかないだろう。

「あの野郎、うちの領地で略奪するつもりか! 舐めたことを・・・!」

「・・・ディンギル様」

「・・・兄が申し訳ありません」

 部屋の中にはサクヤとルクセリアの二人がいる。
 サクヤはいつもどおりの無表情。ルクセリアは申し訳なさそうな表情をしている。

「しょせんは民兵、マクスウェル家の兵士の敵ではないかと思いますが」

「負けるなんて思っちゃいないさ。しかし、戦が数なのは事実だ。それに20万の兵士・・・いや、暴徒の集団が領地に入ってくるだけでもどれだけ損害が出るかわからないぜ」

 敗走した兵士が周辺の村や町に押し寄せる可能性はあるし、山賊や夜盗に身を落とすことは十分に考えられる。討ち取った敵兵の死体を始末するだけでもどれだけ時間がかかるかわからない。

「・・・さすがにこれは無視できないな。これ以上、あの馬鹿皇子の相手をしていたら金と時間と兵士がいくらあっても足りやしない。ここは先手を打たせてもらおう」

「帝国に攻め込むのでしょうか。しかしそれでは・・・」

 ルクセリアが不安そうに言う。
 どれだけ帝国が混乱していたとしても、グリードの手中には【雷帝神槌】がある。攻め込めば手痛い反撃を食らうのは目に見えている。

「いえ、ここは暗殺がよろしいかと。私に命じていただければすぐにでも・・・」

 シャキン、と毒針を構えるサクヤ。俺は首を横に振り、

「暗殺は暗殺に違いないが、【鋼牙】は動かなくていい・・・グリード・バアル。あの男は俺が殺す」

「は?」

 俺の言葉にサクヤとルクセリアが揃って目を丸くする。
 まがりなりにも辺境伯家の次期当主である俺が暗殺者になろうというのだから、当然の反応だろう。

 しかし、俺も冗談は言っていない。
【鋼牙】からの報告により、グリード・バアルはバベルの塔に籠もってほとんど出てこないと聞いている。塔の中は【守護石兵ゴーレム】という魔具が警備をしており、いかに有能な暗殺者である【鋼牙】でもグリードの暗殺は至難だろう。

「そんな! ディンギル様、いくら何でもそれは無謀です!」

「それに、どのようにして帝国まで行くのでしょうか? ディンギル様は帝国内では指名手配をされておりますし、途中にはいくつも関所があります。野山を通れば見つからずに帝都までたどり着けるかもしれませんが、時間がかかり過ぎてしまいます」

 二人が仲良く、俺の無謀を止めてくる。
 さすがにルクセリアがマクスウェル家に滞在するようになって随分と経っているため、なかなか二人の息も合ってきている。

「ま、自分でも馬鹿なこと言ってると思うけどな。親父にばれたら絶対に卒倒する」

 苦労性の父親の顔を思い浮かべて、俺は苦笑した。
 しかし、実を言うと帝国に乗り込んでこの手でグリード・バアルを討ち取るというのは以前から決めていたことである。

(俺もまだまだガキが抜けないな。あの程度の男を斬り損ねたことが、自分でも驚くほどはらわた煮えくりかえっている。追いかけて首を切り落としてやらないと気が済まない)

 親父には申し訳ない限りだが、俺はまだまだ大人になれそうにない。近々、帝国に旅行に行くことになるだろう。

「どちらにしてグリード・バアルを放っておくわけにはいかないからな。せっかく片道の路銀ももらっていることだし、お招きに応じさせてもらおうじゃないか」

「路銀、ですか?」

 ルクセリアが首を傾げた。
 俺は布に包まれたそれを取り出して机の上に置いた。

「それは・・・」

「君のお兄さんの忘れ物だ。これを使えば、すぐにだって帝国に行けるはずだ」

 ヒビの入った透明な宝玉。それはグリード・バアルがブリテン要塞から逃走するのに使用した転移の魔具【天翔翼靴ヘルメス】であった。
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